ニューハンプシャー・モータースピードウェイで開催された2024年NASCARカップシリーズ第18戦『USA Today 301』は、予報された雨を完全に避けようとカップ主催側が早めのスタートを決断したにも関わらず、2時間以上の雨天中断を含む6時間の勝負が続く長丁場の日曜に。
その最終スプリントにて、異例のウエットタイヤ装着による残り73周ダンプ路面の消耗戦をクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が制覇し、週末ともに“渦中の人”となったチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)を1.104秒差で下している。
激しいタイヤ消耗戦で“2タイヤ”コールの王者ブレイニーが待望の今季初勝利/NASCAR第17戦
今季限りでの強豪スチュワート・ハース・レーシング(SHR)の解散や、マーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)のフルタイム引退など、多くのニュースが続いてきたカップシリーズだが、このロウドンに位置する“The Magic Mile”での週末を前に、ジーン・ハース代表は現在の4台体制からシングルカーに縮小しながらも、来季『ハース・ファクトリー・チーム』として引き続きカップへの参戦を継続するとアナウンスした。
「モータースポーツへの私の取り組みは変わっていない。関与の範囲が変わっただけだ」と続けたハース代表。
「カップシリーズで4台のチームを運営するのは並大抵ではないが、同時にハース・オートメーションとハースツーリング・ドットコムを成長させるための基盤も必要だ」
「カップでの私の存在を維持することで、我々はNASCARの最高レベルで競争することができ、これは当社の顧客と販売店にとって重要だ。昨季より(王者コール・カスターを含む)2台を継続するエクスフィニティのプログラムも、カスタマーに週末の充実した体験を提供し、当社の全体的な運営にさらなる深みとスケールをもたらすはずだ」
これで現在カップで所属するジョシュ・ベリー、ノア・グラグソン、ライアン・プリース、そしてチェイス・ブリスコらは、来季残る1席に向け残留競争を繰り広げるか、新天地を求めるかの二者択一を迫られるなか、恒例の金曜公式メディアセッションに臨んだJGRのベルが、トゥルーエクスJr.の“後任”に関する重大なヒントを明かしてしまう。
チーム内でのリーダーシップと役割について質問されたベルは「いい質問だね。正直、ドライバーの立場からリーダーシップがあるかどうかはわからない」と、トゥルーエクスJr.が抜ける穴の大きさを示しつつ、最後にあるドライバーの名を漏らした。
「経験を重ねて、クルマに何が必要かをチームに伝える自信が確実について来たけど、デニー(・ハムリン)やタイ(・ギブス)など、毎週違う人が議論をリードするかもしれない。そしてチェイスがクルマに乗り込むたびに……」
■雨雲襲来で予選キャンセルに加え、レースは早期開始に
そう語った瞬間、自分が間違いを犯したことを悟ったベルは笑顔でマイクから顔を背け「いつだって……何て言ったらいいのか分からないよ」と苦笑い。これにパドックはすかさず反応し“もうひとりのチェイス”ことチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)のチームメイトであるカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)は、本音混じりの冗談として次のようなコメントを自身のSNSアカウントで発信した。
「このニュースにはまったく驚かされたよ! @chaseelliottが@JoeGibbsRacing での新しい冒険で成功することを祈っている。チームメイトとして君と過ごせて楽しかったよ!(笑)。幸運を祈る」
そんな喧騒に沸くパドックへ土曜現地入りした“本命の当事者”ブリスコも「ちょっと笑っちゃった。なかなか良かったよ」とベルの“失態”を歓迎した。
「クリストファーらしい。かなり面白かったね。つまり、みんな何が起きてるかわかってる感じだよね? 公式発表はいつになるかわからないが、近いうちに何かアナウンスがあることを期待している。僕はそれほど怒っていないし、ちょっと面白いとさえ思ったよ」
そんなドラマが繰り広げられる間、現地1.058マイルのオーバルにはまとまった雨雲が襲来しており、NASCAR運営側は土曜予選の正式キャンセルを決定。実に39戦続いて来た予選セッション実施の記録が途絶えるとともに、NASCARの“パフォーマンス・メトリック”に従って、選手権首位のチェイス“エリオット”が王者ライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)とともに、決勝最前列に並ぶことが決まった。
しかし明けた日曜も雨が降り、路面が乾くのを90分間も待った後にわずか5分だけ走行した追加のフリープラクティスでは、カーソン・ホセヴァー(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が最速を記録。ただし夕刻に向け雨量は増えるとの情報も踏まえ、予定されていた301周を完走するのに充分な時間をチームに与えるべく、NASCAR主催側は14時06分に早めのレースを開始する。
しかしファイナルステージ残り82周で風雨が強まると、ここから2時間14分の赤旗ディレイが発生。レースは早期終了の判断も迫られるなか、日没前に最後の4分の1を走れる機会があると判断した運営側は、現地18時43分にリスタートを決断する。
ここでチームには雨天用の新開発ウエットタイヤが与えられ、残り73周のグリーンフラッグ以降は急速にドライアップが進む路面で、その摩耗を管理する技術が求められることに。
バンクのボトムラインよりさらに内側のエプロンまで活用し、濡れた路面やレインタイヤでもグリップする舗装を探した各車は、いつもより大きな速度差を生む状況となり、難しいコンディションのなかスピンやクラッシュを喫するドライバーが多発する。
■延長戦突入の決勝は変化する雨量を読む能力が求められる
ここでロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)を皮切りに、コリー・ラジョイ(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)やSHRのグラグソンらもコーションの引き金となり、オースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)やダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)も巻き添えの憂き目に遭う。
その度に新品のウエットパターンを装着した各車だが、つねに変化する雨量を読む能力も求められ、フリープラクティス最速のホセヴァーや首位争いに参加していた王者ブレイニーとマイケル・マクドウェル(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)らもクラッシュ。さらにブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)のスピンにより、決着は延長戦へと突入する。
僚友トゥルーエクスJr.を従えステージ2を制覇していたデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)も降雨再開後は失速するなか、それでも速さを維持し続けたのはステージ1覇者のベルで、最終的に149周のリードラップを記録した29歳が“週末の失態”を取り返す今季3勝目、カップ通算9勝目のトップチェッカーを受けた。
「これだけ多くのことが変更され悪条件が重なると、レースがどうなるかなんて誰にもわからないね」と現地20時10分にフィニッシュを迎え、実に6時間以上に渡る勝負を制したベル。
「僕は個人的に悪条件が大好きだ。つねに既成概念に捉われずに考えようとするからだと思うけど、赤旗遅延の後にウエットタイヤでコースに戻ったときは、いつもより本当に滑りやすい路面状況だった。あっちこっち走り回ったけど、この勝利は本当にクールだね!」
従来なら赤旗早期終了、雨が降り始めた段階でポイント戦として規則成立のラップ数で打ち切られていたであろうレースも、新開発タイヤにより中止を免れる展開となったが、その判断に救われ2位に入ったブリスコも「2時間前は25位も走れなかったのに、雨が救ってくれた」と振り返る。
「素晴らしい回復力。ここは僕にとってもっとも苦手なレーストラックのひとつで、正直言って2位になったのはちょっと意外だ。雨が救ってくれたようなものだし、雨が降っていなければおそらく24位だっただろう。何度か良いリスタートが切れたよ」
そんな雨間の土曜に併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第16戦『SciAps 200』でも、このニューハンプシャーを得意とするベルが奮闘。ホワイトフラッグの最終コーナーで3ワイドを演じ、僚友シェルドン・クリード(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)に0.254秒差で勝利をもぎ取る結果に。これで同地のエクスフィニティは4戦4勝という完璧な記録を樹立し、ここでも週末の“失地回復”を飾っている。
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