先代Q3から少し間が空いたが、待望の新型Q3がついに発売された。 2世代目となったこのモデルは、Q3、Q3スポーツバックというふたつのボディタイプが揃い、さらにパワートレーンにもディーゼルとガソリンが用意され、選択肢も魅力も広がった。(Motor Magazine 2020年11月号より)
新たにSUVクーペ、スポーツバックを追加
新型Q3に試乗して、アウディのコンパクトモデルが新時代に突入したことを再確認した。その変貌ぶりはエクステリアデザインを見れば一目瞭然。シングルフレームグリルが八角形とされたのはQモデルの最新デザイン言語に従った結果だが、ボディサイドのパネルがほどよく湾曲していた従来型に比べると、新型はむしろ平坦に近づいたのが特徴的。
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一方で、前後輪を強調するブリスターフェンダーは日本刀もかくやと思わせる鋭利なキャラクターラインで縁取りされていて、実に先進的な印象を与える。デザインの手法には変化が生まれたが、いい意味でアウディの伝統を受け継いでいるのがプロポーションの良さである。
2代目Q3になって追加されたスポーツバックは最近はやりのSUVクーペで、標準型(SUVボディ)のQ3に比べるとルーフの途中から一直線に下降するファストバックスタイルを採用している。ボディ前半部分をQ3と共有しながら、よくここまで異なる個性を表現できたと感心する。同時に注目したいのがプロポーションのまとまりの良さだ。
ライバルメーカーが作るSUVクーペの中には、クーペ化したことで前後の視覚的バランスが崩れているケースも散見されるが、Q3スポーツバックにはデザイン的に破綻している部分がない。個人的には装飾的なデザイン要素が増えた点が気になるものの、プロポーションをなによりも重視するアウディのフィロソフィは、このQ3スポーツバックにもしっかり受け継がれていると言える。
俊敏なハンドリングと軽快な乗り心地が印象的
足まわりの設定にも明確な変化が見て取れた。一般的にプレミアムブランドの乗り心地といえばドッシリとした重厚感を前面に打ち出すのが主流だが、アウディはあえて軽く浮き立つような感触で軽快感を強調すると同時に、優れたステアリングレスポンスを実現している。
その一方で、路面からの微振動をあますことなく吸収しながら、どんな大入力も軽々と受け流す強靱さを備えていた。その機敏なハンドリングと優れた快適性は、ライバルメーカーが前輪駆動系シャシの熟成に苦しむこのCセグメントにおいて、それこそ圧倒的な優位性を誇っていた。
それが新型Q3では微妙な変化が見られた。乗り心地の軽快感は従来と変わらないものの、タイヤからのショックや振動を効果的に遮断する特性がやや影を潜め、その取り分がハンドリングの俊敏さに振り分けられたようなのだ。
結果、足まわりの洗練さが損なわれたと感じる向きがあるかもしれないが、裏を返せばそれゆえに路面の状態が生き生きと伝わってきて、「走っている」感触がより明瞭になったのも事実。したがって、年齢が若い層、もしくは心持ちが若い層には歓迎される変化かもしれない。
ちなみに今回の試乗車はスポーツバック、SUVともにディーゼルのクワトロで、お馴染みのSラインというスポーティなグレードだったから、ベースグレードもしくは「アドバンスド」と呼ばれる別グレードであれば、印象が違っていた可能性も残されている。
ハンドリングや乗り心地に明確な若返り志向が見える一方で、前後のグリップバランスがバツグンに優れているのは今も昔も変わらないアウディの美点だ。とにかくどれほどハードコーナリングを試しても、ハンドリングが破綻する気配は皆無だった。
ちなみに、今回の取材とは別の機会にガソリンエンジンを搭載したFFモデルを試乗してみたが、そちらは限界的コーナリングでフロントのグリップが先に失われる傾向が見られた。したがってスタビリティでいえばクワトロ仕様が一枚上手。反対に「操りがい」を優先するならFFモデルを選ぶ手もありそうだ。
パワープラントが2台ともディーゼルだったことは前述のとおりだが、エンジンの印象は良好だった。エンジン始動時には軽い身震いをするものの、アイドリングでガラガラ音を立てることもなければ、低回転時に強くスロットルペダルを踏み込んでもキンキンとした金属音を響かせることがない。少なくとも、かつてディーゼルモデルを買う際に必要だった覚悟のようなものは、ほとんど不要になったといって間違いない。
ダッシュボードのデザインは上級モデルと共通コンセプト
一方で巡航状態から少しアクセルペダルを踏み込んだとき、間髪入れずにグイッと加速する力強さは相変わらずディーゼルの美点。カタログ燃費でも6%ほどディーゼルが上回っている。ハイオクガソリンと軽油の価格差を含めて考えれば、燃料代の違いは4割ほどにもなるだろう。ちなみに100km/h巡航時の燃費はオンボードコンピューターの表示でおよそ18km/Lだった。
室内スペースはスポーツバックでもSUVでもほとんど変わらない。後席の膝まわりの空間は身長171cmの私が腰掛けても拳ふたつ分ほどと余裕たっぷり。頭上のスペースはSUVで拳ひとつ分、スポーツバックでは拳半分と差が出るものの、天井を見上げない限り、その違いには気づかないだろう。
だから、180cmほどの長身が腰掛けるには不自由があるかもしれないが、そうでなければ視覚的圧迫感も含めてSUVとスポーツバックで差があるとは思えない。また、後席の着座姿勢は背筋がピンと伸びた自然なもので、これだったら長距離ドライブでも苦にならないはず。ちなみにVDA方式によるラゲッジルーム容量は530Lで、SUVでもスポーツバックでも変わりない。
ダッシュボードまわりのデザインは一新された。フルデジタル式のメーターパネルと大型のタッチディスプレイを中心とするインターフェイスはアウディの上級モデルと共通するコンセプト。ただし、タッチディスプレイの下側にもうひとつの大型ディスプレイを備えた上級モデルとは異なり、ここに「物理的スイッチ」を配置している点がQ3の特徴である。
Q3/Q3スポーツバックは新しい顧客への訴求力がある
アウディの上級モデルに見られる、大型ディスプレイを主体として大胆なフラッシュサーフェイス化を図ったインテリアは、デザイナーたちが長年夢に描いてきたものだろう。その勇気は称えたいが、これで本当に優れた操作性が実現できるのは、音声認識システムの認識率がまったく不満のないレベルに達してからのこと。
しかし、現在のアウディのシステムは残念ながらそこまでの認識率に達していないので、たとえばエアコンの調整をするにはどうしても下側のディスプレイを覗き込む格好になってしまい、安全上、好ましくない。この点、物理的スイッチが配置されたQ3であればブラインドタッチも容易で安全性は高いうえ、デザイン的にもすっきりとしていて好感が持てる。したがって、現在の技術レベルであればQ3方式の方が完成度が高いというのが私の結論である。
エクステリアとインテリアのデザインが大きく変わり、シャシの味付けも大きく見直された新型Q3は、これまで以上に若い顧客層に明確にターゲットを絞ったコンパクトSUVのように思う。どのブランドにとっても顧客の若返りを図るのが急務とされるので、この方針転換には賛同せざるをえないが、私が唯一惜しいと思うのは乗り心地面での懐の深さである。
おそらく、ハードウェア的には以前と変わらない快適性を生み出すポテンシャルを備えているはずだから、あとはサスペンションのチューニングを少し変えるだけで、新しい顧客を取り込むことも、従来からのアウディファンに納得してもらうこともできるのではないだろうか。
A6やQ7などが引き続き優れた快適性を維持していることを考えれば、アウディがコンパクトモデルの方針を元に戻すのはそれほど難しいことではないだろう。Q3の今後の進化に期待したい。(文:大谷達也)
■アウディQ3 35 スポーツバック TDIクワトロSライン主要諸元
●全長×全幅×全高=4520×1840×1565mm
●ホイールベース=2680mm
●車両重量=1710kg
●エンジン= 直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量=1968cc
●最高出力=150ps/3500-4000rpm
●最大トルク=340Nm/1750-3000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT(Sトロニック)
●車両価格(税込)=563万円
■アウディQ3 35 TDIクワトロSライン主要諸元
●全長×全幅×全高=4495×1840×1610mm
●ホイールベース=2680mm
●車両重量=1700kg
●エンジン= 直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量=1968cc
●最高出力=150ps/3500-4000rpm
●最大トルク=340Nm/1750-3000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT(Sトロニック)
●車両価格(税込)=543万円
[ アルバム : アウディQ3/Q3スポーツバック はオリジナルサイトでご覧ください ]
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