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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】アップデート投入を活かしてケビンが4番手獲得。VF-23の弱点も複数解消

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】アップデート投入を活かしてケビンが4番手獲得。VF-23の弱点も複数解消

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。今年で2回目の開催を迎えたマイアミGPで、ハースは新しいフロアを投入した。その効果はさっそく現れ、難しいコンディションでも好感触を掴み、ケビン・マグヌッセンが予選4番手を獲得した。そんなマイアミGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

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マグヌッセン10位、フェラーリと堂々バトル「もう少し上の結果を夢見ていた」ハース/F1第5戦

2023年F1第5戦マイアミGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選4番手/決勝10位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選12番手/決勝15位


 今回僕たちはマイアミで新しいフロアを投入しましたが、これが上手く機能してくれました。ニコがFP1でクラッシュしたり、ケビンもターン7でコースアウトしたりと、特にオフラインはグリップがなくて、さらに突風が吹いたりとミスしやすい状況ではありましたが、1周をまとめきれなかったラップでもある程度いいタイムが出ていました。セクタータイムを見てもよかったです。アップデートの効果は空力のデータでもはっきりと確認することができたのでFP2では2台ともアップデートしたフロアで走りました。これに合わせてセットアップを進め、全体的にクルマの性能を上げることができました。

 FP3でソフトタイヤを2セット使い予選練習をした時も比較的簡単にタイムを出せたので、予選では2台ともQ3に進めると思っていたのですが、残念ながらニコはQ2敗退となってしまいました。Q2最後の新タイヤを履いてのアタックに行く際、アウトラップのバックストレートでスペースを空けようとしていたところでフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)に最終コーナー手前で抜かれ、これでちょっと焦ってターン1でミスをして、セクター1全体でも大きくタイムロスしてアタックを取りやめることになりました。アロンソはいつも通り彼がやらなければならないことをやっただけなので、ニコは冷静にやればケビンと同じようなタイムを出せていたと思うので残念です。

 特にQ2で最初にユーズドタイヤ(中古タイヤ)で走った時のニコのタイムがメルセデス勢よりもよかったので、いける手応えはかなりあったのでもったいなかったです。一方ケビンは最後の新タイヤの一発勝負で素晴らしいタイムとはいえないものの上手くまとめてくれて無事にQ3に進むことができました。

 Q2でユーズドタイヤでもいいタイムを出せるということがわかっていたので、Q3でもケビンをまずユーズドタイヤで送り出しました。ここでもタイムがよくて、アロンソには敵わなかったものの、アルピーヌやメルセデスよりも速かったので満足しています。3番手のカルロス・サインツ(フェラーリ)は新品ソフトを履いていて、そのサインツとユーズドのケビンの差がコンマ6秒だったので、すごくいいタイムでした。

 2回目のランは一番トラック状況のいいところで走るために、時間的にも余裕があったので最後に出て行くことにしたのですが、シャルル・ルクレール(フェラーリ)がコースオフして赤旗になり、この時点で残り時間は1分半ほどだったのでこれで予選終了となりました。やはり先ほども書いたように、ミスしやすいコース状況だったのでタイムを出せる時に出しておいたのが功を奏しました。アップデートの効果も活かせましたし、うまくいった予選でした。ウチが一発の速さでここまでフェラーリと近かったことはおそらくないですし、実力でメルセデスより速かったというのもハッピーです。ケビンの4番手という結果でチームの士気も上がりました。

■タイヤ戦略は正解。10位入賞を果たすもレースペースに課題

 レースはふたりとも偶数グリッド(右側)からのスタートで、ケビンはグリップの悪さなどもあってポジションを落としてしまいました。あまりケビンらしくなかったですね。その後はルクレールの後ろに詰まりましたが、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がルクレールを抜いた時にケビンもルクレールの前に出ることができました。そこからはケビンの方がルクレールよりやや速くてギャップを築いたのですが、タイヤの状態が悪くなりルクレールに追いつかれて、バトルしているとラップタイムに影響するので早めにピットに入れました。

 そのあとはまあまあなペースで走ってくれて、問題なくアルファロメオを抜けました。ただ問題だったのは後ろの角田裕毅(アルファタウリ)やピエール・ガスリー(アルピーヌ)、ランス・ストロール(アストンマーティン)が追いついてきた時に、前にクルマがいる状態だとクルマの挙動がよくなかったことです。ケビンはこれで苦労してルクレールに追いつかれて、タイヤも使っていたので抜かれてしまい、ペースをリカバリーできなくてずるずると落ちて最後は10位となりました。

 本当だったらガスリーがいる位置(8位)にいなければいけなかったです。いくらスタートを失敗したとしても持っているペースはアルピーヌとほぼ変わらないですから。ウチのクルマはトラフィックのなかでは速くないし、コンスタントにいいペースで走ることが難しいので、結果として大きな差になってしまいます。なんとか10位で終えるという状況を改善しようとしていますが簡単ではありません。

 タイヤ戦略に関しては、ケビンがミディアムスタート、ニコがハードスタートで正解だったと考えています。僕のなかでは、ガソリンを積んだ状態で走るならハードの方がいいと思っていたのですが、さすがに4番手スタートのケビンをハードにするという選択肢はなかったです。周りは全員ミディアムスタートだとわかっていましたし、そのなかでひとりだけハードだったら、オフラインはグリップが悪いし、1周目にサイドバイサイドになってレコードラインを走れなかったら順位を落としていたはずです。

 もうひとつハードタイヤについて心配していたのは路面温度です。日曜日はそこまで温度が上がらないというのを懸念していました。チーム内でもいろいろと議論を重ねましたが、僕はハードで走らせたかったんです。セクター1は確かにリスクがありましたが、ニコがポイントを獲るためには前のクルマより速く走らないといけないし、ニコの後ろからはルイス・ハミルトン(メルセデス)やストロールも来るので12番手スタートでも13、14番手とあまり変わらない状況でした。それで前のクルマと同じ選択をしたら抜くのは難しいし絶対ポイントを獲れないと思ったので、ハードでスタートすることにしたのです。

 蓋を開けてみればハードでスタートしたクルマは結構いたし、これでよかったと思います。ニコもスタート自体はよくなかったものの、ウイリアムズをストレートで抜き、オープニングラップを11番手で帰ってきてくれました。この後は前のバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)に詰まっていたものの、想定通りミディアムスタートのボッタスが15周目にピットインした後は前が空きました。ここまではハードスタートで予定通りの展開でした。しかし、この前が空いた状態でもう少しペースを上げられればよかったのですが、逆にハミルトンに後ろからプレッシャーをかけられました。ハミルトンに抜かれた後はペースが落ち、ジョージ・ラッセル(メルセデス)に抜かれたり、角田にもプレッシャーをかけられました。

 要するに、VF-23の現状の課題はレースペースだということです。一発の速さはあるけれど、安定して走れる速さはありませんでした。とはいえ今回投入したフロアで一歩よくなったと思います。ガソリンを積んだ状態でもフリーエアーで最初から走っていたら結構速いですが、VF-23は運転するのが簡単なクルマではないので、それがタイヤを持たせられないことに影響していて、その欠点がトラフィックのなかだと顕著に出ます。だからウチはオーバーテイクが難しくて、逆に追い抜かれるけど追い抜けないという状況に陥ってしまうんです。小さな差ですがこれがレースになると響きます。とにかくレース毎に違うチャレンジがあるので、その状況に合わせてベストなクルマに仕上げるようこれからもやっていきます。今回のレースである程度フェラーリやメルセデスと競えたことを前向きにとらえています。次のレースはイモラです。天気が安定しなさそうですが、チャンスを活かしたいです。

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