積算2万3961km 一線を画す能力の持ち主
ポルシェ718ボクスター GTSは、短時間の試乗レポートで得た評価の通り、長く付き合っても優れた仕上がりだろうか。それが長期テストを通じて、筆者が確認したいことだった。初試乗の印象が、非常に良かったからだ。
【画像】適度にホット ポルシェ718ボクスター GTSとケイマン GTS 911 GTSも 全86枚
実際、クラッチペダル付きの6速MTと、ドライなサウンドを響かせるフラット6エンジンは、とても楽しい。長く乗っても変わらない。日常的にも気兼ねなく乗れ、非常に優れたパフォーマンスを備えている。価格設定も妥当だといえる。
ロータス・エリーゼやアルピーヌA110など、小柄なミッドシップ・スポーツとは一線を画す能力の持ち主だ。特別でありながら、毎日の暮らしにも溶け込める。それが、718ボクスターへポルシェが丁寧に施した特長だ。
718ボクスターでは最大のエンジン、自然吸気の4.0L水平対向6気筒を搭載するGTS。英国価格も、モデル内では上位に設定されている。それでも、本来の魅力が霞むことはないといえるだろう。
程よく熱が加わった仕上がり
長期テストにお借りした718ボクスターには、約9000ポンド(約140万円)ぶんのオプションが装備されていた。カーマイン・レッド塗装にアルカンターラ仕立てのインテリア、ダイナミックLEDヘッドライトなど。
鮮やかなボディカラーと相まって、充分にシリアスなマシンだと感じさせてくれた。918スパイダー風のバケットシートと、カーボンセラミック・ブレーキを奢ることもできる。だが、さらに約9000ポンド(約140万円)が必要になる。
サスペンションは、ノーマルから車高が20mm低くなる、GTS標準のもの。10mmダウンとなるアダプティブ・サスペンションなら、もう少しソフトな乗り心地を享受できただろう。
一方でクラッチペダルが残る6速MTなら、デュアルクラッチATのPDK(ポルシェ・ドッペル・クップルング)を装備させた場合と比べて、英国では2303ポンド(約36万円)も価格が安い。レブマッチ機能も付いている。
概ね、RE20 KVHのナンバーが与えられた718ボクスター GTSは、程よく熱が加わった仕上がりだったといえる。ミディアムレア的な。
4.0Lフラット6は、このクラスでは最高のエンジンだといって良い。もしこれ以上を求めるなら、追加費用を準備して自然吸気V型10気筒を積むアウディR8 スパイダーを選ぶ必要がある。
718ボクスター GTSで悩ましい選択
長期テストを通じて、718ボクスター GTSで最も悩ましい選択が、トランスミッションだということが明らかになった。マニュアルにするか、デュアルクラッチ・オートマティックにするか。
6速MTは、機械的にギアが噛み合ったような感触が薄いものの、シフトレバーは滑らかに動く。しかし特に2速目のギア比がロングで、エンジンの回転域をすべて味合うことが難しい。
クラッチペダルのストロークも、筆者の理想よりやや長い。発進時や加速時は、エンジンとの歩調を合わせやすい。しかし、混雑した市街地や渋滞に巻き込まれた時は、左足の連続した屈伸運動が楽ではない。
筆者が自分の理想の718ボクスター GTSを組み上げるなら、7速PDKを選ぶべきか相当に悩みそうだ。高い技術力で開発され、極めてシャープに変速をこなし、洗練されてもいる。
エンジンもレッドラインまで、充分に回しきれる。変速の手間を忘れて、遠い目的地まで高速移動も叶えてくれる。
だが散々迷って、6速MTを選ぶかもしれない。滑らかな変速から、大きな充足感を得られる。純EVの時代が来ると、シングルスピードATの一択になるだろう。新車でMTに乗るなら今しかない。
理想的な道路環境でのGTSの素晴らしさ
718ボクスターには、911 GT3のフレーバーを注ぎ込んだボクスター・スパイダーという、ドライビング体験のリーダーがいる。位置付けとしては、その次が、このGTS 4.0ということになる。
引き出しやすい太いトルクと軽い車重を備えた2.5Lターボ・フラット4の方が、甘美なハンドリングを楽しめるという評価もある。筆者も、その意見は理解できる。だが、理想的な道路環境におけるGTSの素晴らしさは、それを超越している。
サスペンションは標準のままでもタイトで、2段階のPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメント)をハード側に設定することは殆どなかった。ダイナミック・エンジンマウントをスポーツ・モードにすることはあったが。
見事なバランスと前後の重量配分が与えられたシャシーは、ボディロールが基本的に小さい。フロント・サスペンションはダブルウイッシュボーンではないが、路面へ流暢に追従していくような、しなやかさも備えている。
コーナリングラインの調整を、アクセルペダルの角度で自在に行える身のこなしも、突出した強み。サーキットやアルプス山脈では、右足の力加減で漸進的に旋回していく挙動を、存分に味わうことができた。
同時にステアリング・フィールも特筆モノ。操縦性も乗り心地も、最高水準にあるドライバーズカーだといって良い。2.5Lターボより重くパワフルなGTS 4.0も、718ボクスター本来のストロングポイントをまったく弱めていない。
予想以上に優れたグランドツアラー
長期テストで最も印象に残ったことは、往復4400kmの欧州縦断。英国の荒いアスファルトで目立っていたロードノイズも、欧州大陸の路面では遥かに静かだった。
718ボクスターには車両前部と後端に、それなりの荷室がある。高速道路を快適に走れることと相まって、予想以上に素晴らしいグランドツアラーになることを実感した。
座面が低く、空間にも余裕があるポルシェ911の方が、長旅に適してはいると思う。一方で適度にコンパクトなボディは、入り組んだ市街地でも扱いやすい。コンバーチブルなら、その土地の空気を存分に堪能できる。
400psと適度にパワフルな718ボクスター GTSは、時間距離を短くしてくれる。特別さと控え目さとの、絶妙なバランスにあると感じた。
天気の良い日は、オープンドライブで気分もアガる。これまでコンバーチブルにあまり興味を抱かなかった筆者だが、718ケイマンとどちらが良いか今後は悩みそうだ。
718ボクスター GTSの長期テストは今回で終了。次に長期テストへやってくる2シーター・ポルシェは、純EVかもしれない。3枚のペダルと内燃エンジンで得る喜びも、そろそろ打ち止めのようだ。
セカンドオピニオン
素晴らしいクルマだが、GTS 4.0は少々筆者にはハードコアすぎる。現実的な環境で、フラット6を7800rpmのレッドラインまで回し切ることが難しい。
4.0Lエンジンを搭載することでの60kgの車重増と、高い価格を考えると、2.5Lフラット4ターボの718ボクスターの方が、多くのドライバーにとってベターチョイスかもしれない。 Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
テストデータ
気に入っているトコロ
パワートレイン:自然吸気4.0フラット6と、3ペダルMTの組み合わせに、説明はいらないだろう。爽快なドライビング体験が待っている。
荷室:表面上はさほど大きく見えないが、実際は驚くほど多くの荷物を搭載できる。
ハンドリング:素晴らしい減衰力特性と繊細なシャシーバランスが、高い安定感と自由度の高い操縦性を生んでいる。
ソフトトップの多様性:コンバーチブルはあまり好きではなかったが、718ボクスター GTSが考えを改めさせた。オープンが喜びを追加してくれる。
気に入らないトコロ
些細ないくつか:少々ロングなギア比に、低回転域とレブリミット付近でのざらついたエンジン音くらい。アンドロイドーオートも欲しい。
走行距離
テスト開始時積算距離:1万3275km
テスト終了時積算距離:2万3961km
価格
モデル名:ポルシェ718ボクスター GTS 4.0(英国仕様)
開始時の価格:6万6340ポンド(約1028万円)
現行の価格:6万6340ポンド(約1028万円)
テスト車の価格:7万5860ポンド(約1175万円)
オプション装備
GTSインテリア・パッケージ:2096ポンド(約32万5000円)
カーマインレッド塗装:1658ポンド(約25万7000円)
ポルシェ・ダイナミックライト・システム:1397ポンド(約21万6000円)
アルカンターラ・パッケージ+GTSインテリア・パッケージ:1242ポンド(約19万3000円)
駐車アシスト・リアカメラ:1086ポンド(約16万8000円)
2ゾーン・エアコン:539ポンド(約8万4000円)
ボディ同色ロールオーバー:357ポンド(約5万5000円)
レインセンサー付き自動防眩ミラー:345ポンド(約5万3000円)
交通標識認識機能:236ポンド(約3万7000円)
クルーズコントロール:228ポンド(約3万5000円)
電動フォールディングミラー:210ポンド(約3万3000円)
ISOフィックス・助手席シート:126ポンド(約2万円)
燃費&航続距離
カタログ燃費:9.2km/L
タンク容量:64L
平均燃費:9.7km/L
最高燃費:12.6km/L
最低燃費:7.3km/L
航続可能距離:621km
主要諸元
0-100km/h加速:4.5秒
最高速度:289km/h
エンジン:水平対向6気筒3995cc自然吸気
最高出力:400ps/7000rpm
最大トルク:42.7kg-m/5000rpm
トランスミッション:6速マニュアル
トランク容量:150L(フロント)/130L(リア)
ホイールサイズ:20インチ8.5J(フロント)/20インチ10.5J(リア)
タイヤ:235/35 ZR20(フロント)/265/35 ZR20(リア)
車両重量:1405kg
メンテナンス&ランニングコスト
リース価格:−
CO2 排出量:247g/km
メンテナンスコスト:なし
その他コスト:12ポンド(約1800円/エンジンオイル)
燃料コスト:1630ポンド(約25万7000円/ガソリン)
燃料含めたランニングコスト:1358.5ポンド(約20万6000円)
1マイル当りコスト:0.25ポンド(約38円)
不具合:なし
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