ダウンサイジングに希望があった
アメリカのキャデラックは、1970年代後半から不調へ陥っていた。環境負荷や安全性への規制が強化される中で、プレミアム・ブランドの再発明に力が注がれた。
【画像】ディーゼルのキャデラック・セビルとメルセデス・ベンツ300D 両ブランドの最モデルも 全102枚
それまで魅力を振りまいていた強力で長大なクルマは、前時代の象徴として見られるようになっていた。欧州から輸入される高級車や、日本から押し寄せる実用車へ取って代わられ、自国を象徴したような威厳は失いつつあった。
キャデラックは、1976年にコンバーチブルを生産しないと発表。アメリカ人へ衝撃を与えた。同時に、ダウンサイジングには希望があった。その前年、1975年に発表された初代セビルは、上品な容姿に優れた操縦性を備え、世界的に高い評価を集めていた。
その頃のメルセデス・ベンツSクラスへ並ぶ成功を収めた、洗練されたサルーンといえた。従来より高い価格へ設定しつつ、歴代で最も小さなモデルを販売するという、巧妙なトリックも軌道へ乗せてみせた。
ゼネラルモーターズ(GM)の幹部は、メルセデス・ベンツやBMW、ジャガーからセビルへ乗り換えられている事実を喜んだ。しかし、アメリカ政府は更なる規制強化へ動いていた。燃料の消費を一層抑える必要があった。
1978年にアメリカで施行された企業平均燃費(CAFE)規制は、自国で販売されるメーカーの平均燃費を6.4km/Lへ抑えることを求めていた。1984年までに、9.7km/Lへ改善する必要性も定められていた。
企業平均燃費達成のためのディーゼル
この目標を達成できない場合、反則金が課せられただけでなく、追加のガソリン消費税も納めることになった。実際にジャガーは数字へ届かず、CAFEの反則金として当時で500万ポンドを支払い、1600万ポンドの課税が発生している。
キャデラックの答えは、金で何とかするのではなく、GMの新しいEボディ・プラットフォームで次期モデルを開発すること。その結果、1980年の2代目セビルは、1979年の5代目エルドラドと前輪駆動パワートレインとサスペンションを共有した。
少燃費化の決定打に据えられたアイデアが、ディーゼルエンジンの標準化。オールズモビル・ブランドで1978年に開発された、5.7L V型8気筒ディーゼルが、長いボンネット内へ収まった。ちなみに、初代のモデル末期からオプションに設定されていた。
とはいえ、アメリカではガソリンが安かった。乗用車へディーゼルエンジンを載せるという発想自体が、当時のユーザーには少し異質なものではあった。
メリットは少なくなかった。軽油は安く、燃費も良く、排気ガス規制の対象から外れていた。シボレーやポンティアックに並んで、キャデラックも採用することで、CAFEの平均値を比較的容易に下げることが可能だと見込まれた。
一方で、GMの財布の紐も硬かった。技術者には新規開発が認められず、コンベンショナルな350cu.in(5.7L)のV8スモールブロックを、ディーゼルへ変更する方法が取られた。軽油を圧縮点火させるため、シリンダーブロックは補強された。
史上最悪のエンジンの称号がふさわしい
しかし、コスト削減を目的に充分な強度を持つヘッドボルトは採用されず、ガスケットは簡単に吹き抜けた。クランクシャフトとエンジンブロックは割れやすく、インジェクターや燃料ポンプには故障が頻発した。
ディーゼルエンジンの不調ぶりに、ユーザーは団結。新しいエンジンへ載せ替える費用の80%をGMが負担することを求める、集団訴訟へ発展してしまう。このLF9型ユニットほど、史上最悪のV8エンジンという称号がふさわしい例は見当たらない。
欧州市場で2代目セビルが発表されたのは、1979年のドイツ・フランクフルト・モーターショー。ディーゼルの不評がどの程度広まっていたのかはわからないものの、多くのユーザーは、追加費用でガソリンエンジンのオプションを指定したようだ。
キャデラックほどの金額のサルーンを買える人は、支払えるガソリン代にも余裕があった。北米での価格は、2万400ドルに設定されていた。
バッスルバックやスラントバックと呼ばれた、テールが切り落とされたように急降下するセビルのスタイリングは、賛否を呼んだ。GMのデザイナーを率いたビル・ミッチェル氏の、最後の作品でもあった。
彼は1930年代や1940年代のロールス・ロイスなどで見られた、エンプレス・ラインへ影響を受けていた。特徴的な後ろ姿を嫌った人も多かったが、好んだ人も少なくはなかった。リンカーンやクライスラーも、同様の処理のモデルを提供している。
ディーゼルと縁が深いメルセデス・ベンツ
他方、欧州の高級ブランド代表、メルセデス・ベンツはディーゼルエンジンと縁が深い。収益の軸はV8ガソリンエンジンを積んだ大型サルーンだったが、1970年代の終りまでに、軽油を燃料にする中型サルーンを200万台ほど提供している。
キャデラックがディーゼルエンジンを採用したことへ、可能性を見出したとしても不思議ではない。実際、1981年までに北米で売れていた同社のモデルの約半数が、ディーゼルエンジンのW123型ミディアムクラス、240Dと300Dだった。
そこで1981年から1985年まで、W123の北米仕様はディーゼルエンジンのみへ絞られた。ターボ・ディーゼルエンジンを積んだC123 300 CDクーペや、W116型Sクラス 300SDも、この市場でのみ提供されている。
この300Dに搭載されたエンジンは、5気筒のOM617型ユニット。最高出力は当初81psだったが、後に88psへ強化されている。シリンダーヘッドは合金製で、ブロックはスチール。チェーン駆動のオーバーヘッドカムと、6枚のメインベアリングが組まれた。
6気筒ほど大きくなく、4気筒より滑らかで堅牢だった。技術者が長年培った知見が活かされ、大型の商用ユニットでは確立された設計でもあった。
OM617型ユニットは、1976年の発売当初からW123型へ設定。英国にも、サルーンとステーションワゴンのボディで、自然吸気の300Dが導入されている。
この続きは、ディーゼルの高級車(2)にて。
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みんなのコメント
ヤバすぎて草
つっかえ棒ではなく、ボンネットダンパーですね
エアコン パワステ パワーウィンドウ は1950年代のキャデラックで既に標準装備されていた
80年代後半くらいまではキャデラックは憧れの的でしたね
いまではDA PUMPよろしく「カモンベイビーアメリカ」的な感じでドイツ勢には勝てないですけど、、、、