たとえ一時代を築いた大ヒット作であっても、時とともに自然淘汰の波にさらされてしまうのはこの世の宿命。輸入車の世界にも「そういえばこの頃見なくなったなぁ」と感じるクルマがいくつもあります。手持ちのミニカーを整理しているうちに、ふと気になったそんな輸入車の栄枯盛衰。今回はちょっと懐かしいミニカーを題材に、最近見かけなくなってしまった輸入車について考えてみます。
オープン2シーターの初代モデル
V10&V12エンジン全盛期に想いを馳せて。レトロゲームで往年のF1の楽しさを再確認する
ユーノス・ロードスターを筆頭に、オープン2シーターの初代モデルは大ヒットとなることが少なくありません。ドイツ車ではBMW Z3、メルセデス・ベンツ SLK、ポルシェ・ボクスターが御三家で、いずれも1996年に誕生しているのが興味深いところ。なかでも折りたたみ式メタルルーフのバリオルーフを採用したメルセデス・ベンツ SLKは、それまでニッチな存在だったクーペカブリオレのカテゴリーを、一気にメジャーに押し上げた存在でした。
これらの御三家は、現在はそれぞれBMW Z4、メルセデス・ベンツ SLC、ポルシェ 718 ボクスターとして生産されています。しかし、SLKから名称変更されたメルセデス・ベンツ SLCは、実質的に3代目となる現行モデルで終了となる予定で、一抹の寂しさを感じます。
これらの車種は、さまざまなミニカーメーカーが製品化していて選択肢が豊富です。なかでもメルセデス・ベンツ SLKは、バリオルーフの開閉を再現した1/18ミニカーなどもつくられ、当時のインパクトの強さが伺えます。
革新的な小型スポーツカー
オープン2シーターと同様に、コンパクトなスポーツクーペも最近街中で見かけなくなってきたカテゴリーといえます。ネオクラシックあたりのモデルは特に顕著で、そのほとんどが中古車店に行ったか、あるいは天に召されてしまったのかと思ってしまいます。
斬新なデザインのモデルとして記憶に新しいのが、1998年に登場した初代アウディ TT クーペ。個性的なスタイリングが原因で高速走行時にリフトするという空力的な問題が明らかになり、リアスポイラーの装着と足回りの改修が行われました。ちょうどメルセデスの初代Aクラスが転倒防止策として足回りの改修を行なった後でもあり、ドイツ車の相次ぐ失態が大きな話題となりました。
写真はアウディ特注品のミニカーで、リアスポイラー付きのタイプ。当初はスポイラーなしのタイプも発売していたので、実車をドライブするのではなく、ミニカーとして鑑賞するのであれば、スポイラーなしのオリジナルスタイリングのほうがオススメかもしれません。
クリス・バングルがデザインしたBMW
アメリカ人デザイナーのクリス・バングルがチーフデザイナーだった1990年代から2000年代のBMWは、極めて個性的なスタイリングのモデルがいくつも登場しました。なかでも2001年に登場した4代目BMW 7シリーズは、従来の端正なスタイリングとは決別し、非常に個性的なデザインを採用しました。さらに2003年に登場したBMW 5シリーズでも、これまで誰も見たことのないBMWのスタイリングを提案しています。
そんなE60型のBMW 5シリーズは、日本の京商が製品化していました。当時はダイキャスト製ミニカーが主流だったため、1/18スケールは各部が開閉。クオリティの高い製品内容でした。
こちらはE34型のBMW 5シリーズ。ドイツのミニチャンプス製で、エンジンフードが開閉します。
こうして見比べると、BMWの長年にわたるコンサバティブなデザインは、人々に安心感と品質感を感じさせる重要な要因であったことは間違いないでしょう。しかし、それをあえて断ち切ったクリス・バングルは、やはり偉大なデザイナーといわざるを得ません。デザインが好きか嫌いかは別にして、その功績は再評価されるべき時期に来ているのではないでしょうか。
エーエムジー・ジャパン時代のAMGモデル
AMGは今でこそメルセデス・ベンツのラインアップに組み込まれていますが、1990年代前半までは独立したチューニングカーメーカーでした。その頃はW124やW126をベースにブリスターフェンダーを装着した「ハンマーバージョン」をはじめ、やんちゃなモデルを輩出することで知られていました。そんな時代にインポーターとして活動していたのが、ヤナセの100%出資によるエーエムジー・ジャパン(株)です。
エーエムジー・ジャパンでは、AMGの各モデルに加え、「Gクラス」と呼ばれる前の「ゲレンデヴァーゲン」も一時期輸入していました。その頃のAMGは現在のブラバスのようなイメージで、ワイルドでエクスクルーシブな佇まいが特徴的でした。最近は昔のAMGモデルを見かける機会がめっきり減りましたが、近寄りがたい独特のオーラは今も健在です。
W202のCクラスをベースにしたAMG C36は、ダイムラーとAMGが共同開発した初のモデルでした。このミニカーは、ドイツのミニチャンプスが当時製品化したもの。昔はAMGモデルのミニカーがほぼ存在しなかったので、とても貴重なアイテムでした。
姉妹車時代のロールス・ロイスとベントレー
今でこそまったく別のモデルになったロールス・ロイスとベントレー。しかし、姉妹車だった頃のモデルを好むファンは少なくありません。なかでも、いわゆる「SZ系」と呼ばれるモデルは、1980年から20年近くにわたって生産されたこともあり、長年にわたり両ブランドの顔となっていました。ベントレー・ブランド復権の立役者となった「ターボR」をはじめ、ロールス・ロイスでは「シルバー・スピリット」とロングホイールベース版の「シルバー・スパー」などがお馴染み。最終期にはターボエンジンを搭載した「シルバー・スパー ターボ」、リムジン仕様の「パークウォード」などもつくられ、モデルバリエーションが豊富でした。
写真はTSM MODEL製のレジン製ミニカーで、リムジン仕様を製品化しています。同社はまた、平成時代の天皇陛下のご即位や御成婚祝賀パレードで使用された、ロールス・ロイス コーニッシュIIIコンバーティブルも発売していました。令和の「祝賀御列の儀」ではトヨタ・センチュリーのオープンモデルが登場して話題となりましたが、平成を振り返る意味でロールス・ロイスのパレードカーをコレクションに加えるのも良いかもしれません。
デ・トマゾ時代のマセラティ
100年以上の歴史を持つ老舗ブランドのマセラティ。ただ、経営が安定しない時代が多く、1970年代から1990年代にかけては、デ・トマゾの傘下で活動を行なっていました。そんなデ・トマゾ時代を代表するモデルが、マセラティ・ビトゥルボです。
1981年にデビューした「ビトゥルボ」は、「ツインターボ」を意味する車名の通り、当時としては珍しかったツインターボV6エンジンをコンパクトなボディに搭載したことで、新たな顧客層を開拓したモデルです。派生車種の豊富さが特徴的で、「ビトゥルボ」の名をつけた2ドアクーペを基本に、4ドアセダン、2シーターオープンなどがつくられました。さらに「カリフ」「シャマル」「ギブリ」といった高性能モデル、さらにマルチェロ・ガンディーニがデザインした4代目「クアトロポルテ」のベースにもなりました。
デ・トマゾ時代のマセラティには故障が多かったため、最近は街中で見かける機会がめっきり減りました。さらにはジウジアーロがデザインした後継モデルの「3200 GT」も見なくなりました。幸いなことにミニカーではこれらのモデルが製品化されているので、個性的なデザインを机上で楽しむことは容易です。
ハイドロ系シトロエン
一昔前までは、独自のハイドロニューマティック・サスペンションが代名詞だったシトロエン。特に1980年代から1990年代にかけては、中型モデルの「BX」と「エグザンティア」がヒット作となり、日本でもっともメジャーなフランス車といえる存在でした。しかし、シトロエン C6を最後に、現在ハイドロ・シトロエンの系譜が休止しているのは周知の通り。電子制御サスペンションによる洗練された乗り心地が実現された現代において、ハイドロニューマティック・サスペンションはアナログ時代の技術として過去帳入りしてしまうのでしょうか。
こちらは、ミニチャンプス製の1/43ダイキャストミニカー。同社はこのほかにも「CX ブレーク」と「SM」のハイドロ系シトロエンを製品化していて、往年の名モデルをコレクションすることができます。
消滅したブランドたち
このほかにも、最近見かけなくなった輸入車としては、四角いボルボ(240/740/850シリーズなど)、オペル、ハマー、サーブなどが挙げられます。このうちオペルは、2006年に日本から撤退したことで今や絶滅危惧種ともいえる存在です。しかし、GMからPSA傘下となったオペルは、2021年に日本に再上陸するという報道もあり、今後の展開が注目されます。一方、GM系ブランドだったハマーとサーブは、ブランド自体が廃止されてしまいました。特にハマーは、当時「ハマー H2」が大ヒット作となっていただけに、もし今日まで存続していたら、輸入車SUVの代表的なブランドに成長していたのではないでしょうか。
それぞれに強い個性がありながら、気がつけば姿を消していたクルマたち。最近はSUVと電動化した新型車の話題が多いので、たまには過去の印象的なクルマたちを思い出してみるのも気分転換になるかもしれません。
[ライター・画像/北沢剛司]
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