発表が先延ばしになっていた欧州の次期四輪排ガス規制「ユーロ7」の基準案が、ついに公表された。基準値の強化に加え、新たな排出項目も設定。しかも、実施予定時期は乗用車が2025年7月、バスやトラックなどの大型車は2027年7月と猶予が少なく、自動車メーカーから悲鳴が挙がっている。
これはクルマに適用されるものだが、バイクの次期規制も2027年頃から順次適用と予想される。規制の詳細と今後の見通しについて解説したい。
「ユーロ7」はクルマもバイクもヤバい? 内燃機関の大ピンチ!! 2027年は排ガス規制Xデーか
文/沼尾宏明
動力や燃料に関わらず基準を統一、ブレーキやタイヤの有害物質にも規制を適用!
欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会が2022年11月10日、四輪車向けの次期排出ガス基準「ユーロ7」(Euro-7)の規制案を発表し、欧州議会に提出。エジプトでCOP27(第27回 国連気候変動枠組条約締約国会議)が開催中の出来事だった。
今後、欧州議会とEU加盟国らの審議を経て、議決されることになる。その規制案はかなり厳しい。内燃機関(ICE)を否定するには至っていないが、純エンジン車は対応が困難。特にバスやトラックなどの大型車は大幅なコスト増が予想されるのだ。
NOXなど従来からあった有害物質の排出規制が強化されるとともに、乗用車にはアンモニア、大型車には亜酸化窒素やホルムアルデヒドなどの排出基準を新たに導入。また、これまで動力(内燃機関、ハイブリッド、プラグイン、バッテリーEVなど) や使用する燃料 (ガソリン、ディーゼルなど) に応じて基準値が設定されていたが、新規制ではカテゴリー内であれば全車とも基準値が同一になるというから厳しい。
さらに排ガスだけでなく、ブレーキダストやタイヤからのマイクロプラスチックなどの排出にも世界初の規制を設ける。
スケジュールに猶予はなく、乗用車の新型車は2025年7月1日以降、現行車は2027年以降に適用。大型車は2027年の7月1日以降に適用される。乗用車の新型は約2年半で開発、実験、生産と対応が迫られることになり、規制クリアの困難さに拍車をかけているのだ。
以下、変更点をまとめてみた。
<ユーロ7 主な変更点 まとめ>
●パワートレイン(内燃機関、ハイブリッド、プラグイン、バッテリーEVなど)や燃料 (ガソリン、ディーゼルなど) に関わらず、カテゴリー内の全車に同じ排出制限を適用する
●一酸化炭素(CO)の排出量:乗用車&バンは1000mg→500mgに削減、大型車は1500mg(WHSCモード)→200mg(ホットスタート)、4000mg(WHTCモード)→3500mg(コールドスタート)に削減
●窒素酸化物(NOx)の排出量:2035年までに乗用車&バンは35%減、大型車は56%減
●粒子数(PN)の排出量:2035年までに乗用車とバンからは 13%減、大型車は 39% 減
●規制対象を追加:乗用車&バンはアンモニアを、大型車にはホルムアルデヒドと亜酸化窒素を追加
●ブレーキやタイヤの摩耗による粉じんに伴う汚染物質(マイクロプラスチック)の排出も規制対象に。2035年までに車のブレーキからの排出量を 27%削減させる
●環境性能を保持できる耐久走行距離:10万kmもしくは5年間→20万kmもしくは10年間に倍増
●規則成立後、電気自動車とプラグインハイブリッド車の駆動用バッテリーに耐久性に関する基準を導入する
乗用車&バンのユーロ7排出基準。基準値だけなら概ねユーロ6と同様だが、COの排出量半減とアンモニア(NH3)の追加が厳しい。ガソリン車と同条件になったディーゼルは特に対応が困難
意外と乗用車は大丈夫? しかしバスやトラックはコスト増が凄まじい
ユーロ7の内容は、2035年までに欧州における乗用車&バンのCO2排出ゼロが提案されたことを踏まえたもの。減少傾向ながら、現在も欧州においてガソリン車とディーゼル車の販売シェアは高く、いまだ52.5%を占める(2022年上半期)。HEVは23.3%、BEVは12.5%、PHVは9.2%だった。
純エンジン車がユーロ7に対応するには新たに触媒の追加などが必要。また、ディーゼルのNOx排出量は現在の 80 mg/kmだが、ユーロ7では現行ガソリン車のユーロ 6 と同じ 60 mg/kmにまで引き下げる必要がある。
純エンジン車の特にディーゼルはコスト増が予想されるが、どのみち2035年には欧州で内燃機関(ICE)搭載の新車は販売できなくなる。したがってメーカーとしても必然的にBEVの開発に注力し、日産のように欧州向けエンジン開発を終了する企業も増えるはず。BEVをはじめ、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHV)車の販売比率が増えていくだろう。
しかし、意外にも乗用車は規制適合にかかるコストが少ないようだ。欧州委員会が公開したファクトシートによると、現行のユーロ6適合車がユーロ7に対応した場合の販売価格は、小型車でプラス90~150ユーロ(約1.3~2.2万円)に留まるという。このコストがHEVやPHVにのみ該当するのか、純エンジン車にも該当するのかは不明だが、「既存の技術を応用できるため」安価で済むとしている。
一方、バスやトラックなどの大型車は、同ファクトシートによると2600ユーロ以上(約40万円以上)と大幅なコスト増が想定されている。
ブレーキやタイヤによる汚染物質に関しては試験方法すら未確定なのに、乗用車のコスト計算はいささか楽観的と思われるが、とにかく大型車への影響は深刻だ。
今回の規制案は政治主導で、現地の自動車メーカーからの反発も強い。
欧州自動車工業会(ACEA)は「車両コストが増大しながら、環境面での恩恵は非常に限定的」とし、「深刻な懸念を抱いている」との声明を発表。内容や実施時期が見直される可能性がある。
欧州でゼロエミッション車の販売が伸びているものの、エネルギーの価格高騰も深刻化。拙速な規制強化で動力を限定していくことは、自らの首を絞めかねないだろう
日本への影響は甚大だが、LCAを考慮した柔軟路線を貫いてほしい
欧州のユーロ7は、日本にとって決して対岸の火事ではない。
日本やアメリカは独自の排ガス規制を敷いているが、パワートレインは世界的にほとんどが共通。また、中国やインドなど世界の多くの国々はユーロを基準とした排ガス規制を導入している。
グローバル化された今、結局、日本でも欧州と同様のクルマが販売される可能性は高い。ユーロ7は日本を含む世界の自動車産業に大きな影響を与えるのだ。
もちろん日本は、みだりに欧州に追随せず、可能な限りHEVやPHVを残す選択肢を取るべき。原料採取から生産、廃棄までに排出するCO2の量を考慮したライフサイクルアセスメント(LCA)を視野に入れるべきだ。
なお、欧州でHEVやPHVの割合が増えることになれば、技術的に優位に立つ日本車のアドバンテージが欧州で増すことになる。ただ、こうした事態をEUが見過ごすはずもなく、2024年に導入が予定される騒音規制などで日本車のHEVが締め出される可能性もあるだろう。
バイクの次期規制もクルマの2年後に開始? 日本では2028年スタートか
バイクは、クルマと異なる独自の排ガス規制を採用しており、欧州では現在「ユーロ5」が施行されている。そして日本国内でも欧州とほぼ同じ排ガス規制が採用されているのが現状。クルマよりもユーロの影響をダイレクトに受けるのだ。
クルマに対し、搭載スペースが制限され、エンジンも車体も全く異なるバイクなのだから、規制が異なるのは当然だが、実はクルマの規制と歩調を合わせている。現行の二輪版ユーロ5は、四輪版ユーロ6と同様の規制値を採用しているのだ(ややこしいことに二輪版の最新ユーロ規制は四輪版から“数字”が一つ少ない)。
となると、このたび判明した四輪版ユーロ7案に合わせ、次期二輪規制として予定されている「ユーロ6」も導入の道筋が見えてきたと言えるだろう。これまで詳細は未定だったが、有害物質の上限値はクルマと同様に一段と厳しくなり、新たにアンモニア規制などが追加されるはずだ。
さらに、導入スタート時期は欧州で「2027~2028年頃」と予想できる。前々回の二輪版ユーロ4がスタートしたのは2016年。四輪版ユーロ6が2014年に開始された2年後だったからだ(ちなみに2020年に開始した二輪版ユーロ5は、あらかじめ二輪版ユーロ4と二段階の規制として制定された経緯がある)。
そして国内規制は、欧州で適用された約1年後に開始されるのが通例。したがって日本では、現在の令和2年規制に続く次期規制が「2028~2029年頃」開始と予想される。
日欧ともに、まずは新型車から適用され、1~2年遅れで継続生産車(現行モデル)に適用されるのがケースが多い。したがって欧州では2028~2029年頃、日本では2029~2030年頃に全面適用となるか。
二輪版ユーロ5は、欧州で2021年1月から、日本では約2年後れの2022年11月から全面適用。国内ではSR400をはじめ、ほぼ日本専用だった約1割のモデルが姿を消した……
あと6~7年でラインナップ激変、特にヤバいのはリッターSSか
内燃機関のバイクはユーロ6以降も存在するだろう。だが特に危ういのは、究極の性能を至上価値とするリッタースーパースポーツだ。次期規制が始まる、あと4~5年で存在自体が危うくなる可能性がある。
性能の向上どころか、維持することも厳しく、膨大なコストと折り合いがつかなくなるからだ。実は……早くもそういった噂が聞こえつつある。
さらに、現行モデルもあと6~7年で排ガス対応しなければ、発売できなくなるだろう。
加えて、二輪版ユーロ6の前に現行規制の強化も控えている。
現行規制では、50ccを除き、故障ログを記録するOBD2(車載式故障診断装置)の設置が義務付けられているが、マフラーなどの触媒劣化を検知するシステムについては猶予が与えられていた。
その追加機能を持つ通称「OBD2-2」の装着義務が新型車は2024年12月以降、継続生産車は2026年11月以降と定められている(51~125ccはそれぞれ1年遅れで導入)。
いわゆる「ユーロ5B」規制で、故障時の排ガス発散を防ぐ、より高度化したOBDが必須となる。これを機にまたしても生産終了するモデルが出てくるだろう。そしてユーロ6が導入された暁には、さらに大幅なラインナップ減が予想される。
納車時期の見通しが立たず、入手できない可能性があるとはいえ、クルマ、バイクともに、欲しい内燃機関の新車があるなら早めに手に入れておきたい。悲しい話だが、この数年が内燃機関、最後の黄金期になる可能性があるからだ。
究極の運動性能を追求したリッターSSのドゥカティ・パニガーレV4R。世界最高峰レース、モトGP譲りの技術を活用し、2023年型は最大で240.5馬力を叩き出す。こうしたモデルも次期規制では消滅?
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みんなのコメント
既に内燃機の体をなさない状況に追い込まれています
日本国内はユーロに合わせず独自の基準で生産しても良いのではないか?
環境も大事かも知れないが乗る楽しみを削ぎ落してる気がしています
本当につまらない乗り物ばかりになっています