イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする2022年パリ・モーターショー(パリサロン)。後編では、展示車両から見えてくる3つの潮流について記す。
Le Mondial de l’Auto|パリ・モーターショー
パリ・モーターショー2022 リポート前編──エコロジー✕デザインが生みだす興奮| Le Mondial de l’Auto
クリーンエネルギーに蘇るフレンチ・リュクス
イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする2022年パリ・モーターショー(パリサロン)。後編では、展示車両から見えてくる、3つの潮流について記す。
Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA Lorenzo OYA
欧州の新潮流
すでにメディアで報じられているように2022年10月、欧州連合(EU)は、ガソリン車などの内燃機関車を2035年に事実上販売禁止することで合意した。あと13年である。しかし、EUの議員や官僚たちがブリュッセルで構想を立案するように域内全体が進行するとは筆者は思えない。
フランスでは2022年1月現在、フランスの路上を走る乗用車の平均車齢は11年である。2020年からすると、4カ月古くなっている(データ出典:AAA data)。隣国イタリアもしかりだ。平均車齢は、2009年の7.9年から2021年の11.8年と4年連続で伸び続けている。さらに今や4台に1台は車齢15年超えである(データ出典:UNRAE)。
もちろん、2035年は内燃機関車の新車販売禁止であって、目下使用禁止にまでは至っていない。
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Autoダチア サンデロ ステップウェイvia Web Magazine OPENERS
だが、高齢化するヨーロッパで今後世帯収入の減少や高齢化が進めば、これまで所有している内燃機関車を乗り続ける人は多いに違いない。日本で報道される北欧のEV普及ばかりを見て、欧州の自動車環境を判断してはいけない。
ルノーグループがサブブランドの「ダチア」で、リーズナブルな価格の内燃機関車の展開を当面継続しようと計画しているのは、彼らがそうした地域特性を熟知しているためであろう。
若い世代のための「レトロ」
しかし前編で記したように、パリをはじめとするフランスの大都市に関していえば、待ったなしのゼロエミッション化政策が進められている。
今回のパリ・モーターショーでは、そうした都市の方向性とも合致しているといえるゼロ・エミッションカーやそのコンセプトカーが数多く発表された。それら共通のスパイスは「レトロ」である。
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Autoルノー 4Ever トロフィーvia Web Magazine OPENERS
その最たる例はルノーの「4Everトロフィー」だ。1961年から1992年まで31年にわたって生産された「4」のデザイン的レガシーをEVで再解釈したものである。
メーカーはルノー4の復活を真剣に考えている。参考までに、同ブランドでアドバンスド・デザイン部門を率いるサンディープ・バンブラ氏がイタリアのメディアに語ったところによれば、生産型はよりシンプルなデザインで登場することになること示唆している。
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Autoルノー 「R5 ターボ 3E」via Web Magazine OPENERS
もう1台の「5ターボ3E」は、かつてラリーを荒らしまくった5ターボのイメージを継承したもので、2基のインホイール・モーターを左右後輪に内蔵したリトル・ダイナマイトだ。
プレスカンファレンスをリードしたルノーのルカ・デメオCEOは、「私は歴史あるクルマが大好きです」と語った。
このEV+レトロは何を意味しているのだろうか。19世紀末の美術運動アール・ヌーヴォーがフランスで隆盛した背景には、急速に進化する産業社会に疲弊した人々の心があった。人々は18世紀ロココ様式への回帰と、自然の草花が混じり合ったそのスタイルに安らぎを求めたのである。
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Autoルノー 「R5 ターボ 3E」via Web Magazine OPENERS
レトロな雰囲気をたたえたEVたちも、電動化とハイテクで先鋭化した自動車に疲れた人々の心を狙えるのかもしれない。
ただしその照準は、着想源となったオリジナルモデルを懐かしがる世代よりも、レトロをポップと受け止める若い世代のようだ。たとえばデメオCEOは5ターボ3Eを「まさにドリフトのために生まれてきたクルマ」と紹介。ルノーブランドのデザインを率いるジル・ヴィダル氏は、4EVERトロフィーのマトリックスLEDを駆使したフロントグリルを「若者に受けると信じている」とプレゼンテーションした。
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Autoルノー 「R5 ターボ 3E」via Web Magazine OPENERS
さらにいえば、ルノー・グループ現CEOのルカ・デメオ氏は、フィアット時代に、1957年のヌオーヴァ チンクエチェントを彷彿とさせる2007年「500(チンクエチェント)」の商品企画を主導し、同ブランドを“おじいちゃん”のブランドからクールなブランドへと再生した人物である。ゆえに、こうしたルノーのレトロ&ポップが成功する公算は高い。
ヒストリックカーの電動化ビジネス
ヒストリックカーの電動化ビジネス
ゼロエミッション化の波として、もうひとつ興味深い動きも会場で楽しめた。それは「コレクタブルカー」の電動化である。一例が「REVモビリティーズ」である。その社名は「Retrofuture Electric Vehicles」の略だ。
創業4年という同社はブースにEV化を施した1972年「プジョー504クーペ」をディスプレイした。満充電からの航続可能距離は165km、最高速度150km/hである。改造費用の目安は、2万2000ユーロ(約318万円)という。同社のダイレクター、オリヴィエ・マルシェゲイ氏によると、改造に要する時間は2~3日である。ベース車両も手配希望の場合は、そこに1万2000ユーロ(約174万円)追加となる。
どのような顧客が、こうしたコンバートを希望するのか? マルシェゲイ氏は、「面白いことに、我々のビジネスに興味を示してくださる方の25%は女性です」と答えた。排ガス規制が強化され、すでにヒストリックカーを運転できる機会が限定されている大都市で、合法かつ優雅に走りたい女性ドライバーという。
「もうひとつはコレクターが所蔵車の1台を普段乗り用にと改造を依賴するケースです」。何台ものヒストリックカーコレクションがある場合、1台はオリジナルコンディションを犠牲にしても良いと考えるようだ。
参考までに、パリ市内に星の数ほどある月極制の地下駐車場を訪ねて驚くのは、ヒストリックカーの多さである。筆者の知人も数カ所に分けて数台のコレクションを保有している。週末になると、愛好家が集って、地下にもかかわらずさながらミーティング風になる駐車場もある。そうした都会派愛好者のためにも、EV仕様へのコンバートビジネスは、これから一定の需要があると筆者はみる。
フランス版ハイパープレミアム再興のチャンス
第3の潮流の予感は、「フレンチ・リュクス復権の可能性」である。
隣国イタリアでは、フェラーリが戦後に興ったブランドにもかかわらず──創業者エンツォ・フェラーリ自身は単なるレース資金稼ぎと考えていたものの──アメリカ市場でステイタスを確立した。続いてフィアットの資本注入に助けられながら、世界を代表するラクシュリーカーブランドに成長した。その成功のおかけで、マセラティも米国をはじめ各国でマーケットを開拓することができた。
いっぽうフランスで、超高級車は事実上育たなかった。第二次世界大戦前、フランスは「ヴォワザン」「ドラージュ」そして「ドライエ」など、数多くの超高級車メーカーが存在した。一部は戦後まで延命したものの、それらの上顧客であった上流階級の没落と自動車の大衆化には勝てず、次々と消えていった。
そうした超高級車の復興を目ざし、ヌーヴォー・リッシュ(新興富裕層)をターゲットにした「ファセル・ヴェガ」も1964年にあっけなく消滅した。
今日かろうじてフランスに存続する超プレミアムブランドは「ブガッティ」だが、現在のものは2000年代に入ってからフォルクスワーゲンによって再興されたものである。
いずれも前編の写真で紹介したように、2022年のパリでは、水素エンジン搭載のコンセプトカー 、アルピーヌ「アルペングロー・コンセプト」、燃料電池車を手掛けるスタートアップ企業オピウムによる「マキナ」が注目を浴びた。
パリ・モーターショー2022 リポート後編──近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショー| Le Mondial de l’Autoオピウム「マキナ ビジョン」via Web Magazine OPENERS
ヨーロッパではこれまで無敵といえた既存プレミアムブランドの牙城が崩されつつある。2022年上半期の欧州販売台数で「テスラ・モデルY」が「メルセデス・ベンツGLC」を上回ったのは、象徴的な一例である。クリーンエネルギーへの移行を機に、半世紀以上にわたり途絶えたフレンチ・リュクスを復興できる可能性がないとはいえない。
10月17日から23日に開催された2022年パリ・モーターショーの入場者数は、前回比63%減の39万7812人にとどまった。だが今回のリポートから想像いいただけるように、近未来を分かりやすく要約した、次世代型モーターショーの姿もそこにあった。同様に隔年開催で、新形態を模索中の2023年ミュンヘン・ショーがどう展開されるのか、今から興味深い。
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みんなのコメント
この前のCGTVのパリモーターショー特集のとき、ルノーのブースを中心に取り上げた第1週目の放送の最後で、スタジオでのまとめトークの間、しつこいくらいにダチアのブースを映していた。
ルノーは番組のスポンサーでもあるので(翌週はまるまるアルピーヌだけを特集)その意向が働いた放送であったと思うけれど、日本で展開する予定はないであろうダチアをあれだけ映していたことに、なにがしかの意図を感じずにはいられない。それもルノーの宣伝の一部だったのかもしれないし、あるいは取材したCGTV側が込めた本音だったのかもしれない。