Lynk & Coの新型セダン「03(ゼロ・スリー)」のグローバル・ローンチ・イベントが富士スピードウェイでおこなわれた。
「Lynk & Co」と書いて、英語だと「リンカーンコ」と発音するこの新しい自動車メーカーは、中国の浙江吉利控股集団(ジーリー・ホールディングス)と吉利汽車集団(ジーリー・オート)、およびボルボの共同出資によって、2016年に設立された。本社はスウェーデンのヨーテボリで、ボルボから数百メートルの距離にあるという。
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ご存じのようにボルボは2010年にフォードからジーリーに売却された。Lynk & Coというのは、ジーリーが傘下のボルボの技術を使って21世紀的価値観にふさわしいグローバル・ブランドを新たに立ち上げ、世界市場にうって出ようという野心的なプロジェクトなのだ。
それも21世紀にふさわしいスピード感でもって、である。2016年10年にベルリンで設立の発表会を開き、1年後の2017年10月に量産モデル第1号の「01」を、2017年3月に「02」を発表している。「03」も入れると、2年で3種類の新型車を送り出している。
いくらボルボXC40などと同じCMA(コンパクト・モデュラー・アーキテクチャー)を共有しているとはいえ、新興メーカーとしては驚異的な開発テンポではあるまいか。
でもって、ポルシェ・マカンをちょっと思わせるLynk & Co 01は昨年、ネット上で販売を開始するや2分強で6000台の受注があったという。これをもって彼らは「世界最速で売れるクルマ」を自称している。
そんなLynk & Coだけれど、ニッポン上陸は未定である。未定なのに、トーキョーの庭というべき御殿場で新型車の発表会を開く。しかも、GQはその発表会に招かれた。彼らの意図は奈辺にあるや。筆者は興味津々で富士スピードウェイへと向かった。
富士スピードウェイには12時頃到着し、まずは中華のお弁当をいただく。今回はグローバル・ローンチ・イベントということで、中国から500人規模のプレスがやってきているという。黒塗りのトヨタ・アルファード/ヴェルファイアがズラリと並び、大型バスも何台か駐車場にいたのは彼らを運んでいたのだ。
プログラムはテスト・ドライブから始まった。13時にピットに行ってみると、ブルーとブラックの03が日本のプレス用に2台用意されていた。
レーシングコースをおおむね2周する。ただし、マーシャル・カーのレクサス「RC F」に先導されて。ということもあって、あまり多くは語れない。とても静か、ということはいえる。
全開にほとんどしてないし、小雨が降っていて路面が濡れていたこともあるかもしれない。それにしても、静かで、1.5リッターの直列3気筒ターボエンジンとは思えぬほどの力強さとスムーズネスを持ち合わせている。
富士の路面は平滑なので、乗り心地についても確たることは申しあげられないけれど、ボディはしっかりしているし、ロールは穏やか、かつ自然で、リアにディフューザーが設けられているなど、高性能セダン風の外観に似合わず、ガチガチのゴチゴチではないことは間違いない。むしろソフトで、快適志向。
ハンドリングも、とくにスポーティという感じではないけれど、鼻先が軽くて素直に曲がる。パワーアシストの設定もさることながら、3気筒だから、実際にフロントが軽いのだろう。
レクサス RC Fの後ろ姿を眺めてのドライブは、走っているあいだは長く思えたけれど、終わってみればアッという間だった。降りる段になって、筆者の頭にサーブ「9-3」が浮かんだ。いまはなき、北欧の穏やかなタイプのセダンである。
2003年に登場した2代目9-3を、もっと静かで快適にした感じのように思ったのだ。単にリアクオーターのデザインを含めた、全体の造形が似ているように思ったからかもしれない……。
試乗後、ピットにいた中国人のエンジニア氏に聞いてみると、「中国人は静かなクルマが好きだから、ボルボXC40より努力している。ボルボにはこのクラスのセダンがまだないし、SUVのほうがセダンより騒音の許容範囲が広いから」とのことだった。
具体的にはアンダー・ボディとアッパー・ボディを隔てる防振材を増やすなどの工夫をしているという。
ハードウェアとしては「アウディ『A3』のようなクルマをつくりたかった」と、率直に彼は語った。2013年から、ボルボと一緒に03の開発に取り組んでいて、「単なるスポーツではなくて、スポーティでラグジュアリーなクルマ」を彼は目指していた。けれど、中国マーケットでは重いステアリングも硬い乗り心地も好まれない。もっとドイツ車っぽくしたかったけれど、結局はシティ・ドライブを重視して、少しソフトに振ったのだという。
ちなみに、「ヨーロッパで売るときにはもっとスティッフでスポーティにする」と、付けくわえられた。
新型車の発表会にもかかわらず、スペック表やカタログの類の配布はなかった。ただ、都会的でオシャレなメッセージがあるのみである。
そこで、中国語のサイトから数値を書き留めておく。
全長×全幅×全高は4657×1840×1460mm、ホイールベースは2730mmで、ボルボXC40よりトランクがうしろにある分、20cmちょっと長くて、ちょっぴり幅が狭くて、SUVではないから、ちょうど20cm背が低い。
名前が出たアウディA3セダンのホイールベースは2635mm、全長は4465mmだから、近頃のボルボは、これはボルボじゃなくてLynk & Coだけれど、どのモデルもライバルよりもデッカいのである。
ワイド・トレッドで、01、02とも共通のヘッドライトとフロント・グリルの組み合わせが深海魚みたい、といっても具体的にこういう深海魚がいるのかどうか定かではないけれど、地上では見慣れない、一度見たら忘れない特徴的なマスクを持っている。新興ブランドだから、認知されるべく存在感を出そうと、意図的につくられたものだ。
インテリアについて、とくに運転席まわりはセンター・コンソールに大型の液晶スクリーンがあったりして、ボルボとの共通性を感じさせる。少なくとも、日本車よりシャレている。シフトレバーはボルボと共通だ。
エンジンは前述のごとく、日本仕様のXC40には未搭載の1.5リッター直列3気筒ターボで、最高性能版は最高出力180ps/5500rpm、最大トルク265Nm/1450~4000rpmを発揮する。全開にしなくても、そう不満のない動力性能を得るには十分な数値だ。
ギアボックスは7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)で、その変速はスムーズ極まりない。いまのところ、2.0リッター直列4気筒ターボエンジンと8速オートマチックの組み合わせのみのボルボXC40にも、早晩この3気筒と7速DCTが搭載されるだろう。じつはドライブ・モードがボルボ同様に付いていたのだけれど、正直に申しあげれば、あることに気づかなかった。
試乗後、エグゼクティブ・バイスプレジデントのアラン・フィッセルさんとデザイン担当のシニア・バイスプレジデントのアンドレアス・ニルソンさんからのプレゼンの時間がとられていた。それは20世紀の遺物、になるかもしれない自動車の製造会社を21世紀に新たに立ち上げるにあたって、彼らがどう考えたかを語る、Lynk & Coというブランドにとって肝心要の話だった。
Lynk & Coに入る以前、ボルボでマーケティングを担当していたアラン・フィッセルさんは冒頭、こんな問題提起をして、聞くひとの耳をググッとひきつけた。
「いまさら新しい自動車ブランドは必要なのだろうか? Lynk & Coを立ち上げるにあたって、私は自問しました。私の答はノーでした」
ノーだったんかい。
「いまや優れたクルマはたくさんあります。もし、立ち上げるとすれば、差別化をするためにまったく新しい提案が必要です。すでに100年のあいだ、自動車は改良され続けてきました。これ以上近代化するより、よりよいモビリティの解決策が求められています。より高い機能を、ではなく、より消費者のニーズに応える……われわれは従来型の自動車メーカーではなくて、ネットフリックスやスポッティファイのような会社になりたいのです」
ゲゲッと私は内心思った。それなら、自動車に乗らずして自動車を楽しめるゲームとかレース映画とか、「あいのり」みたいなバラエティ番組をつくる会社になればいいではないか。いや、それではせっかくの手持ちのボルボの技術が活かせない。「ネットフリックスやスポッティファイのような会社」の意味は、トヨタもはじめた“サブスクリプション”、つまりは月額定額サービスの会社ということだった。
「月極めのサブスクリプションでクルマを売っていき、そして、クールな消費者体験を実現するのです。いまやクールなクルマをどこの会社も出しているし、クールを目指すなどということはクールではなかったりもします。そこで、ともかく若いひとを雇うことにしました。社内の平均年齢は34歳で、私以外はみんな若い。自動車業界の出身ではないひとも多い。ミレニアル世代が、自分たちが乗りたいクルマをつくっていくのです。斬新なコンセプトをボルボのソリッドで高品質なテクノロジーのもとに商品化するという新しいビジネスモデルを打ち出しました。もしボルボのテクノロジーがなければ、いくら素晴らしいデザインをまとわせても、ブタにリップスティックを塗る製品になってしまう」
基本にあるのは近頃流行りの、カーの“所有”ではなくて、“シェアリング”だ。カー・シェアリングは世界的に伸びている。若者はクルマの所有にはこだわらない。でも、クールなブランドには興味がある、とマーケティングの専門家は続ける。
カー・シェアリングにはふたつのタイプがある。ひとつは、中国で流行っているシェアリング・バイクのように乗り捨て可能な、純然たる移動手段である。Lynk & Coが目指しているのはそちらではない。Lynk & Coのなかでカーをシェアするのだ。
たとえば、金額は適当ながら、Lynk & Coを1台、月500ドルでサブスクリプションしているとする。仮にそのクルマを空港まで乗って行って駐車場に5日間置いておく、というような状況になったとき、これをたとえば1日30ドルで貸し出す。ちなみに、Lynk & Coのクルマにはどれもコネクテッド技術が組み込まれている。
貸し出す場合は「カー・シェア」のボタンを押す。貸し出しが決まると、月500ドルの支払いコストが、1日30ドル×5日間分、クルマが稼いでくれるから、350ドルに下がる。もちろん、これを利用するもしないも、決めるのは消費者で、押し付けるものではない、と説明された。
Lynk & Coというネーミングについて問われると、「いろんなことが言われているけれど、ファッション・ブランドみたいな名前にしたかった。クルマを超えて、ライフスタイル・ブランドになりたい」と答えた。
販売方法は独特で、ショールームはつくるけれど、Lynk & Co独自のディーラーは設けず、メインテナンスはボルボのサービス工場等が請け負うという。注文はネットでのみ受け付ける。
前述したように、中国で2017年10月に発売したLynk & Co 01は、ネットに公開するや2分強で6000台の注文があった。しかも、若い富裕層に訴求できたそうだ。「夢物語のような、マーケティングの大成功をおさめたと思っている」と、フィッセルさんは自信たっぷりに話す。現在、月販平均1万5000台のペースで売れており、2018年は13万~15万台で着地しそうという。
ヨーロッパでは2020年、アメリカでは2021年から販売する計画で、どのモデルを出すかはまだ決まっていない。そのときはギア、衣類などの“モノ”を売ることも考えているという。
中国では、あだ、クルマは重要な財産という考えが根強いため、カー・シェアリングを通知するコネクテッド技術は採用されているけれど、カー・シェアの通知機能は休眠状態にしてあるという。
ちなみにネットへの接続はタダ、というか車両料金に組み込まれており、注文の20~25%はiPad等を含めたモバイルから入っているという。なお、ヨーロッパとアメリカ市場ではサブスクリプションで販売する。
「いままでの限界を打ち破るような、物議を醸し出すものが私は大好きなんです。ブランドをつくるのは容易ではないですし、民主主義的にはできないかもしれません。もちろんデザインも大きな要因で、エモーショナルなデザインが不可欠です。われわれは、若者のハートをとらえるクールなデザインを強みにしています」
なぜ、日本で03の発表会を開いたのか?
「トーキョーが世界でもっともクールで、もっとも大都会だから。みなさんをびっくりさせたかったからです。Lynk & Coの日本での発売時期は未定であったとしても、今後のブランド戦略で重要な位置を占めることになるでしょう」
フィッセルさんのあと、アンドレアス・ニルソンさんがデザインについて短めに語った。
「デザイナーたちも、本当に新しいカー・ブランドが必要なのか? と、自問しました。また、必要かどうかは別にして、新しい発想が必要であると確信しました」と話す。
認知されるブランドであるためには第一印象が重要で、そのために独自性のあるフロント部分をつくることに工夫を凝らしたという。CMA(コンパクト・モデュラー・アーキテクチャー)をもとにヨーロピアン・テイストにしていきたいという要望があったため、01、02、03とファミリー共通のアイデンティティをもたせると同時に、ボディはソフトで流線型にしたそうだ。
夜19時、中国本土へのライブ中継を大いに意識した03の発表会が始まった。
富士スピードウェイのグランドスタンドの裏側のイベント広場に仮設の野外劇場がつくられていて、客席は筆者を含めた10人ほどの日本人プレスと、500人規模の記者、あるいはインフルエンサーとおぼしき中国人で埋まっていた。
ステージには巨大なスクリーンが上手と下手の2カ所に立っていて、このふたつのスクリーンの中間よりちょっと上をまた別のスクリーンがつないでいる。CGによる大都会の夜景が映し出され、高層ビルのあいだを鉄道がときおり走る。富士スピードウェイにいるのに、ここはシカゴか上海か、という気分になった。
Lynk & Coの中国市場での価格は、11万6800 元から15万1800元。日本円にして180万円後半から約250万円である。価格が発表されたとき、仮設会場の中国人プレスが大いに盛り上がったわけだ。いかにも安い。日本市場でポジション的に最も近いボルボ「V40」の最廉価モデルが299万円~455万円だから、装備の充実したモデルほど、安さが際立つ。日本市場にも導入していただきたいものである。
それにしてもジーリーはスゴイ。創業は1986年で、冷蔵庫をつくっていた。バイクの製造に乗り出したのが1992年で、1997年に自動車事業に進出し、2003年に吉利汽車を設立。フォード傘下にあったボルボを買収したのが2010年で、そこから6年でボルボは復活どころか、販売台数を1.5倍に増やし、年産50万台を超えた。
2017年にはマレーシアのプロトンを傘下におさめ、プロトンが持っていたロータス・カーズも手に入れた。2018年の今年はドイツの老舗ダイムラーの株を9.69%取得し、筆頭株主に躍り出てもいる。なんたるダイナミズム!
複数の03が富士スピードウェイを走りまわり、最後はファッション・ショーで締めくくられたLynk & Coのイベントを、中国からやってきた500人のひとたちに囲まれて、ちょっと肩身の狭い思いをしながら富士スピードウェイで見物した筆者は、新時代の息吹を感じていたのであった。
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