全20戦で争われたロードレース世界選手権の2022年シーズンが幕を閉じ、オフシーズンに日本の3メーカーが恒例のMotoGP取材会を実施した。スズキでは河内健テクニカルマネージャーと佐原伸一プロジェクトリーダーにインタビューを行い、ジョアン・ミル、アレックス・リンスが戦ったチーム・スズキ・エクスター、そしてMotoGPマシンのスズキGSX-RRについて聞いた。
前編は“マシン”についてフォーカスして、ミルとリンスのマシンの違いも触れた。後編では両ライダーのパーツの好みやライディングスタイル、さらにテストライダーや代役ライダーについてスポットを当てていく。
白いホイール、リヤウイング、ミルとリンスで選択が分かれた空力。2022年最終型のスズキGSX-RR/MotoGP取材会
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2020年にチーム・スズキ・エクスターにタイトル獲得をもたらしたミルは、スズキにとってラストシーズンとなる2022年シーズンは、87ポイントのランキング15位で締めくくった。
そんなミルの2022年は「序盤から悪くなかったんですよ。ところが中盤戦になって今ひとつ歯車がかみ合わない感じがあって、やっとこれから得意なコースが巡ってくるなと思っていたオーストリアGP決勝中の転倒で怪我をしてしまったことが全てですかね」と佐原伸一プロジェクトリーダーは語った。
ミル自身、不安やプレッシャーなど様々なことを感じることも多かったのだろうか。2022年シーズンは転倒が相次ぎ、第13戦オーストリアGPの決勝で転倒を喫して右足を骨折し、以降日本GPを含む4戦を欠場した。
「ジョアンがオーストラリアGPで復帰後も、マイナートラブルでマシンが100%完調といえないこともあったので、それは申し訳なく思いました。2022年はマシンパフォーマンスを上げたことによって、ある領域でジョアンの好みからずれた部分を修正するためのベースセッティングの変更が必要となりました。そのセッティングの迷いからシーズンを通してジョアンの調子にも影響してしまったと感じています」
一方のリンスはシーズン序盤に2度の表彰台を獲得し、さらに第18戦オーストラリアGPと最終戦バレンシアGPで優勝を飾り、スズキ最後を勝利で締めてランキング7位となった。そんなリンスの2022年については、次のように語った。
「以前のアレックスは調子の良し悪しの波が大きかったですが、2022年に限っては彼の意識の持ち方が変わったのか、初めから調子がいい状態を毎レース維持できていました。ただ、ライダーの調子とは別に、シーズン中盤では必ずしもレースの結果に繋がらなかったというのも事実です。例えば不可抗力的なアクシデントによる負傷などもありました。それでもアレックスの調子自体は良い状態で、怪我からの復帰も比較的スムーズでした」
「ただ、オーストリアでジョアンが怪我をしてしばらく欠場している間、代役ライダーだったり、ひとりで走ったりという時にはやはり本来の100%のアレックスの力ではなかったような気がします」とチームメイト同士で切磋琢磨しながら戦っていたことがわかるエピソードも出た。
「刺激しあう相手がいなくなったというのが大きいかもしれないですね。ジョアンが戻ってきた後、フィリップアイランド以降は本来のアレックスに戻ったなっていう感じはしましたね」
ここまで、河内氏にマシン、佐原氏にミルとリンスのコンディションについて語ってもらった。そんなチームメイトでもあり、ライバルでもあるふたりのライディングスタイルはどう異なるのだろうか。
「(違いは)明確にありますね、ブレーキングです。最終的にはセッティングの範疇ですが、求めている挙動というのはちょっと違います」と佐原氏が語り、河内氏が以下のように続けた。
「ジョアンは少し暴れながらコーナーに入っていくのに対して、アレックスはリヤを流しながらも、もう少し大人しく入るんです」
「ブレーキングでちょうど良い具合にリヤが流れないとうまく走れないんですよ。流れ過ぎると止まれないし、流れないと今度はフロントがプッシュされて曲がれないし。セッティングでその辺の流れ方を変えることはある程度できますが、正確に計算してどれだけ流すというのは難しいところです」
キャラクターもライディングスタイルも異なるふたりだが、スズキGSX-RRのセッティングについてはどうだったのだろうか。
「どちらかというとアレックスの方はどこに行っても使えるベースのセッティングというのが出来上がっていた感じですね。ジョアンはまだベースとしては100%完成していなかったような気がします。今年のマシンは特にそう感じます。チャンピオンを獲った時はもう少し安定していましたね」
「どんなライダーでもそうだと思いますが、その時々の調子やコースの好き嫌いなども含めて考え、セッティング変更の必要性やタイミングを上手く見極める必要があります。その辺はアレックスのクルーチーフが上手くできていたので、我々も安心して任せることができました」
このように、ミルとリンスふたりは同じチームで同じマシンに乗っていたとはいえ、やはりキャラクターやライディングスタイルに違いはあったようだ。
さらにライダーにフォーカスすれば、2022年はミルの代役に、渡辺一樹、津田拓也、ダニロ・ペトルッチが招集された。ミサノテストではドミニク・エガーター、もてぎテストではグレッグ・ブラッグまでもがGSX-RRを走らせた。
テストライダーのシルバン・ギュントーリが怪我していたこともあったが、なぜこのような人選になったのだろうか。
佐原氏は「一言でいえばタイミングですかね。今のMotoGPで代役ライダーがぱっと乗って成績を出すなんてほぼ不可能じゃないですか。どれだけ安全に週末を過ごせるかがまず第一で、そのサーキットを走った経験がある人や、MotoGPで実績がある人、あとはその中でほかの活動にプラスになるということで選ばれたのが彼らでした」
「渡辺一樹はMotoGPのウイークを経験したことで自信にもなっただろうし、いい意味で技術的にも影響して、全日本ロードで中須賀くんと激しくバトルできたなんていうのは結果的に良かったと思っています」
「ペトルッチについては、ドゥカティやKTMを経験したライダーを乗せてみるのも興味があって、(ペトルッチが契約していた)ドゥカティの許可も得られたので乗せてみたんですが、我々も勉強になりました。非常に人柄の良いライダーで、こういう考え方もあるんだって感じました」
「エガーターをテストで乗せたのは、その時まだジョアンが次のレースで復帰できるかがわからなかったんですよ。エガーターが代役として出られる可能性があるなら一回試してみようという理由で決まりました。彼は過去にTeam KAGAYAMAでスズキに乗って鈴鹿8耐に参戦したこともありましたしね」というが、ミルがアラゴンGPで復帰したためエガーターの本戦出場はなかった(ミルのアラゴンGP復帰はプラクティスのみで決勝は欠場)
「グレッグ・ブラッグはMotoGP経験もないんで、いきなり代役という選択肢はなかったんですが、もてぎで前から一度テストさせてほしいという話があったので乗せてみました」とヨシムラSERT Motulとの合同テストでGSX-RRのライドが叶った。
上記のように精力的に活動を続けてきたチーム・スズキ・エクスターだったが、2022年限りでMotoGPの活動に終止符を打つこととなった。しかしそれはチームの意向ではなく、スズキ本社からの通達だったという。
佐原氏は「私に連絡が来て、それをチームに伝えました。チームマネージャー、ライダー、クルーチーフ、あとチーム全体っていう順番で伝えました」と述べた。撤退が決まってからもテストに尽力したのは「単純に今年のレースは最後まで全力で戦いきろう」という思いからだった。
最後まで全力を尽くして戦い抜いたスズキは、最終戦で勝利を挙げ、ラストイヤーにふさわしいとも言える結果で活動を締めくくった。「今まで、印象に残ったレースはなんですか? と聞かれても特にこれという話はしてこなかったんですが、やはり最後のバレンシアのレースは一番印象に残っています。これまで一緒に苦労してマシンやチームを作ってきた仲間との最後の集大成ともいえるレースでしたから。日本の開発陣も現場のチームも本当によくまとまって最後まで力を発揮してくれました」
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今週末からはホンダのリンス,ミル,河内さんを応援するけどチームスズキじゃないのが堪らなく残念。