新型レクサス「LBX」は、果たして“小さな高級車”であるのか? 試乗した今尾直樹が考えた。
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レクサスが昨年末に発売した、同ブランド初のBセグメントのコンパクトSUVがLBXである。ごく大雑把に申し上げると、トヨタ「ヤリス・クロス」のレクサス版。しかして単なるヤリス・クロスのレクサス版ではない。見た目が違うのは一目瞭然。プレミアムブランドたるレクサス独自の技術が投入されてもいる。
第一に骨格が違う。「TNGA-B」をベースとするプラットフォームは、ホイールベースを20mm延ばし、前後トレッドは55mmも広げている。クロスオーバーなのに前席乗員のヒップポイントを下げている。重心を低めると同時に、乗用車っぽく足を伸ばすドライビングポジションに変更している。
ヤリス・クロスに較べると全高は35mm低い。その一方、最低地上高はヤリス・クロスと同等の170mmが確保されている。クロスオーバーSUVのようでクロスオーバーSUVではない。ベンベン。それは何かとたずねたら、レクサスLBX! というクロスオーバーな立ち位置の小型車がLBXなのだ。このクラスとしては異例にファットで大径の225/55R18サイズのタイヤを装着することで、SUVらしからぬワイド&ローなスタンスを実現してもいる。
たとえば、フォルクスワーゲンの小型SUV、「T-Cross」の3サイズ(全長×全幅×全高)は4140×1760×1575mm、ホイールベース2550mmである。試乗車のレクサスLBX“Relax(リラックス)”は、4190×1825×1545mm、ホイールベース2580mm。つまり、50mm長くて、65mm広く、30mm低い。昔の国産車はたいていヨーロッパ車よりナローでホイールベースが短くて、ずんぐりむっくりの5頭身という感じだったけれど、21世紀のわれらがレクサスLBXは、同クラスのヨーロッパ車よりホイールベースが長い、いわば八頭身。エンジン横置きの前輪駆動とは思えぬほど、リヤのフェンダーはマッチョなテイストで、がっしりした下半身に小さめのキャビンがのっかっている。居住空間よりもスポーティなシルエットが優先されている。えっへん。ホイールなんて、フォルクスワーゲンT-Crossの16インチに較べると、2インチもでっかい。
室内はパーソナルカーとして大切なタイト感が強調されている。高級ブランドのユーザーは、自動車に乗るときぐらいは少々窮屈なくらいのほうがよいのである。自動車というのは馬車の代わりなのだ。
クール&サイレントで速いLBXのパワーユニットは1.5リッター直列3気筒エンジン+電気モーターのハイブリッドのみである。エンジンこそヤリスと同じながら、組み合わされる電気モーターはグッと強力になっている。ヤリスのフロント・モーターが80psと141Nmであるのに対して、LBXのそれは94psと185Nmを生み出す。車重がヤリス・クロス比で100kgほど重いのは、ボディ剛性を得るための補強が施されているのと、遮音材を増やしているためだと思われる。
運転感覚はSUVというよりホットハッチに近い。ただし、エンジンではなくモーター駆動が印象的で、基礎体温は低め、という印象を受ける。このクラスとしては、クール&サイレントで速い。
試乗車はE-Fourと呼ばれる4WDだけれど、スクリーンに表示されるエネルギーの流れを見ている限り、ドライ路面ではリヤの電気モーターの出番はない。前述したように、フロントの電気モーターのトルクは185Nmもある。アクセルを深々と踏み込むと、3気筒エンジンは3000rpm以上でぶおーっと叫ぶ。その叫びも、レクサスいうところの「源流対策」による遮音の効果だろう、記憶のなかのヤリス・クロスに較べるとグッと静かに抑えられている。エンジン・マウントが異なるためか、振動はよく抑えられており、状況に応じてエンジンは始動と休止を常時繰り返しているのに、タコメーターの動きを見ていないと、感知できないほど、静かでスムーズなのだ。
225/55R18という、ファットでビッグなタイヤを履いていることもあって、乗り心地は50km/h以下の低速だと、バネ下がやや重たい感じはする。ダンピングはフワフワではなくて、よく引き締められており、これぞヨーロッパ仕立て。ということなのかもしれない。50km/hを超えると俄然、スムーズになり、タイヤの上下動が気にならなくなるのも、平均速度の高いヨーロッパ戦略車らしいところだ。
“小さな高級車”と判断するには難しいでは、このレクサスLBX、“小さな高級車”なのだろうか? 本カテゴリーで筆者がすぐに思い浮かべるのは、60年代初めに登場した“ADO16”、オリジナルの「ミニ」の1クラス上のお兄さんとしてアレック・イシゴニスが開発した小型車の高級仕様、ヴァンデンプラ「プリンセス」である。
80年代のニッポンでも一部で人気を博したこのイギリス生まれの小型車は、ハイドロラスティック・サスペンション特有のウニュウニュした乗り心地と、トルキーでほっこりするBMCのOHVエンジンの音色と振動を、ウォールナットのウッドパネルとコノリーレザーで覆われた大英帝国の遺産っぽい雰囲気の空間で味わえた。
90年代の初め頃、私はミニの30周年記念モデルに乗っていたから、その次の自家用車として本気で購入を考えもした。けれど、奥さんが普段使うには信頼性が不安で、結局手を出さなかった。あの頃、ADO16の新車があればなぁ……。
そのヴァンデンプラ・プリンセスの系譜につながる“小さな高級車”の国産車版が80年代初めの日産サニーの派生モデル、「ローレル・スピリット」だったろうし、90年代の初め、マツダが1.8リッターの、三菱が1.6リッターの、それぞれV6を開発したのも、“小さな高級車“像を模索してのことだった……かもしれない。
“小さな高級車”というのは自動車メーカーにとっても魅力的なコンセプトだけれど、しかしてその成功例は多くはない。高級と小さいという組み合わせはあまり相性がよろしくないからだろう。ダイヤモンドだって、大きいほうが高級とされている。
その難しいジャンルに、レクサスがあえてBセグメントで挑んだのは、ヨーロッパでの戦略車として可能性を見出しているからにほかならない。Bセグメントは、ルノー「クリオ(ルーテシア)」、ダチア「サンデロ」、プジョー「208」、そしてヤリス・クロス等がベストセラーとして名を連ねる大きなマーケットである。
そのなかでのお手本とすべきモデルは、メルセデス、BMWには存在しない。成功例はミニしかない。LBXの“Bespoke Build(ビスポーク・ビルド”というオーダーメイドのシステムも、ミニを意識してのものだろう。
65年の伝統を持つミニに対して、レクサスLBXの強みは、クラス唯一のハイブリッドシステムにある。NVHに優れたこのパワー・ユニットを、高級ととらえるか、あるいはフツーととらえるか? それによって評価は分かれる。いや。フツーこそ最上の贅沢である。といういい方もできる。試乗車のオプションを含む価格は560万円ちょっとだからして、筆者にだって買えない金額ではない。さりげない日常のカジュアルな高級車。
この判断は正直、難しい。毎日乗らないと、わからない。カジュアルなラグジュアリーにはさまざまなレベルがあり、たとえば親子丼よりカツ丼のほうが贅沢かもしれないけれど、親子丼にもいろんなのがあるわけだし、牛丼にもいろんなのがある。毎日カツ丼の上を食べるのも、なんである。
“小さな高級車”の評価は、ユーザー自身が下せばいいのではないか。裏を返せば、高級と思う人もいれば高級と思わない人もいるはず。多様性の時代だから、それでいいのだ。むしろ、高級なモノを求める層、求めない層にも訴求できる絶妙な商品とも言い換えられる。
恐るべし、トヨタのマーケティング戦略。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
値段は一流だけどね。
レクサスの名前だけでこの価格設定は詐欺に近い。