■軽自動車人気というが、すべての軽の販売が好調なわけではない
2019年度(2019年4月から2020年3月まで)の国内販売台数を見ると、新車として売られたクルマの37%を軽自動車が占めました。
不人気にもほどがある!? ビックリするほど売れていない軽自動車5選
しかも2019年度に国内で売られた新車の販売台数ランキングは、1位:ホンダ「N-BOX」、2位:ダイハツ「タント」、3位:スズキ「スペーシア」と、全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた軽自動車が新車販売のトップ3を独占しました。
最近ではこの3車に代表されるスーパーハイトワゴンが、軽乗用車全体の50%近くに達します。
ホンダ「N-WGN」やダイハツ「ムーヴ」、スズキ「ワゴンR」のような全高が1600mmから1700mmのハイトワゴンも35%を占めるため、軽乗用車の85%が背の高い車種になりました。
逆に背の低い車種は、残りの15%に含まれるので、いまの軽自動車では売れ行きの二極分化が進んでいます。
とくに売れ行きが伸び悩むのは、ダイハツ「ミラトコット」とスズキ「アルトラパン」です。両車のベースとなる「ミライース」と「アルト」については、シンプルな売れ筋グレードを105万円から110万円の低価格に設定して販売も堅調ですが、ミラトコットとアルトラパンは低迷しています。
とくにミラトコットは販売台数が少なく、1か月当たり1000台前後です。ミライースが1か月に5000台から6000台を売るのに比べても、ミラトコットは低調です。タントの1万4000台に比較すると7%です。
アルトラパンは、1か月の売れ行きが2500台前後です。ミラトコットに比べると好調ですが、スペーシアの1万3000台に比べると大幅に少ないです。
ミラトコットの開発に際しては、若い女性社員によるプロジェクトを立ち上げたことが特徴です。開発者は次のようにコメントしています。
「従来は女性向けの軽自動車でも、開発は男性が中心に進めました。必要に応じて、女性のアドバイスを受けましたが、ミラトコットでは企画段階から女性が加わっています。そして女性向けのデザインや装備を『盛る』発想ではなく『素』の魅力にこだわりました」
確かにミラトコットは、愛玩動物的な可愛らしさを表現した従来の女性向けに比べると、内外装がシンプルです。ボディカラーもライトローズ(ピンク色)などと併せて、ブラックやブラウンも用意され、イメージカラーのセラミックグリーンは渋い感じの色彩です。
売れない理由は何でしょうか。グリル面積の狭いノッペリとしたフロントマスクなどが敬遠されたのでしょうか。この点をダイハツの販売店に尋ねました。
「ミラトコットの外観は、真っ平らな感じのドアパネルなども含めて個性的です。好みが分かれますが、いまはそれ以上に背の高さが重要です。後席を使わない独身のお客さまも、車内の広い背の高い軽自動車を選びます。
ダイハツには『ムーヴキャンバス』があり、スライドドアを備えた背の高いボディを備えながら、外観に丸みを持たせました。このムーヴキャンバスは若い女性のお客さまに人気があります(売れ行きは1か月平均で5300台前後)。
そのほかにも『キャスト』があり、定番のタントやムーヴを含めて背の高い軽自動車が豊富です。ムーヴキャンバスなど全高が1600mm以上の車種では、立体駐車場を使いにくいことから、ミラトコットは主に立体駐車場を使うお客さまに選ばれています」
■販売低迷でも背が低いモデルはお買い得!? 空気抵抗が少なく燃費も◎
背の低い軽自動車は販売が伸びませんが、機能と価格のバランスではスーパーハイトワゴンよりもお買い得です。
とくにミラトコットの「GリミテッドSAIII」グレードは、衝突被害軽減ブレーキのスマートアシストIII、サイド&カーテンエアバッグ、バイアングルLEDヘッドランプ、オートライト、運転席&助手席シートヒーターなどをフルに装着して、価格(消費税込、以下同様)は125万4000円です。同等の安全&快適装備を備えたタントXの149万500円に比べると、約24万円安いです。
また低価格とされるミライースの「GリミテッドSAIII」グレードは、ミラトコットの同グレードに比べてアルミホイールを加えましたが、カーテンエアバッグは装着されません。
ほぼ同水準の装備で、「GリミテッドSAIII」の価格は124万8500円と同程度ですから、内装の質が高い分だけミラトコットが割安と考えられます。
一方、アルトラパンは「S」グレードを133万1000円に設定しました。ディスチャージヘッドランプは標準装着されますが、サイド&カーテンエアバッグやエアコンのオート機能は備わりません。
その代わりマイルドハイブリッドが採用され、JC08モード燃費は35.6km/Lです。ミラトコットの29.8km/Lよりも優れています。
また同じエンジンを搭載するスーパーハイトワゴンのJC08モード燃費は、タントが27.2km/L、スペーシアは28.2km/L(ハイブリッドX)ですから、アルトラパンやミラトコットなら燃料消費量も抑えられます。
背が低いために空気抵抗が少なく、車両重量もスーパーハイトワゴンに比べると約200kg軽い700kg前後ですから、燃料が良いのです。
ボディが軽ければ、加速力にも余裕が生まれます。ノーマルエンジンを搭載するスーパーハイトワゴンは、登り坂でパワー不足を感じることもありますが、ミラトコットやアルトラパンなら不満は生じにくいです。このようにメリットが多いです。
その代わり、ミラトコットやアルトラパンは車内が狭そうですが、実際に乗車すると意外に窮屈ではありません。
身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る同乗者の膝先空間は、ミラトコットが握りコブシ2つ分、アルトラパンは2つ半に達します。
トヨタ「カローラツーリング」やマツダ「マツダ3」などのミドルサイズカーが握りコブシ1つ半なので、十分な広さでしょう。
ミラトコットやアルトラパンの後席は、座面が短いために座り心地に改善を要しますが、広さとしては4名乗車も十分に可能です。後席にチャイルドシートを装着する使い方にも対応できます。
このように見ると、大きな荷物を積まない限り、実用的にはミラトコットやアルトラパンで十分なユーザーも多いと思われます。
それなのに「次に買うクルマは、ミラトコットやアルトラパンにするか?」と筆者(渡辺陽一郎)が自問自答すると、気分がいまひとつノリません。「スポーティな『アルトワークス』ならアリだけど」などと考えてしまいます。
なぜ食指が動かないのでしょうか。おそらく外観とクルマのイメージだと考えます。または、ミラとかアルトという車名も関係ありそうです。アルトの場合「ワークス」が付くと、スポーティな印象にガラリと変わります。
※ ※ ※
今後の軽自動車を面白くするのは、背の低い車種の新しい商品企画かも知れません。かつてのダイハツ「ソニカ」やスズキ「セルボ」といった背の低い軽自動車は成功しませんでしたが、これらの車種が廃止されてから約10年を経過します。走りも含めて背の低い上質なクルマ造りに取り組む余地はあるでしょう。
N-BOX、タント、スペーシアのカスタム(エアロパーツ装着車)を並べると、見分けが付かないほど似ています。機能には特徴がありますが、デザインはパターン化されています。
2020年6月に発売されるダイハツ「タフト」も、スズキ「ハスラー」にソックリです。個性的な軽自動車の登場に期待したいです。
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