“Joy耐”を戦い抜くために誕生したレース仕様
ドライサンプ化まで行なったAW11本気のサーキットスペック
「ドライサンプ仕様の5バルブ4A-Gを載せたAW11に乗ってみた!」現行車では味わえないダイレクト感に悶絶!!
ツインリンクもてぎを舞台に2001年から開催されるEnjoy耐久レース、通称“Joy耐”。量産車であれば参加可能で、改造範囲はJAF規則のN1(量産ツーリングカー)、またはN2(特殊ツーリングカー)に準じたものとなる。
また、参戦できるドライバーはJAF国内A級ライセンス以上を所持していることが義務付けられているため、ハイエンドアマチュア向けの本格的な耐久レースと言っていい。
そんなJoy耐で2010年に総合優勝を飾ったのがこのAW11。その後、スーパー耐久ST-2クラスチャンピオンの現オーナー後藤さんが譲り受け、マシンメイクからメンテナンスまでを手がけるハツミガレージと二人三脚で戦闘力のさらなる向上を図っている。
注目はリヤミッドに収まったAE101用5バルブ4A-Gだ。ピストン交換によって圧縮比を高め、スロットルボディはAE111用を装着。助手席側に追加されたインテークダクトから、ロータスエリーゼ用インダクションボックスを通して吸気が導かれる。極めつけに、かつてTRDが用意していたフォーミュラトヨタ用キットを使ってのドライサンプ化まで行われているから恐れ入る。
オイルパンに溜まったエンジンオイルを吸い上げエンジン各部に供給するウェットサンプに対して、専用タンクからエンジンオイルを送り込むドライサンプは横Gや前後Gが大きい状況下でも安定した供給を行なえるのが最大のメリット。潤滑不足によるメタル焼き付きなどのトラブルを回避するのに有効で、とくに走行時間が長い耐久レースではマシンの信頼性向上に大きく貢献する。
それとオイルパンを薄く設計できる分、エンジンを低く搭載し、重心を下げられるのもドライサンプ化のメリットと言える。
ミッションにはZZT231用6速MTが組み合わされる。デフサイズの大型化に伴いドライブシャフトにはZZW30用を流用しているが、エンジン(とミッション)の搭載位置が下がることでドライブシャフトが上向きになってしまう。それを緩和するため、エンジンは前に傾けて搭載される。インダクションボックスの後ろに確認できるタンクは、ドライサンプ用のエンジンオイルタンクだ。
右リヤタイヤ前方から下回りを覗き込むと、クランクシャフトによって駆動されるエンジンオイル圧送用ポンプが確認できる。
「5バルブ仕様に載せ換えてるので、元々の4バルブ仕様に対してどれくらい搭載位置が低くなってるのか正確な数値は分かりませんが、少なくとも30mmは下がってると思いますよ」と、ハツミガレージ代表の初見さん。
エンジン制御はモーテックm400が担当。さらにPDM15導入によってリレーやヒューズを廃し、電気系の配線の簡素化も図られる。トラブル防止と軽量化を両立するパーツ選択だ。
パワー重視の予選用マップ(180ps)と燃費重視の決勝用マップ(160ps弱)切り替えや、ピットレーン制限速度を超えないよう作動させる強制レブリミッターなどをインパネのスイッチ操作で可能にするなど、フルコンの機能が活かされている。
フロントのトランクスペースにはATL製燃料タンクを設置。センタートンネル内に配置された純正タンクの41Lに対して60Lと1.5倍の容量を誇る。手前に見える四角いボックスがコレクタータンクで、燃料タンク左右のポンプによってガソリンが送り込まれる。
足回りはアラゴスタ製ワンオフ車高調に、ハイパコスプリング(前後12kg/mm)を装着。まだセッティング中とのことで、これからバネレートやアライメントが煮詰められる。また、ブレーキはフロントEG/EKシビック用ローターにNA1キャリパー、リヤはMR-S用ローター&キャリパーで強化される。
ホイールはボルクレーシングTE37Vで前後7Jオフセット18。そこに195/55R15サイズのポテンザRE-71RSが組み合わされる。スポーツラジアルにも関わらず、SタイヤRE-11Sのハードコンパウンドよりグリップすると言われるアレだ。
ダッシュボードはワンオフFRP製。表面をカーボンシートで仕上げている。メインメーターにはAIM製ダッシュロガーを採用し、クルマの各種情報を集中管理。ロールケージは左右サイドバーが追加された8点式で、前はバルクヘッド、後ろはリヤウインドウを貫通し、それぞれストラットタワーまで延長されている。
今回は試乗もさせてもらう機会に恵まれたが、何が凄いかって、まずピラー留めかつ前後ストラットタワーとも剛結されたロールケージがもたらすボディの剛性感だ。リヤミッドシップで運動性能に優れるAW11だが、わずかなステアリング操作に対してもクルマが瞬時に反応し、切った分だけ面白いように向きを変えてくれる。かといって、決して神経質に感じるわけではない。
エンジンのフィーリングも同様で、低回転域でグズるような素振りはまるでなく、このまま街乗りできるほどの扱いやすさ。ただ、右足の動きに対するレスポンスは鋭く、アクセルペダルをラフにオンオフするとギクシャクしてしまうから丁寧な操作が必要だ。
今回は180ps前後という予選用マップ仕様だったが、中高回転域の伸びとパワー感が爽快。8000rpmと言われたレブリミットに対して、もう500rpmは上まで使えそうな印象を受けた。もちろん、最後はECUセッティングが鍵を握るのだろうけれど、カムはノーマルのまま、スロットルバルブ径を拡大して圧縮比を少し上げるだけで、4A-Gの面白さは倍増するということを再認識した次第。
「Joy耐は7時間をある程度のペースでコンスタントに走れることが重要。そのためにガソリンの量とかタイヤの摩耗具合とかクルマの状況が変化しても、安定してタイムを刻めないとダメ。だから、同じサーキット仕様でも一発のタイムを狙うクルマとは全く違う作りになるよね」とオーナーの後藤さん。
つまり、耐久レースマシンは一定の速さにプラスして乗りやすさも大事ということ。とすると、筆者がこのAW11に対して思ったことは間違ってなかったというわけだ。
TEXT&PHOTO:廣嶋KEN太郎/OWNER:後藤比東至
●取材協力:ハツミガレージ 神奈川県横浜市都筑区早渕2-1-42
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