SBKで培われるピレリらしさ
これほどたくさんのライダーとバイクがテストしてきたタイヤがあるだろうか? ディアブロ スーパーコルサシリーズはピレリがSBKに参戦してきた歴史そのもの。日本のサーキットでも大きなシェアを誇るスーパーコルサが第四世代のV4に進化し、2023年のSBK開幕戦と併せてアジアローンチが開催された。Vol.1はSBK観戦で感じたピレリの強さ、Vol.2ではスーパーコルサV4のインプレをお届けしよう。
新技術が生み出した悪魔のグリップの正体とは?【ピレリ ディアブロ ロッソIV コルサ 試乗!】
ピレリは2023年でSBK参戦20年! 積み重ねてきた強さが市販製品に生かされる
2月末のある日、空はどんよりとした雲に覆われ、イメージしていたフィリップアイランドとは程遠い。僕は、2023年のスーパーバイク世界選手権(以下、SBK)開幕戦と併せて開催されるピレリ ディアブロ スーパーコルサV4のアジアローンチに参加するため、久しぶりにオーストラリアにやってきた。土曜日のSBKレース1直前にサーキットに到着したが、晩夏のオーストラリアは肌寒い。
―― パドックへの入場管理は『SBK Pit in』というアプリで行われ、QRコードで管理している。
広大な芝生で覆われたサーキットは人もまばら、パッドックでは有名ライダーが急足で移動するものの、写真やサインに応えるシーンをよく見る。今回は、メインピットの上にあるピレリのラウンジを使用させてもらいながらのレース観戦。レース1はスターティンググリッドにも入れていただき、まさに至れり尽くせり。こんなに間近で緊張感のあるライダーたちを見るのは初めてだ。
現在SBKは、最高峰のSBKクラスが3レースも開催されるスケジュール。MotoGPも2023年からスーパーポールレースが組み込まれるが、ライダーへの負担は年々大きくなってきている。若いライダーはまだしもベテラン勢はフィジカル的にかなりきついだろう。
ただ、ここがバイクの面白いところでもある。若さと勢いに、ベテランがキャリアとテクニックで対抗するところを見るのも楽しみの一つだ。MotoGPはヴァレンティーノ・ロッシの引退で、もはやそれが通用しない世界になりつつあることを感じるが、SBKにはまだまだそんな楽しみがあると思う。現に2022年王者のアルバロ・バウティスタは38歳の大ベテランである。
―― 開幕戦で圧倒的な強さを発揮した2022年王者のアルバロ・バウティスタは、38歳のベテラン。久しぶりに近くで見ると年齢を感じさせるが、身体はかなり仕上がっていた。
―― この開幕戦がSBKで378回目のスタートとなり、トロイ・コーサーの持っていた記録を更新したジョナサン・レイは36歳。6回のSBKタイトルを獲得しているが、マシン的にはそろそろ苦しそう。
そして様々なバイクやライダーが走るのもSBKの魅力。そしてこれがピレリの強さをつくり出しているのだ。
SBKには国内外の市販リッタースーパースポーツが、WSSPには国産600ccスポーツの他、ドゥカティのパニガーレV2、トライアンフのストリートトリプルRSなどが、そしてSSP300ではカワサキのニンジャ400やヤマハのYZF-R3などが戦っている。ライダーは元MotoGPライダーの大ベテランから小排気量クラスを走る若いライダーまで様々、ある意味成熟とは異なる進化と深化が入り混じっているから様々な意見が飛び出す。
バイクやライダーが異なれば、当然タイヤに求められるものも変わる。まさに多様化した声に応えるための開発を、ピレリは20年間継続。多くのバイクやライダーに合わせるプロダクトを作るのは大変だが、それが結果、我々一般ライダーにも使いやすい間口の広いプロダクトに直結しているのだ。ここにピレリの強さがある。
今回発表されたピレリ ディアブロ スーパーコルサV4は、こんなシーンで培ったテクノロジーが投入された最新ハイグリップタイヤである。
―― フロントフレームにV4エンジンを搭載するドゥカティのパニガーレV4R。国産の並列4気筒と比較するとウイングを除いた車体の幅は猛烈にスリム。これは最高速領域の空力や旋回性に大きく影響しているはず。どのバイクよりもつくりはレーシーな印象だった。
SBKのタイヤ開発はどのように行なっている?
今回は、ピレリの二輪の製品管理責任者のシルビオ・フラーラさんが来ていたので、その開発フィロソフィーを聞いてみた。
―― ピレリの二輪の製品管理責任者のシルビオ・フラーラさんと記念撮影。
ーーSBKには多くのライダーが走っていますが、タイヤの開発はどのように行なっているのですか?
「まずはシーズン前にグループ分けをします。ピレリ側でタイプの異なるライダーやバイクを選んで意見を聞いてテストしていきます。この方法はシーズン中もテストセッションで行っています。
ライダーの選出方法はサーキットやコンディションによって様々で、各テストで何種類かのタイヤを履き比べてもらいます。SBKクラスは特にソリューションが多いですが、全クラスこの方法で開発をしています」
ーーWSSPは様々なバイクが走るようになりました。タイヤのつくり方は変わってきましたか?
「600ccオンリーの時代からは随分変わってきていますね。いまWSSPは2気筒、3気筒、4気筒が走り、出力特性はもちろん、フレーム形式も重量もバラバラですから。何かが違えば選ばれるタイヤは変わるし、求められるものは常に変わっています。
2022年までは全車600ccオンリーの時の仕様で走っていましたが、2023年からは新スペックを投入しています。例えば重量のあるバイクだとブレーキングすると車体が起きようとする傾向になります。だからなるべく汎用性の高いスペックを投入する必要があります。もちろん乗り方によっても変わりますからね。でもこういった開発が市販タイヤに役立つのです」
ーー電子制御が複雑化してきていますが、タイヤの開発に影響はありますか?
「実はレースに関してはそれほど影響していません。まだまだライダーがコントロールしている領域が大きいからです。でも市販タイヤは変わってきています。例えばコンパウンドの配置を変えている一つの理由は電子制御のためです。ただ、オンロードタイヤはアドベンチャー向けのタイヤほど複雑ではないですね」
―― ディアブロ スーパーコルサ V4 SC
ついに第四世代のV4に。前後ともにコンパウンドを3種類用意する、サーキット専用スペック。V3に比べ1本ごとのコードの強度を増やし、撚り方を工夫することで本数を削減。こうすることでラバーエリアを拡大し、減衰力特性を大幅に向上させている。インプレはVol.2でお届け。
―― ディアブロ スーパーコルサ V4 SP
ピレリがSBKで培った技術を投入した最高峰のストリートタイヤ。温度依存が少ないため、タイヤウォーマーを使わなくても性能を発揮しやすく、耐久性も高い。内部構造は刷新され、プロファイルはSCと同様だが、前後にデュアルコンパウンドを採用している。
―― ピレリラウンジでナプキンを束ねるのは小さなディアブロ。今回のアジアローンチをアテンドしてくれたピレリジャパンの児玉さん。
青い空に海! これこそフィリップアイランド!
寒くて震えて過ごした土曜日から一転。日曜日はフィリップアイランドらしく青い空と海が広がっていた。観客席を兼ねる芝生(空き地みたいな場所のたくさんある)には様々なバイクが停まっている。観客の年齢層はかなり高め、若いライダーはほとんど見ない。昨日は天気のせいかとも思ったが、この絶好のレース日和でも観客も出展も少ない。
皆、パドック以外は自由にバイクで移動しながらレースを見ているようなイメージで、芝生の上をバイクが自由に走る。ノーヘルの人もたくさんいるが、マナーも良くて、騒いでいる人も羽目を外している人も見ない。コース上以外はとにかくゆったりと時間が流れている。青い空と海、広大な芝生が抜群の非日常性を味わせてくれる。観客のバイクは様々だけれど、スーパースポーツはほとんどいなくて、アドベンチャーやクルーザーが多めだ。
レースはドゥカティの圧勝劇が続いた。SBKでは2022年の王者であるアルバロ・バウティスタがパニガーレV4Rを駆り、ウエットでもドライでも危なげない走りで3連勝。WSSPではパニガーレV2を駆るニコロ・カネパが2連勝。オーストラリアSBKではパニガーレV4Rを駆るジョシュ・ウォータースが3連勝を飾った。
スーパースポーツの開発が停滞する国産メーカーとドゥカティとの差を痛感させられる結果だが、エンジン&車体ともにスーパースポーツの開発はとてつもないコストを要するだけに仕方ないのかもしれない。このカーボンニュートラル時代、どのバイクメーカーがスーパースポーツを最後までつくり続けるんだろうか……と痛感した。
同時に、これからはマイナーの中のメジャーが強くなっていく時代だとも思う。それは尖ったプロダクトをリリースし続けるドゥカティもそうだし、ハイグリップタイヤを他メーカーにないほど細分化してユーザーにフィットさせるピレリも同じだ。『これじゃないとダメ!』というようなカスタマーの強い要望に応えるピンポイントなものづくりが、これからのスポーツバイクのカテゴリーを成熟させていくのだと思う。
【ライダーをコーナーに誘惑する安心感とパフォーマンス】ピレリ ディアブロ スーパーコルサが第四世代のV4に進化!Vol.2に続く
ここからはフィリップアイランドならではのシーンをお楽しみいただこう!
―― 観戦スタイルはとにかく自由。芝生が観客席を兼ねて、そこをバイクが走り回る。
―― 自分のバイクに跨って観戦する人も多数。コースまでの距離はそれなりにあるけれど開放感が半端じゃない!
―― 観客のバイクは様々。スーパースポーツよりは、アドベンチャーやクルーザー系が多い。
―― オーストラリアならではだと思ったのはモリワキ仕様のバイクがあったこと。ZRX1200Rベースのガードナー仕様も!
―― ミック・ドゥーハンコーナー(1コーナー)のイン側にはBAR SBKを設置。グッズ販売はあるがその数は少なく、ライダーのオリジナルグッズもほとんどない。
―― メインストレートを挟んだパドックの向かいには建屋があり、中には各メーカーが新車を展示。バーもあってSBKオリジナルのドラフトビールも用意。
―― ダニロ・ペトルッチ(左)とスコット・レディング。ライダーは気軽に記念写真に応じている姿が印象的。
―― MotoGPからやってきたレミー・ガードナー(左)と、2022年のWSSPチャンピオンで2023年SBKに昇格したドミニク・エガータ。ルーキー2人はピットウォークでも積極的にファンサービス。
―― ピットウォークでも気軽に笑顔をくれるドゥカティの女性2人。WSSP仕様のパニガーレV2もつくりがとてもレーシー。ドゥカティは自分たちだけのフロントフレームを完全にものにしている。
―― 最後にレースを度々赤旗中断にしたロウバシガンという鳥を紹介。鶏よりも大きな印象で、度々コース上に出現。その度に赤旗でレースが中断になる。ただ、観客もライダーも「オーストラリアだから……」と慣れている印象。
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