2008年、アルファロメオからコンパクトモデル「MiTo」が登場し、日本でも話題となった。全長わずか4mという147よりも小さなコンパクトカーだが、8Cコンペティツィオーネをイメージさせるプレミアム性があった。Motor Magazine誌はイタリアで行われた国際試乗会に参加、ここではその時の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年9月号より)
プレミアム性をコンパクトなボディで実現
このところフィアット・グループ・オートモービルズ(FGA)が元気である。北米市場には参入していないので、アメリカや日独のメーカーなどと違いサブプライムローン問題の影響を直接受けないということは大きいが、それはそれとして、基本的なモデル戦略が功を奏しているからこその成長に他ならない。
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本丸のフィアットはグランデプントの大ヒット以来、好調を持続、昨年の夏に投入したフィアット500も予定どおり販売を伸ばしており、まさに順風満帆といったところだ。昨年、復活させたアバルトは予想以上に若者に受けて、うれしい誤算だったとも訊く。
盤石なフィアットブランドをベースにして、FGAの成長戦略は次のステージに入る。そこではアルファロメオとランチアの拡大が図られることになる。この2つのプレミアムブランドがうまく成長軌道に乗れば、FGAは北米市場の不振にあえぐ日独米の自動車メーカーを尻目に、業績を大幅に向上させ、その存在感をグンと増すことができるに違いない。
さて、そんな状況下でのアルファロメオ・ミトの登場だが、まさにこれはプレミアムコンパクトの企画の初めに取りあげるにふさわしいモデルである。いま世界の自動車メーカーは環境問題への対応を考えつつ、いかに小さなクルマに付加価値を与え、それ相応の価格設定をして、収益を上げるかに頭を悩ませているが、そうした意味でミトは時代の申し子のような存在だ。
しかもミトに与えられたプレミアム性は、非常に高いものだ。このスタイリングをひと目でも見ればわかるように、ミトはアルファロメオのフラッグシップスーパースポーツである8CコンペティツィオーネのDNAを受け継ぐコンパクトカーだからだ。
実に明快な話だが、よく考えてみるとこれは凄い。アルファロメオの最も高くてゴージャスなクルマのイメージを最も小さくて手頃なクルマに再現したからだ。下手をすれば、それは非常に陳腐なものになりかねない。そういう危険性があったはずだ。しかし、そうはならなかった。アルファのデザイン力によるものなのか。それとももっと幅広いブランド力によるものなのか。
試乗に先立つミートのプレゼンテーションでは、8Cと競演するプロモーションビデオが流されたが、それは実によくできていた。ミトが8Cに遜色ないクルマのように感じられた。「クラスが違いすぎるから逆に違和感がないんだな」などと、わかったようなわからないような理屈をつけて納得せざるを得なかった。8Cのデビュー以来、アルファにちょっと「やられ気味」なのだが、その症状がまた出たのかも知れない。
8Cと同様にアルファロッソのボディカラーがよく似合う
実車を目の前にすると興奮はさらに高まる。4mをわずかに超える全長で幅は1720mmあるので、全体に安定感があるフォルムだ。そうでありながら、フロントグリルとヘッドライトのあたりは8Cのイメージそのままで実にスタイリッシュ、無理にコンパクトにまとめたという感じがしない。
ボディサイドはボリューム感において8Cとは明らかに異なるが、リアエンドはまた丸型テールライトやバンパー形状がうまくまとまっていて、いい雰囲気を出している。アルファロッソのボディカラーがよく似合うのもミトと8Cの共通点だ。
それにしてもなぜ、これほどまでに似たスタイリングを実現することができたのか。その場では考え込むばかりで正解は見つからなかったのだが、日本へ帰ってきて8Cのスペックシートを見ていたら、あることに気が付いた。
実は8Cの全長はもともとそれほど長くないのだ。欧州仕様のデータで4380mm、ミトは4063mmだからその差は317mm。プロポーションという観点から見ると、全幅の違いの方が大きい。8Cが1895mmに対してミトは1720mmなので、差は175mmにもなる。そのためボディサイドのデザインが、もっとも8Cに近づけなかった。
いよいよコクピットに乗り込む。ステアリングホイールやメーターまわりのデザインは8Cとよく似ている。147や159よりも明らかに洗練されており、このテイストは今後、他のモデルへも活かされていくのだと思う。またインパネまわりにはカーボンファイバー調の素材が使われている。本物を随所にあしらっている8Cとは比べるべくもないが、一歩でも近づきたいというミトの気持ちが伝わってくるようで、何とも微笑ましく感じる。
ステアリングホイールにはチルト&テレスコピック調整機能がある。運転席にはシートリフターが付き、前後スライドの調整幅は大きい。また、シート自体は大型で厚みがあり、座り心地がいい。これなら長距離ドライブでも疲れは少ないだろう。よりよいドライビングのために必要な装備にぬかりはないようだ。
リアシートは背面が立ち気味で、前後方向の余裕はあまりないが、30分くらいのドライブなら大人4人乗車でも不満は出ないだろう。ただ5人は厳しい。横方向に余裕がないからだ。仮にミートをファーストカーにしたいファミリーに、スペースのことを訊かれたら、「子供がふたりで小学生ならばなんら問題ないでしょう」と答える。
ラゲッジルームは奥に深い。床下にはテンパータイヤを収納している。ハッチゲートを開くと剛性が高く後突に強そうな構造であることがわかるが、大きな荷物、重い荷物の出し入れは大変かも知れない。容量は270Lだ。参考までにアルファ147は280L、ゴルフは350Lだから意外に広いと言えそうだ。
試乗車は本革シートが装着されていたこともあるが、インテリアは全般にゴージャスで質感も高かった。希にスタイリングは非常にいいのだがインテリアが貧相なクルマがある。しかし、ミトは違う。内外装ともにバランスよくプレミアムに仕上がっている。
軽いことが最大のメリット、ひらりとコーナーをクリア
当初ラインナップするエンジンはガソリン2種、ディーゼル1種。試乗したのはガソリンの1.4L DOHCターボで155psを発揮するタイプだ。1.4Lの過給エンジンというと、フォルクスワーゲンのTSIが好燃費で話題だが、このミトもEU総合モードの燃費は15.4km/Lと非常にいい(参考までに車重1205kgのゴルフ140ps仕様TSIは14.1km/L)。1070kgと車重が軽いことが大きなメリットとなっているのだろう。
走りにもボディの軽さがよく感じられる。ただゴルフの140ps TSIのように低回転からスーパーチャージャーが働き、グイグイとボディをひっぱっていくような感触はない。低回転時は少々もたつくが、回転の上昇とともに活き活きとしてくるという感じだ。マニュアルトランスミッションで、高回転を維持して走る楽しさは十二分にある。
この軽さはコーナリングでも光る。ステアリングホイールを切り込むと、スパっと曲がる。もちろん、それはしっかり感があり粘り強いサスペンションに支えられているからなのだが、それよりもとにかく軽いことのメリットを実感させる、そういうコーナリングフィールだ。
ミトのプラットフォームは、評判のよいグランデプントと共有するが、いろいろな面でアルファを名乗るためのクオリティアップが図られている。典型的なのはステアフィールで、かなり上質だ。アルファDNAというシステムで、エンジンレスポンスやステアリングの重さなどを3段階に調節できるが、それを一番スポーティな「ダイナミック」にしたときのステアフィールは、とくに良かった。「ノーマル」では、手応えが少なくてちょっと軽すぎると思ったが、「ダイナミック」にしたら、がらりとフィーリングが変わった。
試乗はコース、時間ともに満足のいくものではなかったが、それでもミトのポテンシャルの高さは十分に感じられた。
日本へはまずこの仕様、1.4ターボ(MT 左ハンドル)が来春に導入される。そして、大きなニュースなのだが、欧州でもこれから登場する2ペダルのDDCT(デュアル ドライ クラッチ トランスミッション)が、右ハンドル仕様でおそらく2009年終盤には日本へ投入されることになる。
さらに朗報がある。かなり戦略的な価格設定になりそうなのだ。俄に信じがたいが、”「スターティングプライスは200万円ちょっと」という説もある。確かに車格は147より下だから、考えられなくはないが。それにしても「安過ぎる」と感じてしまうのは、ミトの出来映えが素晴らしかったからだろうか。(文:荒川雅之/Motor Magazine 2008年9月号より)
アルファロメオ ミト 1.4 TB 主要諸元
●全長×全幅×全高:4063×1720×1446mm
●ホイールベース:2511mm
●車両重量:1070kg(EU)
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1368cc
●最高出力:155ps/5500rpm
●最大トルク:230Nm/3000rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速MT
●最高速:215km/h
●0→100km/h加速:8.0秒
※欧州仕様
[ アルバム : アルファロメオ ミト はオリジナルサイトでご覧ください ]
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