クルマ好きなら誰もが憧れた装備
かつてクルマ好きが憧れた装備といえば、外観であればリトラクタブル式のヘッドライトが挙げられるだろう。点灯していないときはヘッドライトが見えないようにたたまれ、点灯の際にボンネットフードの一部が立ち上がり、ヘッドライトが現れる機能だ。主にスポーツカーなどで採用された。
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国産車で印象的なのは、マツダ RX-7だろう。初代は1978年の生まれだ。それ以前にもトヨタ 2000GTが採用していた。またAE86として人気を呼んだ、カローラ レビンの兄弟車であるスプリンター トレノが、レビンとの区別として採用している。後年では、90年のホンダ NSXがそうであり、実はかなりの車種が80~90年代にかけて採用している。
リトラクタブルヘッドライトの目的は、空気抵抗の低減にある。ヘッドライトは今日のLEDなどが開発される前はそれなりの大きさがあり、車体の前端に厚みが生じやすい。そこで使わないときはボンネットフード下へたたみ込むことで、ボンネットフードを低くし、前端部を薄く造形しようとしたのだ。
一方、ヘッドライトを点灯すればライト部分がボンネットフードの上に出っ張り、しかもライトの後ろ側の形を滑らかに収束させるのが難しいため、かえって空気抵抗を増やしてしまう。また点灯や消灯のたびに上げ下げしなければならないので、その作動機構が故障の要因にもなる。
90年代に入ると、プロジェクター式のヘッドライトが開発され、小さくできるようになった。その後はLEDライトの誕生などもあり、あえてリトラクタブルとする意味が薄れた。
オーバーフェンダーは憧れの的だった
外観の造形でほかにも標準的な車種と明らかに違う装備として、オーバーフェンダーがある。主に、スポーツカーやスポーティな車種で採用されることがあった。初代スカイラインGT-R(ハコスカ)のハードトップで後輪側に取り付けられた。
初代フェアレディZにも追加され、71年に登場した240ZGでは前後フェンダーに装備。TE27と呼ばれた72年のカローラ レビン/スプリンター トレノも、オーバーフェンダーを装着することで特別な車種として当時の憧れの的となった。ことにレビン/トレノは、大衆車として生まれたカローラに、オーバーフェンダーが付くので、より多くの人がオーバーフェンダーの付いたクルマに乗れる喜びを味わった。
オーバーフェンダーは、もともとモータースポーツ用に市販車を改造した際、より幅の広いタイヤを装着するうえでタイヤが車体側面からはみ出さないよう覆うために取り付けられたものだ。それが格好いいということになり、市販車へも採用されたのだが、自動車メーカーが新車装着することは70年前後にはまだ珍しいことだった。
クラシカルな木目調が当時の若者に人気だった
外観では、車体側面に木目調をあしらったステーションワゴンも、余暇を楽しむクルマの趣を高めるため、60~90年代あたりに装備する車種があった。主に米国のステーションワゴンで車体側面に木目調をあしらう車種があったほか、英国ミニのトラベラーでは、木目調とは異なるが木製の枠組を車体側面に取り付けていた。
国産車でも80年代の2代目シビックの派生車種としてシビック カントリーがあり、また日産のセドリック/グロリアにも車体側面に木目調を採り入れていた例がある。木目調や木枠の発想の原点は、馬車にあるのではないか。これら木目調や木枠を車体に取り付けたステーションワゴンは、鉄製のクルマにほのぼのとした人のぬくもりを加え、親しみを増した。
馬車に時代の名残としては、レザートップもある。屋根や、屋根の一部に革張りのような装飾を施し、幌のような面影を持たせたものだ。屋根全体を覆うものと、ハーフレザーといって屋根の後半にだけ装飾を施したものもある。そして、屋根の後ろ側の側面にS字型をした金具のような造形を持つものもあり、この装飾はかつて幌を折りたたむ際に使ったヒンジの名残を飾りとしたものだ。
空気抵抗を減らすためにミラーの形状に拘った
小さな部品では、砲弾型のフェンダーミラーも憧れの装備の一つであった。
今日のようにドアミラーが1983年に認可されるまで、国内ではフェンダーミラーでなければならず、標準は平らな鏡に支柱を取り付けた形状だったが、よりスポーティな車種では砲弾型といって鏡より前方の部分を流線形にしたものがあった。どれほど効果があったかわからないが、それによって少しでも空気抵抗を減らそうとしたためだ。
しかし砲弾型では鏡の部分が丸くなり、後方視野が限られるため、やや横に長い長方形の鏡を使いながら、空気抵抗を減らそうと砲弾型のようにカバーを取り付けたものを、タルボ型といった。
木目調の内装部品では、木目調ステアリングも60~80年代に、革巻きとともに憧れの一つであった。欧州の高級車は、内装にローズウッドが使われるなどしてきた経緯があり、それと調和するのは木目調のハンドルであった。また、60~70年代のスポーツカーやスポーティな車種でも国内外を含め採用されていたり、注文装備として用意されていたりした。
イタリアの自動車部品メーカーであるナルディ製がとくに有名で、日本でも憧れの的になり、標準のハンドルから付け替えることがクルマ好きの間で行われた。しかし、エアバッグが標準装備になっていく過程で、交換はもちろんのこと、木製ステアリングの採用は減った。また木目のハンドルは、革巻きに比べ滑りやすい場合もあり、姿を消すようになったと考えられる。
ただし、レクサスLSなど国内外の高級車では、手で握る部分に皮を用い滑りにくく対応しながら、他の部分を木目調としたハンドルが今日も選択肢として残る。
キャブレターはガソリンと空気を混ぜて燃焼
クルマでまったく用いられなくなった部品に、キャブレター(気化器)がある。今日の燃料噴射に替わる前、エンジンにガソリンを供給する装置だ。
原理は、霧吹きのように、エンジンに吸い込まれる空気の負圧を利用し、ガソリンを噴き出して空気と混ぜる仕組みである。しかしいまでは、霧吹きという言葉さえ死語に近いかもしれない。
空気の流れが速くなると、大気圧より圧力が下がり、ガソリンが吸い出されるのを利用して、空気と混合する。アクセルペダルの踏み込み量に応じて、スロットルバルブが開くと、流れる空気量が増えるので、それによって負圧が増大し、ガソリン供給量も増やせる。
アクセルペダルを深く踏み込めば、スロットルバルブはより大きく開き、空気の流れがさらに速くなるので、多くのガソリンを供給でき、加速が強まる。
1886年に、ドイツのカール・ベンツがガソリンエンジンの自動車(パテント・モトール・ヴァーゲン)を発明したときには、まだキャブレターはなかった。気化しやすいガソリンが自然に液体から気体へ変化するのに合わせてエンジンを回すしかなかった。そこで、パテント・モトール・ヴァーゲンは、時速15kmほどの速度しか出せなかったのである。
ツインキャブ=高性能の証だった
キャブレターで憧れとなったのは、ツインキャブレターといって、一つのエンジンにキャブレターを2個用いることだった。基本的には直列4気筒エンジンに一つのキャブレターで間に合わせるのが標準で、これで問題なく走らせることができた。
しかし、より高性能で、アクセル操作への応答のよさが求められるスポーツカーなどでは、多くのガソリンを各気筒へ的確に、素早く供給したい。そこで、2気筒に適切な燃料供給ができる機構のキャブレターを2個装備すると、4気筒すべてに的確にガソリンを供給できる。
また、キャブレターから吸気までの距離(マニホールドの長さ)を各気筒へ均一に、かつ短距離にできるので、アクセル操作への応答も早くなる。イタリアのウェーバーや、フランスのソレックス、英国のSUなどが有名で、直列6気筒エンジンであれば、それらを3つ装備した。
70年代に排出ガス規制がはじまり、時代とともに規制値が強化されると、燃焼をより完全に近づけ、また緻密に制御するにはコンピュータによる管理が必要になり、キャブレターから意図的に燃料を供給できる燃料噴射へ移行していった。
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特に90年前後の車は質も高いので、新品なら欲しいと思えるものは多い。