Ferrari F8 TRIBUTO
フェラーリ F8 トリブート
フェラーリ F8 トリブート初試乗! 聖地フィオラーノで島下泰久が対峙【動画レポート】
V8ミッドシップモデルの最終進化版
目を覚まして窓の外に目をやると、前日からの雨は小降りにはなったものの止んではいない。数日前からずっと気にしていた天気予報が、どうやら当たってしまったことを恨めしく思いつつ支度をして向かったのはピスタ デ フィオラーノ。そう、フェラーリのテストコースである。この日はここで最新のV8ミッドエンジン・フェラーリである「F8 トリブート」のテストドライブなのだ。それなのに、この天気・・・。
F8 トリブートの名が示すのは、77年の308GTBから続くフェラーリのV型8気筒エンジンの長く、そして成功した歴史への敬意である。注目すべきは、これまではおおよそ2世代ごとに基本構造を刷新してきたV8ミッドエンジン・フェラーリにも関わらず、マラネロが458イタリア、488GTBと続いた系譜にもう1ページを加えることにしたということである。つまりF8トリブートは、これらの基本構成を踏襲、発展させたモデルなのだ。
ダウンフォースの向上と過去へのオマージュが融合
横型ヘッドライトを採用し、488ピスタで初採用されたフロントノーズ下から導き入れた空気をフード上に排出することでダウンフォースを生み出すSダクト、F40を彷彿とさせるスリット入りのレキサン製リアエンジンカバーに、308からF355までのモデルを彷彿させる久しぶりの丸型4灯テールライトと、そのスタイリングは新しい方向性と、まさにトリブートの名の通りの過去の成功作のオマージュ的な要素を巧みに同居させている。しっかりと新世代感が演出されたそのデザインは、審美性だけでなく、高出力化に対応するべく冷却性能を高め、そしてダウンフォースをまたも向上させたという。
720psのパワーと、細部に渡る軽量化策
基本構成を従来より引き継ぐV型8気筒3.9リッターツインターボユニットは、発生回転数8000rpmは変わらないながら最高出力を670psから720psに引き上げている。吸気系はレスポンス重視でプレナム容量、ランナー長が減らされ、インタークーラーの冷却効率は向上。インコネル製とされたエギゾーストマニフォールドは内径が拡大され、ターボチャージャーには回転数センサーが装備され、能力を目一杯まで使うことが可能になった。
ムービングパーツの軽量化も目を瞠るところで、チタン製コンロッドは1.7kg、クランクシャフトは1.2kg、フライホイールは1.5kg・・・と削り取られている。これらの効果で回転慣性は17%減を実現したといい、堂々「ゼロ・ターボラグ」を謳う。
要するに488ピスタの技術を継承したこのエンジン全体で18kg、車両全体では40kgの軽量化により車両の乾燥重量は1330kgに。パワー・ウェイト・レシオは1.8kg/psという驚異的な数値となり、0-100km/h加速は2.9秒、0-200km/hは7.8秒と公表されている。
いよいよ初試乗! しかし路面はウエット・・・。
幸い、朝一番の走行開始までに雨は小康状態になったものの、その時点での気温は12度と低く、路面はハーフウェットという厄介な状態だった。テストドライバーの助手席で、まずは1周。走行ラインは乾きつつあるが、縁石にタイヤを乗せると挙動が心もとなくなる。「WETモードから始めて、SPORTまでにしておいた方がいいね」という言葉にも、うなずくほかには無い。
いよいよコクピットへ。デザインは一新されているがドライビングポジションは458イタリアなどと同じ流れにあり、すぐに馴染める。与えられたのはイン・アウトのラップを入れてたった4周しかないが、まずはWETモードで様子見がてら1周。まだまだ所々ウェットパッチが残っているのを確認しつつも、最終コーナーを立ち上がったあとSPORTモードへと切り替え、アクセルペダルを床まで目一杯、踏み込んだ。
刺激的かつ弾けるようなレスポンス!
エンジンは低回転域から弾けるようにレスポンスし、しかも実にトルキー。軽く踏み込んだだけでも速度がグングン上がっていくが、全開にするとデジタル表示された速度を目で追っている余裕などなくなる。回転が高まっていっても勢いが衰えることなく、むしろ更に鋭さを増していく。路面はまだ濡れて十分なグリップを発揮していないから、7000rpmを超えた辺りでモーレツなホイールスピンを起こして“ヒヤッ”とさせられるのだが、その刺激の前では右足を戻したくはなくなる。
回転落ちが速いおかげだろうか。7速DCTはシフトクオリティが向上しているようで、アップもダウンも非常にスムーズ。正直、雰囲気的にはもう少しショックがあってもいいぐらいだとすら感じたほどだ。
コースを走るクルマを見ている時には若干静かに感じられたエグゾーストノートだが、室内には迫力あるバリトンの、そして粒の揃ったサウンドが入ってくる。フェラーリとて厳しくなる通過騒音規制にミートさせなければならず、しかもターボエンジン、それもガソリン微粒子フィルターを装備するということで音作りには苦労したようだが、NA(自然吸気)時代の甲高い響きを思い出さない限りは、十分に満足行くフェラーリサウンドが出来ているように感じた。
安定感抜群のコーナリングは快感そのもの
コースの規制によりピット付近で一旦アクセルを緩めなければならないにも関わらず、第1コーナー手前で速度は軽々と220km/hを超える。そこからのブレーキングもまた素晴らしいフィーリングだった。今回、ペダルストロークを減らし、踏力でのコントロールをより重視する方向へと見直されたブレーキはソリッドなタッチで、微細な踏力の加減が非常にやりやすいのだ。
そこからのS字区間で味わったハンドリングは、まずスムーズという言葉を使いたくなるものだった。手応えの良い油圧式のパワーステアリングを切り込むとノーズが速やかにイン側に吸い込まれていくのだが、反応は決して過敏ではなく、むしろ意のまま感が強い。サスペンションのトラベルは長くはないが、その中でじわりとしたストローク感で、上々のロードホールディングを見せる。
もちろんミッドシップということで前後バランスに優れるのもあるし、更には長年のノウハウもありE-デフのセットアップも巧みなのだろう。自分を中心にクルマが素直に旋回していき、かつ安定感抜群のコーナリングは快感でしかない。
立体交差は慎重に抜けて、立ち上がりでまた思い切り踏んでいく。エンジンレスポンスの良さは回転数が高まるほどに際立ってきて、それと同時に快感が押し寄せてくる。回転計だけでなく速度計の数字も跳ね上がるように高まっていく。ヘアピンを立ち上がって高速レフトハンダーを抜けたら、その後は最終コーナー手前まで全開。約1分30秒の愉悦を存分に楽しんだ。唯一、ウェットパッチを強行突破するとさすがに姿勢を乱すこともあったからCT OFFなどのモードを試せなかったのだけが心残りである。午後にはもう少しコンディションが良くなっていただけに・・・。
一般道では高い快適性を味わえる
あっという間のホットラップの後には一般道にも出た。ワインディングロードは霧であまり堪能できなかったが、それでも抜群の乗りやすさと高い快適性に大いに感心、感激させられることに。ダンピングの設定がうまくハマッているようである。
フェラーリによれば、V8ミッドエンジンモデルのユーザーの80%が週末などの自由時間などに楽しむために乗っており、60%が時にはパートナーを横に乗せているという。そうなれば、絶対性能はもちろん快適性や実用性も重要となるわけだ。
ひとつの節目となる「お宝」
異例の3世代に渡る基本コンポーネンツの共有が示すのは、おそらく次のモデルではハイブリッド化などの大きな技術的飛躍が控えているということだろう。もちろん、フェラーリのことだから、そうなってもゾクゾクするほどの刺激をもたらしてくれることに疑いはないが、一方でV8ミッドエンジン・フェラーリの系譜の究極とも言えるF8トリブートの示す世界に、ひとつの歴史の節目として考えても、そして熟成感たっぷりのハードウェア自体の完成度の面でも、大いに魅了されるのも事実だ。
フェラーリF8トリブート。おそらく将来、お宝として崇められることになりそうな1台だが、決してガレージにしまい込むようなクルマではない。手に入れられた方はサーキットにも普段使いにも存分に連れ出してほしい。
REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
https://www.youtube.com/watch?v=XHj14cEeJXw
【SPECIFICATION】
フェラーリ F8 トリブート
ボディサイズ:全長4611 全幅1979 全高1206mm
ホイールベース:2650mm
トレッド:前1677 後1646mm
乾燥重量:1330kg
前後重量配分:前41.5 後58.5
エンジン:90度V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3902cc
圧縮比:9.6
最高出力:530kW(720ps)/7000rpm
最大トルク:770Nm/3250rpm
トランスミッション:7速DCT
ブレーキ ローター径:前398×223×38 後360×233×32mm
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(9.OJ) 後305/30ZR20(11J)
最高速度:340km/h
0→100km/h加速:2.9秒
0→200km/h加速:7.8秒
100→0km/h制動距離:29.5m
フィオラーノ・ラップタイム:1分22秒5
車両本体価格:3245万円
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