プジョー・スポールでWEC世界耐久選手権のテクニカル・ディレクターを務めるオリビエ・ジャンソニーは、新型ル・マン・ハイパーカー(LMH)『プジョー9X8ハイパーカー』で、リヤウイングなしというユニークなデザインを選択した理由を説明した。
7月6日にマシンの姿が明らかにされたあと、ジャンソニーは記者団に対し、従来の空力装置(リヤウイング)を使わず、「新たなアイデアを導入した」場合でも、望ましいパフォーマンスレベルを達成できることをプジョーは発見した、と語った。
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ジャンソニーは、LMHの技術規則によってもたらされた「新たな機会」が、シミュレーションによって効果的だと判明したウイングのない先鋭的なコンセプトへのトライを、プジョーに促したと述べている。
■規則は「より自由」リヤウイングに代わる“調整方法”を検討中
LMH規則の第3.4.1条では、各車にひとつの“調整可能な空力デバイス”の搭載を認めているが、これがリヤウイングである必要はない。
2022年のWECデビューに先駆けて発表された、印象的なプジョーのマシンのデザインは、現在LMH規則でWECに参戦しているトヨタGR010ハイブリッド、ならびにグリッケンハウス007 LMHに見られるシーズン中に1仕様のみが認められるエアロ・コンフィギュレーションにおけるウイングとは、一線を画すものだ。
「LMH規則は、完全に新しい規則だ」とジャンソニーは述べている。
「それは、多くの新たな機会に対してオープンだ。我々はゼロからスタートし、最初のうちは規則を注意深く読むことにかなりの時間を費やした」
「我々には達成すべきダウンフォースについて(規則で)決められた目標があるが、それを実行するための形状については、完全に自由であることに気づいた。これまでに我々が経験した規則よりも、より自由なのだ」
「この空力の数値目標と、自由の組み合わせは、人々を考えさせ、新たなアイデアを検討させようとするものだ。最終的には、必要とされる多くの性能は、基本的にはウイングがなくても達成できることが分かった」
リヤウイングはレーシングカーにダウンフォースを与え、車両を路面に押し付ける。9X8はウイングを持たないため、WECのレースで充分なダウンフォースが発生するよう、プジョーは特定の方法でマシンの他の部分を設計した。
ジャンソニーは、車体に調整可能なエアロを組み込む方法を検討している、と説明している。チームは12月に開始される予定のトラックテストの段階において、この『オプション』を試すプランを持っているという。
彼はまた、プジョー9X8の設計期間中の重要な検討項目のひとつに『従来のリヤウイングなしでマシンのエアロバランスを管理する方法』があったと述べた。
「それは実際、リヤウイングを使わないと決定するために重要なことだった。全体的なパフォーマンスの観点ではなく、バランス調整という観点から、リヤウイングに代わるものを見つけることだった」とジャンソニー。
「我々には、トラックテストで開発する必要のある、いくつかのアイデアがある。開発のこの部分は、トラックテストにおいて良い反応が得られるものだ。ウイングではなく、ボディワークに対して、いくつかのオプションがある」
「この、ボディワークを(これまでとは)異なる方法で使用するという機会は、LMH規則によってもたらされたものだ。規則では、アンダーフロアの形状に対する制限がはるかに少なくなっている。リヤのボディワークについても、別のマナーによって管理されている。このようにして、我々はこのデザインを達成した」
■「今はまだ、少しの謙虚さを保つ必要がある」理由
ジャンソニーはまた、トラックテストが不足しているにも関わらず、プジョーのチームはそのLMHルールの解釈に競争力があり、画期的であることに「自信を持っている」と付け加えた。
「明確に、我々はル・マンに勝つという確固たる意図を持って、このマシンを設計した」と彼は言う。
「とくにリヤウイングについては、リスクをおかしていない。過去数カ月にわたって行なった風洞、およびシミュレーションのすべての結果から導かれたものだ」
「だが、まだこのクルマをトラックで走らせていないので、少しの謙虚さを保つ必要がある」
「現在のところ、(これまでに見てきた)すべてのことから、我々は自信を持っている。確信している、という意味ではない。ただ、我々は本当に自信に満ち溢れているのだ」
プジョーのWECプログラムを含むステランティスのモータスポーツ・ディレクターであるジャン・マルク・フィノーは、彼らが“白紙の状態から”ハイブリッドLMHカーを設計することができたことは、これまでのところ有益であると証明されている、と説明する。
プジョーの直近の耐久レースプログラムは、プジョー908 LMP1でのル・マン24時間/インターコンチネンタル・ル・マン・カップ参戦プログラムで、2011年に終焉を迎えている。ハイブリッドLMP1時代を含む現在までの10年間のギャップによって、プジョーは白紙の状態から9X8ハイパーカーを設計できたとも言える。
「このような非常にオープンな規則のおかげで、必ずやリスペクトされるであろうデザインとともに、通常の規則では得られない革新をもたらすことができる」とフィノーは述べている。
「良かったのは、白紙の状態から始めることができたということ。一方でトヨタは長い間LMP1でレースをしてきたが、そこからいくつかのモジュールや考え方を引き継ぐことができている」
「それはもちろん、ネガティブなことではない。私だって、LMP1からいくらかの技術的なものを手にしたい!」
「また、我々には耐久レースでの経験を積む必要もある。なぜなら、10年、12年、70年といった耐久レースの経験を持つライバルと対峙することになるからだ。だから我々はまだ、とても控えめなのだ」
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