BMWのフラッグシップクーペの8シリーズ。そのカブリオレを900kmほどテストする機会に恵まれたのでそのレポートをお届けする。
◆エレガントさでは秀逸
BMW 2000CSに端を発するBMWの大型クーペは、いずれのモデルも美しさでは群を抜いている。特に初代6シリーズに至っては究極の美しさといっても過言ではないだろう。そしてこの8シリーズも伸びやかさとともに、リヤフェンダー周りのボリューム感は魅惑的だ。より強調されているのはクーペだが、今回テストしたカブリオレもリヤクォーターから眺めた姿は一見の価値がある。
フロントでは、BMWの流儀に則ってキドニーグリルのピーク位置はヘッドライトよりも下に位置し、低重心を強調している。
少し重めの大きなドアを開けて室内に乗り込んでみると、エクステリア同様にエレガントな雰囲気が漂う。電動シートでドライビングポジションを合わせクリスタル製シフトレバーの右にあるスターターボタンを押すと、4.4リットルV型8気筒ターボエンジンは軽いハミングのようなサウンドとともに目覚めた。最高出力530馬力、最大トルク750Nmを誇る割にはほとんど振動もなく粛々と回り、少し肩透かしを食らうことになるかもしれない。しかし、より迫力のあるサウンドをということであれば、そのように変えることも可能だ。
ではシートベルトをしてスタートしよう・・・・、というところで気になるところが出てしまった。シートベルトの装着が非常にやりにくいのだ。通常大型の2ドアクーペなどはシートベルトがBピラーあたりに配されるため前席から手が届きにくく、そのためにアンカーがシートベルトをバックレストあたりまで送り出してくれるものだ。しかし、8シリーズにはそれが装備されていないため、後ろを振り返って手を伸ばしてシートベルトをつかんで引っ張り出し、改めて装着しなければならない。これが小柄な女性であればなおさら大変だ。せめてフラッグシップを誇り1800万円を超えるクルマであるならば、せめてこのくらいは装備してほしいものだ。何せエレガントさを強調しているのだから、乗員もエレガントな仕草が求められると思うからだ。
◆普段はジェントル。だけど……
さて、シフトレバーをDにセレクト。ゆっくりとアクセルを踏み込むと自動的にパーキングブレーキが解除され、静々と8シリーズカブリオレは走り始めた。
街なかを走っていると、意外なことに強力なパワーやトルクを感じることは少ない。その理由はアクセルの最初の踏み込み部分が少し鈍に躾けられているからだ。従って少し多めに踏み込むことになるので、普段とそれほど変わらない感覚でクルマを操ることが出来る。しかし、前方に空間ができたことを見極めそこから一気にアクセルを踏み込めば、あふれ出るトルクとパワーであっという間に制限速度を大幅にオーバーしそうになる。そういったことさえしなければパワーを持てあますことなく極めて普通に乗りこなせ、アクセルのセッティングが非常に上手くいっていることを感じた。
高速に乗り入れて少しパワーとトルクを解き放ってみよう。料金所を出てアクセルをぐっと踏み込むと周りの景色はコマオトシのように流れ、あっという間に制限速度オーバーの世界だ。そういったときにトラックなどが急に前方に割り込み強めにブレーキングをした際など、このクルマは非常に安定した挙動を表す。クーペほどのボディ剛性はなくとも、そういった走る、曲がる、止まるといった部分は手を抜くことなく仕上げられているのだ。
◆パワーだけではなく乗り心地も秀逸
もうひとつ言い添えておくと、乗り心地の良さは特筆に値する。クーペと比較すると若干の硬さを感じるものの、ドライビングパフォーマンスコントロールをコンフォート、あるいはアダプティブを選択しておけば快適なクルージングを楽しみことが出来るだろう。
一旦サービスエリアに入って、せっかくなので幌を下ろしてオープンを楽しむとしよう。その開閉は15秒ほどで、50km/h以下であれば可能である。幌を下ろしてしまえば後ろを遮るものはまったくない。流石にサイドのウインドウだけは上げて再び本線に乗り入れると、意外に風の巻き込みが大きいことに気付く。大体90km/hまでであればそれほど問題はないが、それ以上になると後ろからの巻き込みが大きくなり、ヘッドレストに組み込まれた温風ヒーターは役に立たなくなってしまった。やはり後ろに何らかの細工を施さねば、この巻き込みを防ぐことはできないのだろう。はたして見た目を取るか快適性を取るか悩ましいところだ。そして、幌を下ろしてもボディ剛性はほとんど変わらなかったことを付け加えておこう。
◆注目の渋滞時ハンズオフを使ってみた
高速道路では積極的にアクティブクルーズコントロール(ACC)を使用するとともに、渋滞時ハンズオフシステムも搭載されていたので、それも利用してみた。まずハンズフオフが搭載されている場合、ACCのみの走行で渋滞時の停車後は時間制限なく自動で再発進が可能になる。覚えておかないと前方のクルマに続いて発進してしまい慌てることになるので注意が必要だ。そのACCだが三眼カメラになったことでより緻密な制御が可能になったというが、今回のテストの範囲内ではそれほどの効果は感じられなかった。確かにこれまでよりは精度は上がったものの、追い越し車線走行中の右コーナーなどで左側車線のクルマを補足して減速することはやはりあるし、白線が消えた時に別の車線をトレースしてしまい進路が乱れることもあった。また前走車が車線変更をした場合、それに続こうとすることもあった。
そして注目の渋滞時ハンズオフだが、かなり使用に制限が設けられている。まず高速自動車国道および指定都市高速道路を走行中に、渋滞に巻き込まれた場合にのみ作動する。ただし、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)はどうやら使用範囲に含まれていないようで、渋滞の最中でも作動しなかった。また、渋滞中であってもある程度の速度が出た場合には解除されてしまう。さらに、ドライバーがよそ見をしたり目をつぶったりした場合にも警告が発せられ、最終的には解除されてしまう。動作そのものはスムーズで同乗者は気付かないレベルといえるが、高速での渋滞中のみなので急なコーナーなどはほとんどなく、一概にすべてがスムーズだとは判断がつきかねた。言い忘れたがブレーキングは若干急なことがままあった。
ハンズオフ機能はACC使用時で条件が整ったときに、アシストプラスレディという表示がメーター上に出たらステアリングのMODEボタンを押す。そうすると起動するという簡単なものだ。実際に作動するとステアリングに埋め込まれたグリーンのLEDが点灯するので明確だ。
◆細かく気になるところあれこれ
さて、細かいが気になるところをあげておこう。まずドアにあるアシストグリップの位置だ。大きなドアの場合、アシストグリップが前方でかつ斜めだと開閉の際の力加減が非常に難しくなる。特に横にクルマが止まっている場合などにあけるときは細心の注意と力加減が必要で、せめてドアの中間あたりに握り手が欲しいと感じた。
また、これはほかのBMWも同様で、ステアリングスイッチとその作動部位が逆になっていることが多い。例えばステアリングの右側にオーディオのボリュームスイッチなどが配されているが、その作動はドライバー左のモニターなどで確認することが多い。左ハンドルのカタログを見ると、日本仕様と同じ位置にスイッチ類は配されているので、オーディオ類は右手で操作し、スクリーンは右側にあるのでそこで確認するという理にかなった配置だ。つまり、ステアリングは左ハンドルと兼用なのだ。
さらに、これも新型3シリーズ以降デビューしたBMWすべてにいえるのだが、ナビの操作が非常にやりにくくなった。例えば目的地近くの駅を表示したあと、そこからわずかに移動させて本来の目的地を設定したい場合、これまでは簡単に“位置修正”でできていたものが、出来なくなってしまった。そのほかにも目的地まで有料道路を通らずに行きたい場合には、おおもとの検索条件を変えなければ、リルートした場合などに勝手に有料道路へ誘導されてしまう。音声アナウンスのイントネーションも違和感があり、全体として改悪となってしまったようだ。
こういったことに気付いているのかどうかわからないが、ドライバーサポートデスクが利用できるようになったことは大きなメリットだ。これは通話先の“人間”と話をしながら遠隔操作でナビをセットしてもらえる。ただし、ひとつだけ注意するとすれば、通話先の人がどこ(例えば沖縄かも知れない)にいるかわからないため、略称や通称名などが通じないことがあるのだ。そのあたりはこちらが注意して説明すればストレスなく設定してもらえるだろう。
最後に燃費について。
市街地(km/L) 実測5.0 WLTC5.2
郊外(km/L) 実測8.7 WLTC8.9
高速道(km/L) 実測9.5 WLTC10.5
900kmほど走らせた結果はご覧のとおりだ。これをどう評価するかは悩ましいところだが、おおよそ妥当、予想通りという印象だ。いくらアイドリングストップがついているからといって、4.4リットルV型8気筒ターボエンジンを搭載し、2101kgと2トンオーバーの車重を引っ張り上げるのだから街なかや郊外ではこのくらいではなかろうか。一方、高速ではもう少し伸び代がありそうだ。今回は事故渋滞などで(ハンズオフ機能はそこで試せた)燃費には厳しい結果になったからだ。実際に空いた高速を淡々と走らせたときには14.5km/Lを記録したこともあった。
今回M850iカブリオレをテストしてみた結果、やはり日本車にはない華やかさと同時に、グランドツアラー、淡々と高速を疲れずにいかに速く移動するクルマだということを再認識した。高速安定性は非常に高く、xDriveの影響もあり多少路面が荒れていてもものともせず走り抜けられるのは大したものだし、こういった積み重ねが疲労軽減につながるのだ。この辺りはまだまだ日本車の及ばないところで、ボディ剛性のとり方など一日の長があるといえるだろう。もしいま、京都まで往復してきてといわれたら、迷わずこのクルマのキーを手に取るだろう。細かいところ、特にナビ関連は早急にアップデートして使いやすくしてもらいたいが。
<文&写真=内田俊一>
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