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MotoGPコラム:速さと巧さを兼ね備え、Moto3で圧巻のパフォーマンスを見せるホルヘ・マルティン。その秘訣とは

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MotoGPコラム:速さと巧さを兼ね備え、Moto3で圧巻のパフォーマンスを見せるホルヘ・マルティン。その秘訣とは

 大集団での激戦はMoto3クラスの代名詞だ。毎戦、10台近いトップ集団がコーナーごとにめまぐるしく順位を入れ替えて、最終ラップまで予測のつかないバトルが続く。この息詰まる激戦は「誰が勝っても不思議ではない」という常套句で語られがちだが、しかし、毎戦のレース展開やシーズン全体の総合順位の浮沈という視点で見てみると、上位を争う選手はじつは数名に限られていることがわかる。


 一昨年ならブラッド・ビンダーが圧倒的な強さを発揮していたし、昨シーズンはジョアン・ミルが速さとクレバーな戦略を両立させて勝利数を重ねていった。そして、2018年のMoto3で頭ひとつ抜けたパフォーマンスを発揮しているのが、クラス4年目のシーズンを迎える20歳のホルヘ・マルティン(Del Conca Gresini Moto3)である。

Moto3オランダ決勝:激戦5つ巴首位争いをマルティン制す。今季4勝目

 2015年と2016年にマヒンドラのマシンで戦っていたマルティンは、2017年から現チームに移籍。開幕戦でいきなりポールポジションを獲得し、即座に表彰台争いの常連になった。この年は計9戦でポールポジションを獲り、思い切りの良さと一発タイムのスピードではクラス内でも群を抜いていることを大きくアピールした。だが、決勝レースになるとなかなか勝てない展開が多く、初勝利は昨年最終戦のバレンシアGPまで待たなければならなかった。


 2018年は開幕前からチャンピオン最右翼のひとりに数えられ、開幕戦のカタールGPでさっそく優勝。第3戦アメリカズGPではポール・トゥ・フィニッシュを達成し、速さに加え、巧さも身につけたことを実感させた。

 第8戦オランダGPのレースウィークに先だち、マルティンとじっくり腰を落ち着けて話をする機会があった。その際に、ポールポジションを獲れてもなかなか勝てないレースが続いた昨年から一転し、なぜ今年は安定感の高い勝利を収めることができるようになったのか、について訊ねてみた。

「レースでバイクの乗り方を変えたわけじゃないんだ。去年はいつでも前に出ようとして、ずっと攻め続けていたから、最後の2周では体力もタイヤも消耗してしまっていた。去年は無我夢中だったけど、今はレース全体を考えて、落ち着いて走れるようになっている。だから今、勝てるようになったんだと思う」

 予選の速さも相変わらずで、今年もほぼ毎戦ポールポジションを連取している。しかし、ヨーロッパラウンド緒戦のスペインGPと続くフランスGPの決勝レースでは、トップ争いの最中に運悪く転倒に巻き込まれ、ノーポイントが連続した。

 この時期に強さを発揮していたのがKTM陣営だ。昨年のMoto3クラスは、ホンダが18戦中17勝と圧倒的な優勢を示したが、今シーズンは、第7戦を終えた段階でホンダ4勝(うちマルティンが3勝)、KTMが3勝と勝利数ではほぼ互角の状態になっていた。KTM陣営の選手たちに話を聞いても、エアボックスを新しくしたフランスGPからエンジンの速さに磨きがかかり、戦闘力がさらに高くなった、というコメントが返ってくる。ホンダ陣営のマルティンも、その脅威はひしひしと感じていたようだ。

「僕たちのバイクは、去年からエンジンも車体も良くなっている。でも、KTMは去年からかなりステップアップを果たしたみたいだ。だから、ホンダが遅いんじゃなくて、KTMが一気に良くなった、というべきなんだろう。正直なところ、ここまで彼らが改善するとは思っていなかった。特にエンジン。トップスピードでは僕たちも遜色がないけど、彼らは1~4速が速い。低速コーナーからの加速が、今の僕たちの課題だね」

 第8戦を前にしたこの段階で、ランキングはKTM勢のマルコ・ベゼッキが首位に立ち、マルティンはそこから23点差のランキング3番手だった。

「チャンピオンを獲れたら、それはもちろんすごくうれしいよ。自分にはそれだけのレベルとスピードはあると思っているし、万全の準備をすれば勝てる自信もある。でも、まだシーズンは12戦もあるので、一戦一戦に集中して毎戦勝ち続けることを目標にがんばるよ」

 翌日から始まる第8戦のレースウィークに向けた展望については「週末はいい天気になるという予報なので、皆がきっちりバイクを仕上げてくるだろうね。アッセンは大きなグループのバトルになるので、しっかりと戦略を練っていつものようにラスト2周で勝負をしかけたい」と語っていた。

 土曜の予選ではマルティンが今年5回目のポールポジションを獲得。決勝レースは、トップ集団のバトルを制してラスト3周で先頭に立ち、そのままトップでチェッカー。この勝利で25ポイントを加算したことにより、ランキングでも首位に立った。

 レース前にマルティンは「この7戦で自分がミスをしたのは一回だけ。だから、決勝での僕の安定感に問題があるとは思っていない。運が悪かっただけなんだよ。ヘレスとルマンは、僕の過失じゃないから」と話していたが、その言葉からもわかるとおり、レースとバトルに対する自信が彼をますます強くしているのだろうことは容易に想像できる。

 マルティンは、来年KTMファクトリーチームからMoto2クラスへ昇格することがすでに発表されている。昨年のMoto3王者ジョアン・ミルがとんとん拍子で来季MotoGPへ昇格していくように、マルティンもおそらく数年のうちに最高峰クラスにステップアップしていくのだろう。

 そして、これは前回(第7戦)のコラムと繋がることなのだが、欧州の若いトップライダーたちと今の日本人選手を比べてみると、ライダーとしての才能や恵まれた環境の有無で差がついているというよりもむしろ、ミルやマルティンの場合に顕著な、思いきりの良さや覚悟の強さ、そして自分自身に対する揺るぎない自信を持てているのかどうかというあたりが、両者の間の目に見えない違いを生む遠因のひとつになっているのかもしれない。

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