2004年にはポルシェ ボクスターがフルモデルチェンジして第2世代へと進化している。いまやミッドシップスポーツカーとして確固たるポジションを得ているボクスターだが、この2世代目はどんなモデルと評価されていたのか、振り返ってみたい。(以下の試乗記はMotor Magazine 2005年1月号より)
初代ボクス夕ーが創り上げたアイデンティティをしかっり踏襲
部品点数にして50%から55%は同じアイテムを採用。誕生以来初めてのフルモデルチェンジを経験した新型ボクスターは、予想通り新型911と色濃い血縁関係を持つモデルだった。
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1996年にリリースされた初代ボクスター。それは、まさにポルシェにとって社運を賭けた1台と言えるモデルだった。ついに往年の空冷式エンジンに別れを告げ、ボデイパッケージも新たなミッドシップレイアウトを採用。しかも、そこには翌年デビュー予定の新しい911と、可能な限りシェアし合うという合理性も要求されていた。
何しろ、当時のポルシェ社は、その業績の不振ぶりから内外の大手自動車メーカーヘの身売り説がまことしやかに囁かれていた状況。限られたリソースのら最大限の収益を生み出すために、新規モデルとは言え、そこでは可能な限り他モデルとの部品の共有という、合理化の道を選ぶことが必然だったのだ。
しかし、今のポルシェ社が置かれた状況は大きく異なる。初代ポクスターと水冷化が図られた911(996)はいずれもクリーンヒットとなり、さらに、ポルシェが「91lとボクスターに続く第3のレンジ」と表現をするカイエンも目覚しい売上げを記録し、結果として同社の歴史上、空前の業績を記録することになった。そう、今やポルシェは新型車を開発するのに潤沢過ぎるほどの資産を蓄える。それがまず、初代ボクスターの開発時とは大きく異なる状況だ。
そうした成果はまず「顔」に現れた。従来型ではその合理化政策ゆえに911との共用が求められたフロントマスクは、新型では晴れて専用デザインが認められている。ダッシュボードも同様だ。従来型では91lとの間で多くアイテムの共有化が余儀なくされていたインテリアも、ダッシュボードに専用のアイテムを用いることで独自の雰囲気を演じとに成功している。とくにこれらは、ポクスターよりも911のファンにとって大きな朗報であったはず。何しろ、ポクスターと911とではやはりその売価が大きく異なる。「なのにどうしてポクスターと同じモノを…」というのが、多くの911ファンにとっての偽らざる感想であったからだ。
一方で、新しいボクス夕ーの工クステリアデザインに関しては疑問も残ることになった。「せっかくフロントマスクの装いをここまで変えたのであれば、全体的な雰囲気でももう少し新鮮味を醸し出して良かったのではないか?」というのがそれだ。中でも、リアビューに関してはそんな思いが強かった。というのも、下手をすると従来型との間に区別が付きにくいほどに、新型のルックスはこれまでのイメージを強く受け継いでいる。
が、どうやらそうしたキープイメージの戦略は、ポルシェにとっては確信犯的なものであったようだ。なぜなら「今に続く911の強固なプランドイメージは、これまで40年以上に渡って連綿と築き上げてきたもの。一方でボクスターは誕生してまだわずかに8年。911同様のブランンドイメージを築き上げるためには、まだまだ初代モデルが創り上げたアイデンティティを踏襲して行くことが必要」と、新型ボクスターの開発陣はコメントする。
「だとしても…」と、このクルマのルックスに関して、まだ食い下がりたい気持ちもないではなぃ。けれども、このところのポルシェの業績絶好調は、彼らがこうして描いてきたセールスのシナリオがことごとく的中してきた故というのもまた事実だ。見た目の新鮮味という点にかけては、ちょっと不満に思う人もいることだろう。が、それもポルシェの戦略なのだと知れば、やはりここは「それならひとつ、お手並み拝見」と受け止めざるを得ない。
かくも先代の印象が強いエクステリアに対し、ダッシュボードのデザインが一新されたことにより、インテリアの雰囲気は大きく変わった。空冷時代のモデルをも彷彿とさせるややクラシカルなシェイプに「戻った」新型911のダッシュボードのデザインに比べると、ボクスターのそれはよりラウンディッシュで明るくモダンな印象を放つ。
メーターパネルのデザインも一新された。それでも明らかにポルシェのメーターだと感じられるのは、何よりも視認性に優れた中央の特等席に大きなタコメーターを配するという基本的なレイアウトによるところが大きいだろう。「向こう側が抜けて見える」プリッジ型のメーターバイザーのデザインは従来型からの踏襲。ただし、そこにメッシュカバーが与えられたのはこれまで見られなかった新手法だ。
個人的には従来型の居住性にも不満を覚える部分はなかったが、「大柄な欧米人の一部からは空間がややタイトという意見を受けた」ということから、居住空間の拡大が図られた。具体的には、「フロントのバルクヘッド・クロスメンバーの断面積を新製法によって縮小することで足元スペースを拡大」し、「シートポジションをより低く設定することでヘッドスペースを拡大」といったあたりがここに相当する。
シート内蔵型のサイドエアバッグに加え、ドアトリム上部にエアバッグを内蔵して側突時の保護機能を進化させた構造は「オープンカーとしては世界初」とのこと。一方で「退歩」と思えて仕方がないのは、一度車外に降りないと折り畳めないドアミラーの構造。電動格納式を望むのは贅沢としても、せめて着座状態から畳めるデザインが欲しかった。少なくとも従来型はそうした構造になっていたのだから。
ちなみに、スペアタイヤを廃して修理剤を搭載することで、フロントのトランクスペースは従来の130Lから150Lへと拡大。少なくとも、ミドルサイズのスーツケースをすっぼりとトランクルームに飲み込んでしまうミッドシップの2シーターモデルというのを、ぽくは新型のボクスター以外に知らない。Z字型のユニークな動きで所要時間わずかに12秒。ボクスターならではのスマートなソフトトップの開閉法は今回も踏襲された。
ただし、そんなソフトトップそのものの構造は「マグネシウムを主体とした超軽量構造へと全面変更」とのこと。50m/hまでのスピードであれば開閉動作を継続する。ただしウィンドウフレームヘのロック/アンロック動作は手動で残された。理由のひとつは「ロック機構の自動化は、意外な重量増にもなってしまうから」とのこと。
パワーアップしたエンジンを5kg以上軽量化し、前後のトランクリッドもアルミ化するなど、並々ならぬ「軽さへの挑戦」を行っているのも今回のモデルの特徴なのだ。
スポーツカー度では間違いなく911よりも上
そんな新しいボクスターで走り出す。2.7Lエンジン搭載の「ボクスター」、3.2Lエンジンを積んだ「ホクスターS」と2つのラインナップでスタートの新型だが、いずれもスタートの瞬間からその力感は文句なしだ。とくに、2.7Lモデルのエンジン低回転域での動きの活発さは、従来型デビュー当初の2.5Lモデルとはまさに別次元。中でも、AT(テイプトロニック)仕様車の加速感は「S」の同仕様との間に「大きな差を感じない」と表現しても差し支えないほど。まるで、さらに排気量アップが施されたような印象を受ける。
もっともこのAT自体に関しては、正直なところモデルチェンジによる進歩というのは実感し難い。ほとんど全力の加速にトライをしない限り5速ユニットを2速発進で用いるので、結果的には常用できるのは4つのギアの組み合わせ。それゆえ、変速時のステップ比が大きく、その際のエンジン回転数の変動も予想以上に大きいのだ。たしかに、ステアリングスイッチ操作時のレスポンスも優れているし、Dレンジ時でもマ二ュアル操作が優先されて、およそ8秒後にはDレンジに復帰というロジックも素晴らしい。けれどもライパル達のAT技術も進歩を遂げ、相対的にアドバンテージを感じ難くなっているのも事実だ。
そういえば、ポルシェもフォルクスワーゲン/アウディグループのDSG流儀のツインクラッチ式トランスミッションに「大いに興味を示している」と耳にする。果たして、ちょっと停滞気味に見える今回のテイプトロニックに関する印象は、そんな将来に向けての動きを示唆しているのだろうか。
一方、アクセルペダルの動きに即応をしたダイレクトな動力性能を求めたいならば、やはりMT仕様がオススメ。とくに、6速MT搭載の「ボクスターS」は、いかにもリアルスポーツカーらしい自在度に富んだ逞しい動力性能を持つ。また、今回から2.7Lエンジン搭載の「ボクスター」でも6速MTがオプションで選択可能になった。2.7Lモデルが従来型よりも明らかに活発な動きを愉しませてくれたのには、そんな6速MTがテスト車に装着されていたことも大きかったに違いない。
ところで、新しいボクスター魅力は、ボクスター特有のサウンドがクリア度を一層強めた点にもある。エンジン回転数にリンクして周波数をリニアに高める背後からのサウンドは、いかにも「スポーツカーづくりのツボを押さえている」と思えるもの。実際、新型ボクスターにはエアフィルターケース内のヘルムホルツ・レゾネーターや左右2基のマフラー間への接続管の採用など、明らかにサウンドチューニングと思われるリファインの手が加えられていたりもする。2.7Lユニットで12ps、3.2Lユニットでは20psという最高出力のアップも含め、吸排気系にことの他、入念な手が加えられているのだ。
新しいボクスターには、予想どおりPASMもオプション設定された。車速やエンジン出力、横Gなどからその瞬間に相応しいダンパー減衰力を得るこのメカは、新型911に採用されたものと同様だ。標準プラス1インチのサイズのタイヤととともにPASMが国際試乗会に用意された全車に装着されていたのは、ちょっとばかりズルであったような気もするが、そんなポルシェの広報作戦は確かに効果が大きかった。
試乗した「ボクスター」はフロントに235/40、リアは265/40の18インチ。「ボクスターS」は同じく235/35と265/35の19インチという大きなタイヤを履くにもかかわらず、その乗り味は「望外」と言いたくなるほどにしなやかでリーズナブル。ソフトとは表現しかねるものだが、それでもポルシェ乗りでこの乗り心地に文句を付ける人が現れるとは考えにくい。
ここでの注目点は、とくに後輪側で、接地面積を幅方向ではなく周方向でアップさせようという考え方が持ち込まれたこと。新型ボクスターではタイヤの動荷重半径を従来型に対してフロントで2.5%、リアで5%と、とくにリア側で延長している。こうして、前後を異外径としてまでも接地面積を長さ方向で稼ごうというのは興味深いアプローチ。ポルシェではこうした手法によって、サイドウォール高を確保することによる快適性の向上とエアボリュームの増によるタイヤポテンシャルのアップの双方を狙ったと考えられる。
事実、新型ボクスターのフットワークは優れた快適性をキープした上で、期待通り、いや期待以上にリニアで高水準なハンドリング/スタビリティ性能を実感させてくれた。その上で、911以上に微舵操作に対する応答性がシャープである点は、やはり「ミッドシップレイアウトの面目躍如」という印象。スポーツカー度という観点からすれば、やはり911の上を行くのがボクス夕ーなのである。
すでにデビュー済みの新型911には、従来型の場合同様に今後様々なバリエーションが追加されて行くに違いない。そして、こちら新型ボクスターには、来年にも「クーペ」バージョンが追加されるのではないかというのがもっばらの噂。
いずれにしても、ポルシェのスポーツカーレンジの話題は、このボクスターの登場を起爆剤にして賑やかさを増すだろう。ポルシェは興味深いシナリオを用意しているはずだ。(文:河村康彦/Motor Magazine 2005年1月号より)
ポルシェ ボクスター(2004年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4329×1801×1295mm
●ホイールベース:2415mm
●重量:1295[1355]kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:2687cc
●最高出力:240ps/6400 rpm
●最大トルク:270Nm/4700-6000rpm
●トランスミッション:5速MT[5速AT]
●最高速:256[250]km/h
●0→100km/h加速:6.2[7.1]秒
※[ ]内はAT仕様
ポルシェ ボクスターS(2004年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4329×1801×1295mm
●ホイールベース:2415mm
●重量:1345[1385]kg
●エンジン:対6DOHC
●排気量:3179cc
●最高出力:280ps/6200 rpm
●最大トルク:320Nm/4700-6000rpm
●トランスミッション:6速MT[5速AT]
●最高速:268[260]km/h
●0→100km/h加速:5.5[6.3]秒
※[ ]内はAT仕様
※[ ]内はAT仕様
[ アルバム : ポルシェ ボクス夕ー 2世代目 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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