近年のクルマは、どれも優秀で悪いところをあまり感じない。それはいいことなのだが、逆に言えば、無個性でどのクルマも同じに見え、つまらないと感じている人が多いのではないだろうか。
こんな時代に、飛び道具といえるような一芸に秀でたクルマはあるのだろうか? その一芸だけで買う! と唸ってしまうクルマははたして存在するのか? モータージャーナリストの永田恵一氏が解説する。
小さいことはいいことだ!? やっぱり扱いやすいオススメ5ナンバー車
文/永田恵一
写真/トヨタ、日産、ホンダ、スバル、三菱、スズキ、ダイハツ
【画像ギャラリー】一芸に秀でる者は多芸に通ず!? ひとつ突き抜けた強烈個性を誇る愛すべきクルマたち
■ココが一芸→WLTCモード燃費36.0km/Lは誰も追いつけない!?/燃費王者ヤリスハイブリッド
トヨタヤリスハイブリッド。軽自動車を含めた日本で買えるクルマにおいて燃費NO.1というのは立派な個性だ
のっけからつまらないと思われるかもしれないが、これほどの一芸は、今の時代にピッタリな一芸ではないだろうか?
ヤリスハイブリッドはカタログに載るWLTCモード総合燃費が最良値で36.0km/Lと、先日フルモデルチェンジされたアクアと僅差ではあるが、軽自動車を含めた日本で買えるクルマにおいて燃費NO.1である。
ヤリスハイブリッドは実用燃費でも30km/L近くを出すことはそう難しくなく、ここまで燃費がいいと「生産の際に使う資源なども含め、長期的に見た総合的な環境負荷も世界一小さいのではないか」と感じるほどだ。
また、ヤリスはハイブリッドを含めリアシートは狭いが、その代わり全体的にスポーティな仕上がりとなっている点も個性的だ。
■ココが一芸→ソフトウェアでクルマを自分に合わせられる/GRヤリスモリゾウセレクション
トヨタのサブスク『KINTO』で取り扱いを開始したGRヤリス“モリゾウセレクション”。顧客に合わせて最新のソフトウェアを反映させていくことでより走りをユーザーに合わせる
トヨタが展開するクルマのサブスクリプション(定額利用)であるKINTOに、KINTO専用車として最近加わったGRヤリスモリゾウセレクションは、見た目は豊田章男社長がモリゾウの名前でドライバーを務め、スーパー耐久に参戦しているルーキーレーシングとのコラボ仕様といったイメージだ。
しかし、モリゾウセレクションにはレーシングカーの開発に通じる、ソフトウェアの更新による「走る、曲がる、止まる」というクルマの基本性能の向上と、ソフトウェアの変更により走りをユーザーに合せる「パーソナライズ」というモリゾウセレクションだけの特典がある。
最近話題になっているクルマとソフトウェアの関係の最先端をいく1台だ。まさにこれこそが一芸といえるのではないだろうか。
■ココが一芸→超オールマイティなことが一芸/RAV4 PHV
トヨタ RAV4 PHV。人気のSUVでPHVというオールマイティーさが「一芸」だ
RAV4 PHVは18.1kWhのバッテリーを搭載し、電気自動車としても公表値で95km使え、1500Wの給電が可能なプラグインハイブリッドなのに加え、フロントモーターの大幅なパワーアップによりフルパワーとなるシステム出力は306馬力、0~100km/h加速は6.0秒とスポーツカー並みの速さを誇る。
これでは「一芸と対照的な超オールマイティなクルマ」と言われそうだが、人気のSUVでPHV、電動化時代のなかにあって、ここまでオールマイティだと「これも一芸」という解釈もできるのではないだろうか。
ここまできたら、強力な動力性能により見合った強化された足回りやブレーキを持つスポーツグレードをGRスポーツの名前で追加してもらい、超オールマイティを極めてほしい。
■ココが一芸→5人乗っても後席を倒さずにゴルフバッグ4個積める/ホンダシャトル
ホンダシャトル。今後唯一のコンパクトステーションワゴンになりそうという一芸に加え、車格を超えた広いラゲッジルームも魅力だ
シャトルは先代フィットをベースにした5ナンバーサイズのコンパクトステーションワゴンで、このジャンルには継続生産されているカローラフィールダーもある。
しかし、カローラフィールダーは新車で買える残り時間が「そろそろ終わり」となっていることもあり、シャトルは「今後唯一のコンパクトステーションワゴンになりそう」という一芸を持つ。
シャトルは乗って感じる個性こそないものの、フィットベースだけにキャビンやラゲッジスペースといった広さはミドルクラスのステーションワゴン並みと、実用性は非常に高く、実用車として割り切って安価な1.5リッターガソリンを選ぶのも賢明な選択の1つといえる。
やはりなんといっても最大の魅力はラゲッジルーム。5ナンバーサイズながら、通常5人乗りの状態で570L、後席を倒せば1141Lに拡大するラゲッジルームの広さ。
しかも後席を倒さずに9.5型(ドライバーのシャフトの長さは46インチ)の4個も搭載できるのは特筆すべき点。こうした点も一芸といえる。
■ココが一芸→MTとディーゼルエンジンとの対話が最高!/マツダのディーゼル車+MT
マツダ CX-5。図太い中低速トルクと高回転域での速さを楽しめるディーゼル+MTはまさに一芸と呼べる貴重な存在だ
ディーゼル車はいい意味でエンジンの主張が強いものもあり、一度乗っておきたい存在だ。
そのなかでエンジンを楽しむという要素も濃厚に備えているのが、マツダ2の1.5、CX-3の1.8、マツダ6とCX-5の2.2に設定されるマツダ車のディーゼル+MTの組み合わせ。
特にマツダ6とCX-5のディーゼル+MTは図太い中低速トルク、高回転域まで回した際の速さと表情豊かで、それをMTなら自分で操作を楽しみながら、ダイレクトに楽しめるというのは、代わりのクルマがほとんど浮かばない貴重な存在だ。まさしく一芸といえるだろう。
■ココが一芸→硬派なSUV的な魅力のミニバン/デリカD:5
三菱デリカD:5。ミニバンでありながらSUV並の悪路走破性を備える世界唯一の「一芸」を持つモデルだ
185mmというSUVに匹敵する最低地上高やロックモードも備える4WDなど、ミニバンでありながらSUV並の悪路走破性を備えるという意味ではおそらく世界唯一のモデルだ。
「ミニバン寄り」と書いたようにミニバンに求められる居住性もボディサイズ相応の広さを備えるのに加え、シートがシッカリとした厚みを持つ点など、快適性も良好だ。硬派なSUV的な要素を持つミニバンが一芸といえる。
さらに2019年の超ビッグマイナーチェンジでクルマの熟成に加え、自動ブレーキやアダプティブクルーズコントロールといった安全&運転支援システムも装着されているだけに、現行モデルの登場から14年が経った今でも堅調に売れているのもよく分かる。
■ココが一芸→スタイルが抜群な世界最小の本格派オフローダー 日本の宝だ!/ジムニー
スズキジムニー。軽でありながら本格的なラダーフレームを備える世界最小のオフロード四駆。その一芸は日本の宝と断言できる
世界最小のオフローダーとなるジムニーは、2018年に20年ぶりにフルモデルチェンジされた。四角いヨンクらしいデザインはもちろん、軽ながらもラダーフレームを備えている“本物”なところがウケているのだろう。
悪路走破性はいうまでもなく世界トップクラス、条件によっては小ささ、軽さを生かし世界一に躍り出るケースもあるほどだ。
さらにそんなクルマが、現実的な価格かつ維持費も安く乗れるのだから、ジムニーは日本の宝といえる1台と断言できる。
■ココが一芸→軽の唯一のオープン2シーターで購入後も着せ替え可能/ダイハツコペン
ダイハツ コペン。現在入手できる唯一の軽オープンカーであると同時に「ドレスインフォメーション」と呼ばれる内外装脱着構造を持ち、ユーザーが着せ替えを楽しめるという超絶個性の持ち主だ
S660の新車が事実上入手できなくなっている現在、コペンは軽自動車唯一のオープンカーである。コペンはS660と対照的に電動メタルトップも備えており、購入後に着せ替え可能なところがまさに一芸ならぬ二芸といえる。
この着せ替えは、内外装脱着構造「ドレスインフォメーション」と呼ばれ、ボディの外板を13個の樹脂パーツの集合体と捉えて、購入後でもユーザーの嗜好に合わせたデザインそしてカラーの変更が可能。
また、外観だけでなく、内装も運転席/助手席加飾パネルやオーディオクラスターを変更可能となっている。このドレスインフォメーションは2014年6月に登場したローブと2015年6月に登場したセロで行うことが可能だ。
例えばローブからセロへ行うドレスインフォメーションのフルセットは、ヘッドランプ、フロントバンパー、ボンネットフード、左右フロントフェンダーのフロントパーツ4点と、リアコンビランプ、リアバンパー、トランクフード、左右リアフェンダーのリアパーツ4点セット合計で38万1700円。
セロからローブに行うドレスインフォメーションの場合も価格は同じだ。フロント4点セットのみ、リア4点セットのみの交換も可能でいずれも21万100円(すべて工賃は別)。交換可能な樹脂部品はボルト締め付け構造を採用しており、工具で簡単に脱着することができる。
さらに2019年に追加されトヨタでも販売されるコペンGRスポーツはコペンが薄かったスポーツ性も引き締った乗り心地を持ちながら高めており、コペンワールドの拡張に貢献している。
■ココが一芸→ポルシェ911のような雰囲気が手軽に味わえる/ルノートゥインゴ
ルノー トゥインゴ。このかわいらしい外見でポルシェ911と同じRRという希少な個性を持つ
現行型で3代目モデルとなるトゥインゴは、エンジンやプラットフォームをスマートと共有していることもありRRとなる。
それだけに強いトラクションなど、ポルシェ911のような雰囲気もある走りを900ccのターボ車でも200万円台前半で楽しめるというのは嬉しい。
また、189万円となる1リッターのNAエンジン搭載車も設定され、こちらの動力性能は「軽自動車のターボ程度」といった印象で遅い部類だが、その分常識的な範囲でも「持っている力をフルに使える」という楽しさがより濃厚なのも大きな魅力だ。
■ココが一芸→ガシガシ使えるディーゼル+MTのマルチワゴン/ルノーカングーリミテッド
ルノーカングーリミテッド。現行モデルがいよいよフィナーレを迎えるにあたり登場した限定400台のディーゼル+MTは一芸どころではない魅力を持つ
愛らしいユニークなスタイルを持つルノーカングーはマルチワゴンのため、広いキャビンとラゲッジスペース、豊富な収納ペースなどを持ち「道具としてガシガシ使える」という魅力を持つ。
現行カングーは、2009年から日本でも長く愛され、年間2500台前後を販売するなどルノージャポンの屋台骨的な存在だった。その現行モデルがいよいよフィナーレを迎えるにあたり、2021年7月1日、リミテッドディーゼルMTを発表し、7月8日から発売されている。限定台数は400台、価格は282万円。
すでに新型カングーが本国で発表されているが、現行カングーとは趣が違い、ハッチバックモデルなどと共通のデザインテイストになるため、これまでのゆるキャラなデザインではなくなるのが賛否両論を巻き起こしている。
ルノージャポンによれば、このリミテッドが現行モデルの最終モデルになるという。
搭載されるのは、歴代カングーで初となるクリーンディーゼルエンジン。搭載されるのは、1.5L直列4気筒SOHCターボエンジンで、尿素SCRとDPFによる排ガス処理システムと最新のコモンレールシステムを備えたクリーンディーゼルだ。これにギア比を最適化させた専用6速MTを組み合わせていることも大きな魅力。
最高出力116ps/3750rpm、最大トルク260Nm/2000rpmを発生し、WLTCモード燃費は19.0km/L。カタログモデルのガソリンターボモデルよりもパワー、トルク、燃費のすべての面で上回っている。
現行モデル最後のリミテッド(ディーゼル+MT)は一芸どころか、三芸以上の魅力を持っているのではないだろうか。
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