いわゆる郊外や地方都市に住まうのであれば話は別だ。しかし東京あるいはそれに準ずるような都市に住まう者にとって、「実用」を目的にクルマを所有する意味はほとんどない。
公共交通機関を使えばほぼどこへでもスムーズに行くことができ、それがかったるい場合でも、大量に走っている流しのタクシーをつかまえれば話は済んでしまう。
まあ「自家用車があったほうが絶対に便利」という局面もたまにはあるのだが、それは「たまに」のことゆえ、その局面においてのみカーシェアリング等を利用するのが現代人にとっての常識というか良識というか、経済合理的な判断であるだろう。
ラインナップで最も小さく、唯一軽エンジンを積む160。パワーは80psながら490kgの軽いボディのお陰で0-100km/h加速5秒という優秀な数字をマークする。そんな現代社会の都市部で「それでもあえて自家用車を所有する」というのであれば、その際は何らかの「アート作品」を購入するのに近いスピリットで臨まなければならない。
つまり明確な実益だけをそこに求めるのではなく、「己の精神に何らかの良き影響を与える」という薄ぼんやりとした、しかし大変重要な便益を主眼に、自家用車を選ぶべきなのだ。
セブン160のボディサイズは全長3100×全幅1470×全高1090mm。トランスミッションは5速MTのみのオトコ仕様となる。タイヤサイズも現代では絶滅寸前の14インチ!簡単に言えば「都市部に住まう君よ、ココロに効くクルマに乗れ。さもなくば、歩け」という話である。
己の精神を高揚させてもくれないクルマのためにわざわざけっこうな額の所有コストを負担するぐらいなら、そんなモノには乗らずに歩くか、あるいはロードバイク(自転車)にでも乗っていたほうが、男は幸せになれる。幸せにならなかったとしても、少なくとも健康にはなるだろう。
では、「ココロに効くクルマ」とは何なのか? 乗れば思わず血潮が派手に、あるいは静かに燃えたぎるクルマとは今、いったいどれなのだろうか?
まさに必要なものだけを配した車内。160Sでは標準となるモモ製のステアリングやレザーシートは160ではオプション設定となる。軽自動車のエンジンを積んだ英国スポーツカーそれはさまざまあるだろうが、ひとつのサンプルとして考えられるのが「ケータハム セブン160」というクルマだ。
下の写真がそれなわけだが、実はコレ、こう見えて軽自動車である。
ケータハム(Caterham Cars)というのは1973年に設立された英国の小規模自動車メーカーで、セブンというのはケータハム社の主力商品であるところの超軽量スポーツカー。
セブンはもともと「ロータス」という英国の超名門が製造・販売していたスポーツカーだったが、諸事情あってロータスは1973年にセブンシリーズの製造販売権と生産設備をケータハム社に売却。以降はケータハムがセブンシリーズの総元締めとして、その生産と販売を行っている。
どれもほとんど似たような形に見えるセブンシリーズだが、実はいくつかの種類がああって、エンジンのバリエーションも実に多彩である。だがその大半は1.3Lから2Lのエンジンを搭載する、日本のレギュレーションで言うところの「普通車」だ。
セブン160の価格は407万円、装備違いの160Sは440万円となる160シリーズ。エンジンの異なる他のモデルも用意され、最上位には310psの2ℓエンジンを積む620Rまで設定されている(946万円)。しかしこの「セブン160」というモデルだけはスズキの軽自動車用エンジンを積む、税制上もれっきとした「軽自動車」なのだ。
その登場は2013年。スズキの軽に広く使われているK6Aという658ccの3気筒ターボエンジンのECU(コンピュータ)とインタークーラーをケータハムのオリジナルに換え、最高出力を64psから80psに改めたうえで搭載。そしてタイヤとフェンダーを通常のセブンよりも細身にして全幅を1470mmとしたことで、「軽自動車としてのセブン」が完成したのだ。
とはいえもちろんただの軽自動車ではない。というのも、セブン160の車両重量はわずか「490kg」でしかないのだ! ……と感嘆符付きで書いたが、自動車のスペックになじみが薄い人には、この490kgという数字の凄さが伝わりにくいかもしれない。
490kgというのは一般的な小型乗用車のおおむね1/2、つまり約半分の重量でしかないのだ。そこに一般的な軽ターボ車より2割以上ハイパワーとなったエンジンを搭載し、しかもパイプで組まれたネイキッドなクルマとして地面すれすれの“超低空”を走行するのだから、その体感フィールはほとんどジェットコースターかジェット戦闘機である。
シリーズ3と呼ばれるナローボディとシリーズ5というワイドボディがセブンには用意されているが、160シリーズはナローボディのみの設定となる。小さいエンジン故にすべてが味わえるしかしながら、それでも「しょせんは軽自動車用のエンジン」という部分もあることは確かなため、危険なほどの鋭い加速をしたり、異次元レベルの最高速度が出るわけでもない。1.6Lや2L級エンジンを搭載する通常のセブンだと、あまりにも走りのエッジが立ちすぎていてちょっと怖い(ラフに扱うと簡単にスピンする)という部分も大なのだが、セブン160はさすがにそこまでの鋭さはない。そのため(あくまで「比較的」ではあるが)安心して踏めるクルマであり、「その性能を使い切ることができる」という意味で、一般的なセブン以上にファンであるとも言えるのだ。
そんな軽自動車を……貴殿の生活に取り入れてみるというアイデアはどうだろうか? もちろん安全装備の類はほとんどなく、雨の日は乗れない、そしてそもそも1人または2人しか乗れない、実に不便なクルマではある。
だが不便でもいいじゃないか。どうせ、たまにしか乗らないのだ。
日々の用事は電車かバス、あるいはタクシー、またあるいはシェアリングカー等々を使って便利に済ませばそれでいい。
だが用事は特になく、それどころか「目的地」すらない晴れた日に、ケータハム セブン160という軽自動車を車庫あるいは駐車場から引っ張り出し、機械と風が生み出す爆音を全身に浴びながら、少しだけぶっ飛ばす。そして、己の中にある獣性のようなものをしばし再確認する。
……それは酒や煙草、あるいは麻薬、さもなくばSNSなどにふけるより数百倍、数千倍は素晴らしい個人的なリフレッシュメントあるいはエンターテインメントになり得ると思うのだが、いかがだろうか?
文・伊達軍曹 写真・LCI 編集・iconic
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