サーフボードと空冷ポルシェへの惜しみない愛
ケン・ヘイクは、呼吸をするようにサーフィンを楽しんでいる。水上ではサーフボードを愛し、陸上でのお気に入りは1987年製ポルシェ911カレラ3.2。これはポルシェとサーファーのための特別なイベント「ペトロ-サーフ(Petro-Surf)」を立ち上げた男の物語だ。
サーフィン&ポルシェをフィーチャーした「ペトロ-サーフ」を手がけた男、ケン・ヘイク
ボードに乗り、リラックスしたカリフォルニアのライフスタイルを思い出すと、ケンはサンディエゴを恋しく感じるという。
「太平洋の波は特別です。荒れた北海の波でさえ、あの波と比べることはできません」と、1979年に北海に浮かぶジルト島で生まれた彼はつぶやいた。
北海に浮かぶジルト島で覚えたサーフィン
北部ドイツ出身の彼は、大西洋と太平洋で波乗りを覚えた。最初はウインドサーフィン、その後はもっぱらサーフボードを使い続けている。そして1996年にケンはドイツ・サーフィン選手権で優勝を手にした。
「信じられないかもしれませんが、ジルト島にはサーフィンの長い歴史があります。1950年代から、ライフガード達が北海の波を乗り越えるためにボードを使用していました。彼らはフランスでの休暇からサーフボードを持ち帰り、波に乗るようになったようです」と、ケンは説明する。
18歳になるとケンは海を越えて冒険に出ることを渇望しアメリカへと向かった。1997年、ドイツ代表チームの一員として、カリフォルニアのハンティントン・ビーチで開催された世界サーフィン選手権に参加。すぐにカリフォルニア流の生活スタイルの虜になった。
12年間アメリカで過ごした後にドイツへと帰国
ドイツに戻ったケンはその1年後、再びアメリカへ旅立つ。今度はサンディエゴでマーケティングと経済学を専攻するためだ。
「ほとんどの時間は、世界で最も古いサーフクラブの『ラ・ホーヤ』でサーフィンばかりしていました(笑)。 あの場所にただよう空気には特別な精神が宿っています。それは他の場所とは絶対に比べられないものです」と、彼は懐かしそうに目を細めた。
しかし、米国で12年間過ごした後、彼はドイツへ帰国することを決める。それは当時の雇用主がサンディエゴからロサンゼルスへとオフィスを移転したことがきっかけとなった。
「私はロスが好きですが、住む場所としては忙しすぎるところでした。そして、その時点でドイツに戻らなければ、一生帰国することはないことも分かっていました」
レザーウェアブランド「Marine Machine」を設立
ハンブルクに戻ったケンは、自身のデザインを活かしたレーベル「Marine Machine」を立ち上げる。彼が手がけた生涯使い続けられるクオリティを持つレザージャケットは、ネット通販サイトを通して高い人気を得た。そして、サーフィンと変わらないくらい彼はポルシェへの愛情も深く持ち続けてきた。
ケンは父親の影響でポルシェを好きになったという。
「父は私が本当に幼い頃から、スポーツカーへの情熱に火をつけてくれました」
今もジルト島に住むヘイクの父親(ヘイク・シニア)は、「ポルシェをジルト島に持ち込んだのは私がふたり目です。そして現在もポルシェを所有し続けているのは私だけです」と、片目をつぶった。
彼が最初に手に入れたポルシェは356スーパー。その後、何台ものポルシェを乗り継いだ。
「OHCを特徴とする、有名な“フールマン・エンジン”が搭載された356スーパーでした。正直、今でもあのクルマを売ってしまったことを後悔しています」と、ヘイク・シニア。
「父が長年所有してきたポルシェ各モデルのリストを見ると鳥肌がたちますよ。クレーマーによってチューンされたFシリーズの911 S、そして2台のカレラ2.7。さらにルーフが父のために微調整した911 SCもありました」と、ケンは肩をすくめた。
現在、ヘイク・シニアはファクトリーパワーキット(WTL)が装着された964ターボを所有。一方ケンは、グラニットグリーン・メタリックのGシリーズを愛車にしている。彼はこの911のステアリングを握り、波を探してフランスまで何度もドライブしている。
ドイツだけでなく米国や豪州からもペトロ-サーフに参加
「ポルシェはユニークで、私の心に一番近い自動車ブランドです」と、ケン。
彼の言葉は、友人のアンジェロ・シュミットと共に主催する「ペトロ-サーフ」に参加すればすぐに理解できるだろう。サーファーとポルシェのコラボレーションであるこのイベントは、ドイツ全土だけでなくアメリカやオーストラリアからも多くの参加者を集めることになった。
ペトロ-サーフはクラシック・ポルシェのイベントとして成功を収めつつある。このイベントの魅力はサーフィンをテーマにしながらも、ケンが持つ北部ドイツ流のセンスが込められているところにあると言えそうだ。
「ポルシェとペトロ-サーフが、私たちをどこへ連れて行ってくれるのか、すごく楽しみにしています。最初の2回はありがたいことに成功を収めることができました。カリフォルニアと変わらない乾いた空冷エンジンのエキゾーストノートを、ドイツでも響かせられたのです」
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