ベントレー モーターズ
セールス&マーケティング担当取締役
次なる100年に向けたベントレーの展望とは? 未来のラグジュアリーカー像を訊く【ベントレー特集】
クリス・クラフト
Chris Craft
変化が起きることを楽しみにしている
CO2削減への要求や都市交通の混雑など、今後ラグジュアリーカーブランドが直面する課題は少なくない。そこで、ベントレーのセールス&マーケティング担当取締役であるクリス・クラフト氏に同社の現状と今後の展望を訊ねた。
まずはクラフトにベントレーの現在について語ってもらった。
「2019年はベントレーにとって非常に重要な年です。今年、私たちは創業100周年を迎えました。では、ベントレーの真髄とはなんでしょうか? 私たちはラグジュアリーカーブランドとして素晴らしい歴史を有しています。WOベントレーがこの会社を立ち上げた100年前まで、私たちは歴史を遡ることができます。これはとても重要なことです。そこで今年は世界中で100周年を祝するイベントを行ないました。グッドウッド、パリ、ル・マン、アメリカのニューヨークやモントレー、北京などで大規模な催しを実施し、とても強い存在感を示すことができました」
しかし、ベントレーは過去を振り返るだけの会社ではないとクラフト氏は強調する。
「歴史とともに重要なことは、私たちの目は常に未来を見つめている点にあります。いま、自動車産業はかつてない変革期を迎えようとしています。環境への配慮、新しい製品の認証、今後必要とされる技術革新、これまでになかった競合メーカーの参入など、様々なチャレンジが待ち受けていますが、私たちはそうした変化が起きることを楽しみにしています。なぜなら次の100年間もラグジュアリーカーブランドであるベントレーには大きなチャンスがあると捉えているからです」
ラグジュアリーカーの未来をどのように捉えているのか?
「優れたラグジュアリーブランドにヘリテージは欠かせません。これについてはすでにお話ししましたが、それだけでラグジュアリーカーブランドとして成功できるわけではありません。ラグジュアリーな製品で重要なのはその希少性であり、クラフトマンシップです。いっぽうで、私たちがこれまで築いてきたクラフトマンシップの歴史はもちろん重要ですが、それを次世代に向けて再解釈することも忘れてはいけません。そのためにはサステイナブルであることが重要です。サステイナブルといっても、自動車の電動化だけではありません。自動車に用いるエネルギーもサステイナブルなものである必要があります。工場もサステイナブルでなければいけません。そしてクルマに用いる素材もサステイナブルなものにしていきます」
今年のフランクフルト・ショーでは多くのブランドが生産時のカーボン・ニュートラルについて言及していた。自動車の電動化は走行時のカーボン・ニュートラルを意味するが、そこから発展して現在では発電時のカーボン・ニュートラルについて議論されている。それがついに、生産時のカーボン・ニュートラル、つまり工場で排出されるCO2に焦点が移ってきたといえるだろう。しかし、まったくCO2を排出せずに自動車が生産できるとも思えない。いったい、どうやってそれを実現するというのか? クラフトに説明してもらおう。
「ごく最近のことですが、私たちはカーボン・トラスト社(カーボン・ニュートラルを推進する独立した受託団体。ロンドンに本拠地がある)から認定を受けました。これは複数の対応を組み合わせて実現したものです。まずは、工場の近代化を行なって生産のエネルギー効率を改善しました。続いて本社内のカーポート(車両保管場)にイギリス最大のソーラーパネルを設置し、ここで発電した電力を工場に供給します。それでもカバーしきれない電力に関しては、グリーン・エネルギーを購入します。つまり、エネルギー消費を抑え、自分たちでエネルギーを作り出し、それでも足りない分はグリーン・エネルギーを購入する。この3段階でカーボン・ニュートラルを達成しました」
製品をサステイナブルなものにすることも重要
「私たちは電動化に取り組みます。2023年までに、すべてのモデルにハイブリッド仕様を用意します。そして2025年にはベントレー初となるフルEVも投入します。つまり、究極的には私たちの顧客が望む製品を手に入れられるようになるのです。もちろん、電動モデルの普及度合いは地域やマーケットによって異なるでしょう。ただし、顧客に選択肢を提供することが、私たちのビジネスをサステイナブルなものにするうえでは重要だと考えています」
製品のサステイナブル化はドライブトレインだけに留まらない。ベントレーのコアバリューというべきインテリアについてもサステイナブル化を推し進めていくとクラフト氏は言明する。
コンセプトカー「EXP 100 GT」で提示した近未来像
「先日、発表したコンセプトカーのEXP 100 GTでは、私たちの未来に向けた思想が示されています。たとえば、インテリアに用いられた“リバーウッド”は湖や川で見つけ出された5000年以上前の倒木を利用しています。この倒木を私たちは清掃し、磨き上げたうえで銅を染み込ませました。いわばリサイクル素材ですが、ここにベントレーらしいクラフトマンシップを応用し、希少な素材を作り出したのです。また、ワインを生産する過程で発生する副産物を原料とする合成素材をシートに用いました。これは手触りが本当に素晴らしいものです。エクステリアでは、ボディペイントにもみ殻から作った顔料を用いています。つまり、新しく開発されたオーガニックでサステイナブルな素材により、これまでのクラフトマンシップを再現しているのです」
EXP 100 GTにはベントレー・パーソナルアシスタントと呼ばれる機能が搭載される。これはAIを活用したもので、「エンハンス」「コクーン」「キャプチャー」「リ・リブ」「カスタマイズ」の5モードを選択できるのだが、どうやら「キャプチャー」と「リ・リブ」を組み合わせると、こんな楽しみ方もできるようだ。
「たとえば木漏れ日の下を通過したとき、それを記憶させ、天気が悪いときにこれを再生することができます。これとは別に、EXP 100 GTのガラスルーフにはプリズムが埋め込まれていて、ここに差し込んだ光を光ケーブルによってキャビンに導くこともできます。つまり、EXP 100 GTは光の演出を大切にしたクルマといえるでしょう」
伝統のクラフトマンシップに裏打ちされたプロダクト、最新のテクノロジー、そしてカーボン・ニュートラルを達成した生産設備など、ベントレーはサステイナブルなビジネスを構築して将来に備えようとしている。
「私たちには素晴らしい未来が待っています。かつてないほど充実したポートフォリオがあり、私たちの顧客はこれを歓迎しています。ベントレーは世界でもっとも成功したラグジュアリーカーブランドで、未来に向けて明確な戦略を有しています。いま、私たちが取り組むべき仕事は、それらを実現させることにあります。ベントレーがどこに向かって進んでいくかは、EXP 100 GTが示しているといって間違いないでしょう」
そう語るクラフト氏に「ベントレーが次の100年間も成功を収める自信はありますか?」と訊ねると、彼は間髪入れずに「イエス」と答えたのである。
REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
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