■画期的な可変マス機構を採用したものの、なぜか売れなかったスズキの迷車?
僕(筆者:木下隆之)はかつて、マイカーを速くしようとフライホイールを軽量化したことがある。エンジンとクラッチの間に組み込まれているそれは、ホイールと言うくらいだから円盤状の形をしている。フリスビーの円盤を想像して貰えば、遠からずといったところ。だがフライというのはイメージではない。素材は鉄製でなかなかの質量がある。とてもじゃないけれどフリスビーのように空中を舞ったりしない。
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というのも道理で、フライホイールというのは軽くては意味をなさない。だが、重過ぎてもエンジンの加速を鈍らせる。とても厄介な代物なのである。
フライホイールはいわば、はずみ車である。質量があるから、それが慣性となり、一旦回転し始めたエンジン回転をキープしようという力が働く。だが、質量が大きいから、加速しようという段になると足を引っ張る。エンジンの吹け上がりが鈍るのである。
だから、クルマを速くさせようとすれば、フライホイールを削り、あるいは穴あけて軽くする。すると吹け上がりは“シュンシュン”と弾ける。だが、慣性マスが減っているから、クラッチミートによる負荷によって簡単にエンストする。苦肉の策として、アイドリングを高めに設定。トルクゾーンでクラッチミートをするように仕向けることも常態化した。
レーシングカーのエンジンは速さが命だから、フライホイールは薄く軽く作られており、発進は神経質だ。とくに、新しいマシンとのファーストコンタクトでもっとも緊張するのが発進である。レーシングカーはクラッチがとてつもなく重いから、踏み込む左足がプルプルと震える。そしてエンジン回転を高めにキープ。ちょっとずつちょっとずつ、それこそペダルの角度にして1度ずつ、プルプルの足で緩めていく。マシンが動き出しても油断してはならない。たいがいその段階で気を許し、“スコン”とエンストしてしまうのだ。
それを解決するのが、可変フライホイールである。しかし、クルマでそれが採用されたという記憶はなく、バイクでは実用例があることを知った。1983年にデビューしたスズキ「GR650」がそれだ。搭載するエンジンは空冷4ストローク並列2気筒で排気量は651cc、最高出力53ps/7000rpm、最大トルク5.6kgf-m/6000rpmを絞り出す。
可変フライホイールは、「可変マス式フライホイール」と呼ばれた。遠心クラッチが組み込まれており、2500rpmまで連結していたフライホイールが、高回転では切り離される。つまり、低回転域では粘り強くエンストしづらい。高回転域では軽々と吹けるのである。
と聞けば夢のような機構なのだが、何故だが売れなかった。当時の流行や開発技術の進化といった背景もあっただろうが、自動車にも普及していない。理由はいまだに深い霧の中だ。
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TL1000R良かったゾ。