2019年5月のデビューから半年が経過した「マツダ3」。アクセラから改名した同車は、発売当初こそ予想以上に販売台数が上がらず苦戦しているようにも見受けられた。ただ、9月にはファストバック/セダン累計で7533台を販売した。
ここのところ尻上がりに販売台数を伸ばしてきているけれどヒットというほどではない、どちらかといえば車は良いけどパッとしない、あまり売れていない。そんな評価が目立った印象である。
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果たして新型マツダは成功しているといえるのか? デビューから半年間の売り上げや車としての評価も合わせて、現時点での成否をジャッジしたい。
文:松田秀士
写真:編集部
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9月は7500台超を販売!! マツダ3「半年」の販売状況は?
9月に7533台を売り上げたマツダ3。内ファストバックが約7割、セダンが約3割と前者に人気が集まっている
マツダ3の販売台数については少し説明が必要だ。日本での販売開始が5月24日で5月の販売台数が1682台。約1週間での数字だ。
続く6月が1591台で僅か1週間だった前月割れ。7月で3668台と目標クリア。そして9月には7533台と大幅に販売を伸ばしている。
このなかで6月に販売が伸びなかったのは、当初2.0Lガソリンモデルがなく、1.5ガソリンと1.8ディーゼルのみというラインナップも関わる。2.0Lガソリン車がラインナップされたのが7月からなのだ。
また、「SKYACTIV-X」の発売待ちユーザーもいたはずだが、発売が2020年にずれ込んだこととレギュラーガソリン仕様からハイオク仕様に変更になったことも大きく響いたのではないか。ということで発売待ち組も諦めて既存エンジン群で納得したのでは? という見方ができる。
もともと、マツダ3の販売目標台数は1ヵ月に2000台だった。その目標値に対して7月以降は大幅クリアをしている。
ただ、2013年発売のアクセラが月販1万台を超える大ヒットだったこともあり、「それに比べて…」となってしまうようで、ここぞとばかりに心ないメディアは突っ込んだ。というのが真相ではないか。
しかし、今はあの頃とは違う。現在のヒットモデルはすでにセダンやハッチバックではない。ご存じのように今人気があるのはSUVだ。それを踏まえてマツダ3を評価しなくてはいけないと考えている。
新型車は、一般的に発売当初に多くの販売台数を記録し、その後だんだんと販売台数は落ちてゆくもの。
しかし、マツダ3の場合はまったくその逆で、発売から数ヶ月後にだんだんと尻上がりに販売台数を伸ばしてきている。この状況を「売れているか売れてないか」と評価すること自体が、実はナンセンスなのではないだろうか。
特筆すべきは静粛性!? マツダ3の車としての評価は?
マツダ3 ファストバック。「デザインが国産とは思えないレベルの美しさで、その方向性がユニセックスである点も見逃せないポイント」と筆者は指摘
さて、そのマツダ3の評価だが、筆者自身は米国と欧州で2度試乗し、先日日本国内でも数日間試乗した。
ドライブしながら感じられるのは、作り込みがとてもきめ細かでステアリングフィールやアクセルフィール、そしてステアリングフィールのどれもに“遊び”がない。
これは、ボディフィールやサスペンションにもすべてにわたってのことであり、 とにかく全てがピッタリ隙間もなく作り上げられている感じだ。この完成度の高さはゴルフ5がデビューしてきた時のような、あの立体的剛性感を思い起こす。
さらに、特筆すべきは室内の静粛性だ。
これまでマツダ車に共通した問題はトーボードから湧き上がってくるようなロードノイズ(走行時にタイヤと路面の摩擦で生じる音)だった。それがCX-5辺りから徐々に解消され、マツダ3ではクラストップと言えるほどに進化している。
ただし、路面によっては低周波のノイズはまだ感じられる。けれども中高周波は本当によくカットされていて、低周波も含めて耳障りなノイズはかなり抑えられている。
ついに国産車もこのような車が作れるようになったのだと感心する。
マツダ3の課題は「乗り心地」
マツダ3 セダンの走り。全長4660×全幅1795×全高1445mmと、あくまでサイズだけで比べればベンツCクラス等より若干小さい車格となる
では、両手を上げて褒めあげられるのかと言うとそうでもない。もちろん、この価格帯(222万~368万円)でここまで作り上げたことは素晴らしいというほかない。
例えば、メルセデスやBMWなどライバルとして考えるならば、マツダ3よりもはるかに高い対価を払わなければ同じようなレベルは手に入れられない。
そのようなことを考えるとよく作ったものだと言えるのだが、ひとつだけ乗り心地に関しては素晴らしいとは言い切れない。
海外で乗った時にはそれほど乗り心地が悪いとは感じていなかったのだが、日本国内で数日乗って感じたのは低速域における突き上げ感。
米国や欧州では比較的速度域が高い状況で試乗したので強くは感じなかったけれど、日本は常用域の速度が低いので、どうしても路面のアンギュレーションに対する初期の処理が気になる。
いわゆる専門用語での“ハーシュネス”だ。路面の継ぎ目や補修路面などを低速域で通過した時にタイヤを叩くように突き上げが発生する。シートが非常によくできているので大きく気になるわけではないけれど、助手席に乗っていた家族がスマホを見られないと嘆いていた。
ただし、そのハーシュネスは瞬間的なもので、その衝撃が尾を引いて長くバウンシング(共振)することはない。共振は少ないから、人間の目に備わっている手ぶれ補正モードがフル稼働しないから疲れはしないが。
アクセラから変更! “安物”にみえる足回りはハンドリングのため?
一見すると“安物の”足回りを敢えて採用した新型マツダ3。そこに乗り心地とハンドリング特性の狙いが隠されている
マツダ3は、アクセラで採用していたリアサスペンションをマルチリンク式からトーションビーム式に変更してきた。これはサスペンション形式からいえば安物に変更しているわけだ。
しかし、マルチリンクと比較してトーションビームにも長所があり、その長所を上手に利用して素晴らしいハンドリングを実現している。
トーションビームにしたことで乗り心地が悪くなったのか? と言うと、それとこれとは違うと思う。この乗り心地の一因はフロントのロアアームの角度ではないかと考える。
フロントのサスペンション形式はアクセラと同じストラット式。アクセラの時からフロントのロアアームは若干下がり気味にセットされていたのだが、マツダ3ではさらにその角度を下げている。
こうすることによってタイヤを先に潰して、その後サスペンションがスムーズに動くことを目論んだ設計になっている。
一般的にサスペンションとタイヤの縦方向の動きがマッチせず、それによってハンドリングに悪影響が出ることがある。
これは人によっては全く気にならないレベルのものだが、マツダの開発陣は完璧を目指す人たちだからハンドリングをチョイスした。なんとなくスバリストのようだ。
言い換えればミリ単位の誤差も見逃したくないという完璧主義で、このようなセットアップを施している。
ハンドリング主義の私としては歓迎するセットアップなのだが、実際タイヤが吸収しきれないレベルの凸凹であった場合には、ロアアームが下がっているぶん、支点となる接続部を押し上げる力が強いので、このような突き上げ感となって現われてくることが考えられる。
ただし、その代償として実に気持ちよいハンドリングを実現しているのだ。 要するにトレードオフの関係にあるといえる。
マツダ3 半年の評価は「成功か失敗か」
もう一つ運転支援システム(ADAS)のレーンキーピングアシスト(LKA)が、60km/h以上ではキャンセルされる設定になっている。筆者の中ではこれはナンセンス。ADASはドライバーの疲れを和らげ安全運転を支援するシステム。再考が必要だ。
で、私の評価は成功でも失敗でもなく「予定通り」というもの。
たしかに、出だしは鈍かったけれど、その後しっかりとランナーをためて安打でつないで逆転していくという赤ヘル軍団得意のパターンになってきているのではないだろうか。
そして、この後デビューしてくる同じくマツダ3ベースで流行りのSUV、CX-30へとバトンを繋いでいけば大逆転も見えなくはない。
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