■未来を見据えた実験的要素満載のロードスター
かつてリアルタイムで現役時代を体感し、それ以後も長らくユーズドカーとしてマーケットでの行方を見守ってきたクルマが、今や「ヤングタイマー・クラシック」の領域に足を踏み入れ、これまでの相場観を覆すような価格で取り引きされる様子に驚かされてしまう。一定の年齢を重ねたエンスージアストにとって、こうした経験はよくあることだろう。
「ランボルギーニBMW」といわれた悲運のスーパーカー「M1」とは
そして、今後きっと同じような道筋をたどることになりそうなクルマの最右翼として、BMWが1980年代後半に送り出した、ちょっとカルト的なロードスター「Z1」を思い出されるファンも多いことだろう。
今回は英国シルバーストーン・オークション社が開催した対面型およびオンライン併催の大規模オークション「THE MAY SALE 2021 – CLASSIC CARS AND CLASSIC MOTORCYCLES」に出品されたZ1ロードスターのオークションレビュー結果から、現在のマーケット市況についても考察してみたい。
●「Z1」は当時どのようなクルマだったのか
BMWのモデルラインナップにおいて、約四半世紀にわたって異彩を放つロードスター「Zシリーズ」は、いずれも強い個性がバックボーンとなってきた。
「Z」のシリーズ名は「Zukunft(ドイツ語で『未来』の意)」の頭文字ともいわれているが、その称号にもっとも相応しいのは、間違いなく開祖にして車名の由来である「Z1」であろう。そのアピアランスは、最初に発売されてから30年を経た今となってもモダンであることはもちろん、依然として未来的とさえ断言できるだろう。
1987年のフランクフルト・ショーで発表、2年後の1989年から正式に発売されたZ1は、骨格を成すインナーモノコックに樹脂製のボディパネルを組み合わせるという特異な構造の持ち主。外皮なしでも走行可能な亜鉛メッキ鋼製インナーモノコックはシーム溶接され、ボディの硬度は通常のモノコックに比べて25%のアップを得たという。
その結果、当時のオープンカーとしては信じがたいほどの剛性を確保。オープンモデルには付きもののスカットルシェイクを追放するとともに、素晴らしいハンドリングも確保するに至る。
脱着可能なサイドパネルとドアは、北米ゼネラル・エレクトリック社製の「ゼノイ・インジェクションキャスト」熱可塑性プラスチック製で、ボンネットとトランクリッドはグラスファイバー樹脂製。全身を柔軟性のある特別なラッカーでペイントするという、かなり実験的なボディワークとされた。
Z1に込められた最先端の思考は、ハーム・ラガーイ氏が主導したというデザインワークのあらゆる側面において明らかだった(氏は後にポルシェで「ボクスター」や「996」を手掛けることとなる)。なかでもこのモデルのアイコンとなっているのが、英語圏での愛称「Drop-Door」の由来となっている昇降式ドアである。
深いサイドシルに収納する構造の革新的な電動ドアは、サイドウインドウとドアの双方を連携させるコッグドベルトを、ボタン操作によって作動させる。ソフトトップの開閉およびサイドウインドウの開閉に加えて、ドアまで下ろした状態のままでも走らせることができることから、すべてを開いた状態ではまるで四輪のモーターサイクルのような開放感が満喫できると評されていた。
サスペンションも新機軸が実験され、リアにはBMW初のマルチリンク式サスペンションである「Zアクスル」が採用された。
また、乱気流とリフトを減らすことを目的としたエアロフォイル型の横置きリアサイレンサーや、ダウンフォースを誘発するために車輪の前に高圧ゾーンを作成するよう設計されているノーズ周辺、そして複合材製のアンダートレー型フロアなど、巧妙なエアロダイナミクスも複数が盛り込まれていた。
一方パワーユニットは、E30系「325i」から流用された「M20B25」型を搭載。ゲトラグ社製の5速MTも3シリーズからの流用である。0-100km/h加速タイム7.9秒で、最高速度225km/hと、当時としてはなかなかの高性能車であった。
かなり実験的な要素が強いモデルゆえに、生産開始までに2年近い期間を要したにもかかわらず、実質的な生産期間は約2年。生産台数も約8000台に終わってしまう。
それでも、Z1の残したインパクトは小さくはなかったようで、そののちBMWから登場する2座席ロードスターには、あまねく「Z」の名が与えられることになるのだ。
■まだまだ価格は上がる? Z1を買うなら注目すべきポイントとは?
シルバーストーン・オークション「THE MAY SALE 2021」に出品されたBMW Z1は、生産最終期にあたる1990年に生産された1台。左ハンドルながらイギリス仕様車である。
現在も継承されている「G264 TTO」の登録ナンバーとともに、1990年3月15日に初の英国内登録を受けている。
●「Z1」のコンディションは?
約8000台が生産されたZ1の多くはドイツ国内にデリバリーされ、それらの車両がイギリス国内のマーケットに並行輸入車として数多く流通しているそうだが、今回の出品車両は、BMW UKによって英国に正規デリバリーされた左ハンドル仕様車とのことである。
ボディカラーは、このモデルではもっとも多く作られた「トップレッド(Top Red)」。インテリアはブラックとアンスラサイト(灰色)のコンビレザーで仕立てられている。
今回のオークション出品者である現在のオーナーは、約27年にもわたって25台のコレクションとともに、このZ1を所蔵したとのこと。その前には2人のオーナーのもとを渡り歩いたことから、現在に至るまで3オーナー車であることが判明している。
現状での走行距離は、オドメーターが示すとおり5万2258マイル(約8万4100km)という、ヨーロッパの感覚では低走行の範囲に収まるもの。また、現オーナーのもとでは整備と車検は継続されつつも、ほとんど使用されてなかったという。
英国内での車検は2022年1月10日まで有効で、オリジナルのサービスマニュアル、これまでのサービス履歴を記したドキュメントなども、販売時には添付されるとのことであった。
シルバーストーン・オークション社は今回の公式WEBカタログにて、BMW Z1のマーケット相場が高騰傾向にあることアピールしていたが、5月22日に行われた競売では2万8688英ポンド、日本円に換算すれば約437万円という価格で落札されることになった。
この落札価格は、現在の市場における実勢価格と見比べれば、かなり安価とも思われる。たとえば、現時点において日本国内の某中古車専門サイトで発見できた、ただ1台のZ1には850万円のプライスタグが掲げられている。また海外のオークション結果やクラシックカー専門サイトでチェックしても、おおむね700万から1000万円あたりで動いていることがわかる。
それらの市況から判断すれば、今回の出品車両は間違いなくリーズナブルなのだが、それには車両のコンディションが大きく影響している可能性があるかと思われる。
●「Z1」を選ぶポイントは
BMW Z1は、近年でいえば「i8」のごとく、コンセプトカーをそのままシリーズ生産・市販してしまったようなクルマ。それゆえ、特にボディ周辺/インテリアの耐久性への配慮は、30年以上も昔のモデルであることを勘案しても、いささか不十分だったといわれているようだ。
カタログ写真を一見する限りでは、つややかなコンディションにも見えるものの、Z1に詳しい識者によると、樹脂製の外皮は特殊な塗料が劣化しやすいそうで、その保全がなされている、あるいはレストアされているか否かが評価を左右するという。
また、ハンドメイドだったというインテリアも、同時代の量産型BMWより明らかにナーバスで、経年や使用状況による劣化の度合いには大きな個体差があるとのことである。
機関部についてはE30系3シリーズ譲りで、信頼性やサービス性には一定の安心感があるそうなので、さらなる価格高騰となる前にZ1を入手したいという人は、主に内外装のコンディションに注目すべきとお伝えしておくことにしよう。
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みんなのコメント
持った車を買うのに選ぶポイントも何も、当然不具合が
ある物として買わないとZ1は見つからないでしょ。
悪しき集団であることを明確にするために用いられる通俗用語