トヨタは、2020年2月、新型コンパクトカー「ヤリス」を販売開始する予定である。今回、販売開始前ではあるものの、プロトタイプに試乗する機会をもった(場所は千葉県・袖ヶ浦フォレストウェイ)。ヤリスといえば、世界ラリー選手権など、モータースポーツにもさかんに使われてきたモデル。新型はそのイメージを裏切らない高い操縦性が印象的だった。
ヤリスはヴィッツの後継モデルである。今回のフルモデルチェンジを機に、グローバルネームに統一された。2020年2月に日本での発売が予定されている。コンパクトカー向けの新世代プラットフォームを採用するなど、気合じゅうぶんなモデルだ。
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新型ヤリスのボディは全長×全幅×全高:3940mm×1695mm×1500mm。先日、ランドローバーのデザイン・ディレクターである、ジェリー・マクガバン氏と話していたとき、氏が「東京でおもしろいのはコンパクトなクルマがうまく使われていることです」と言っていたのが、私の印象に残っている。
ヤリスの最大ライバルは、同時期の販売開始が予定されているホンダの新型「フィット」というけれど、同時に、軽自動車からの乗り換えも視野に入れているそうだ。もうひとつ、注目してもいいのが、上記マクガバン氏の言葉にあるような、都市生活者のコンパクトな移動手段としての存在感であると思う。
従来に比べ約50kgの軽量化を実現。アルミホイールは15インチと16インチ(写真)の2種類。ロンドンでも、「ミニ」が1959年に販売開始されていらい、億万長者だったザ・ビートルズの面々をはじめ、多くの富裕層が、市街地での取りまわしのよさに注目し、購入した。ヤリスだって、たとえば昨今流行りのラグジュアリーSUVのとなりに置かれている図も、おおいにアリだろう。
3気筒らしかぬスムーズさ新型ヤリスは、クルマ好きの期待を裏切らない走りのよさが魅力だ。今回、1.5リッター直列3気筒ガソリン・エンジンのFWD(前輪駆動)と4WD、1.5リッター直列3気筒ガソリン+モーターを使ったハイブリッド・モデルのFWDと4WDを試乗して、出来のよさに感心した。
なにしろ、といえばいいのか、今回はすべてが新設計だ。シャシーはTNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャ−)思想に基づき開発されたコンパクトカー用の「Bプラットフォーム」(通称)。従来モデルに比べ、約50kg軽量化しつつ、ねじり剛性は約30%向上したという。
くわえて重心高を15mm下げた結果、「運転中の挙動がより安定しました。ドライバーの意図どおり反応し、自然な走りを実現しました」と、開発担当者のひとりが述べる。
新型ヤリスのパワーユニットには、2種類のガソリン・エンジンと1種類のハイブリッド・システムがある。1.5リッター直列3気筒ガソリン・エンジンは、従来エンジン(1.3リッター)に比べ、最大トルクは約30%向上。トランスミッションはCVT。モデルによってはマニュアル・トランスミッションも選べる。私がもっとも好きだったのは、電子制御4WDシステム「E-Four」システムを搭載したハイブリッド・モデルだ。トヨタのハイブリッド・コンパクトカー初の4WDである。
4WDは、とくに積雪地帯のユーザー・ニーズに応えるために設定したという。また、ふつうの舗装路でのコーナリング中、前輪のスリップ率を検知し、後輪に駆動力がかかる。そのときの力強い加速感がすばらしい。
将来は、よりパワフルなモーターと、より緻密な制御技術によって、走りがより楽しめる新世代の全輪駆動車に発展する可能性もあるはずだ。
新型ヤリスに採用されたプラットフォーム「GA-B」は、TNGA(Toyota New Global Architecture)プラットフォームの第4弾。搭載する新開発の直列3気筒エンジンは、バランスシャフトの効果もあって、静かでかつ回転マナーもよい。アクセルペダルを踏み込んだときの”つき”、つまりトルクの立ち上がりがよく、瞬発力がある。
ヤリスに搭載される直列3気筒エンジンはすべて自然吸気。ターボチャージャーは広い回転域をカバーしようとすると複雑な構造になるうえ、コストもかさむため、採用しなかったという。
NAの1.5リッターガソリンエンジン搭載モデルは、やや力不足を感じる場面もあったが、「パワフルなクルマを……というユーザーは、ハイブリッドを選んでほしい」と、開発担当者は話す。納得だ。
上級グレードのステアリング・ホイールは本革巻。単眼カメラとレーダーを使った先進安全装備群Toyota Safety Sense」は全車標準。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)なども搭載する。上級グレードのシート表皮は、ファブリック×合成皮革のコンビタイプ。リアシートのヘッドレストは高さ調整式。標準車でも十分魅力的いっぽう、NAの1.5リッター直列3気筒エンジンに6段マニュアルトランスミッションを組み合わせた前輪駆動モデルは、自動車好きのためのモデルだ。
ギア比も4速以下はけっこう接近しているので、つねに力が出るトルクバンドが使えるし、シフトフィールもなかなかよい。ギアとギアのゲート間が比較的短いうえ、変速レバーが最後は吸い込まれるようゲートにおさまる感覚も小気味よいのだ。
「マニュアル車を買うユーザーは、数パーセント」というが、欧州では、事情がすこし違う。ルノーやフィアットなど欧州メーカーのコンパクトカーは必ずと言っていいほどマニュルトランスミッション・モデルを設定している。したがって、グローバルモデルのヤリスも必然的にマニュアルトランスミッション・モデルが必要になるのだ。
Cd値は0.30。床下をフルアンダーカバー化するなどし、空力性能を高めたという。結果、燃費も向上したとうたう。一部グレードのメーターパネルは、トヨタ初の双眼デジタルTFTメーター。ディスプレイ・オーディオのモニターサイズは、下位グレードが7インチ、上級グレードが9インチ(写真)。上級グレードのエアコンはオートタイプ。もうひとつ感心したのは、乗り心地のよさだ。シャシーの剛性をはじめ、サスペンション・システムも新しいダンパーを使いつつ、ジオメトリーをしっかり見直してピッチングやヨーイングという不快な動きを抑えたというエンジニアの説明どおりであると思った。
ボディが上下に動くのを抑制し、ドライバーの視線がブレないようにすることも、大きな目標だったという。サーキットで走ったときは、アクセルペダル操作に応じる細かな加減速やブレーキングのとき、たしかに、頭部がはげしく振れるという印象はなかった。総じて上質な乗り味だ。
このあと「GR」ブランドのスポーツモデルも控えているようであるが、とりあえず今回試乗した標準モデルも、クルマ好きのハートにしっかり訴えかけてくる魅力を持ったクルマだった。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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