ルノー・ジャポンは、ルノーがF1レースで培ったノウハウを取り入れて独自に開発した、軽量、コンパクトで、ドライブフィールに優れたハイブリッドシステムE-TECH HYBRID(イーテックハイブリッド)を搭載したモデルを、順次日本に導入すると発表した。東京オートサロン2022ルノーブースに参考展示されたルノー アルカナは、このE-TECH HYBRIDを搭載したモデルで、2022年春頃の日本導入を予定している。
E-TECH HYBRID開発ストーリー
最高出力300PS、最大トルク420Nm!コーナーリングを含む運転性能を高めたルノーの新型「メガーヌ R.S./R.S. トロフィー」
自動車の燃費規制、排ガス規制が厳しくなる中、ルノーはそれまでのガソリンエンジン、ディーゼルエンジンに代わるパワートレーンとしてハイブリッド技術の開発を目指していた。
それまでのハイブリッド車は、街中での燃費性能には優れているものの、欧州で求められるレスポンスの良いドライブフィールや、高速域での性能に優れているとはいえず、欧州の交通環境には十分ではないと考えられていた。また、大きく、重くなりがちなハイブリッドシステムを、ルノーが得意とする中、小型車に搭載するためには、コンパクトで軽量なシステムとすることが必要であった。
これらの課題を解決するために、ルノーはF1で培ったノウハウを取り入れた、全く新しい発想のハイブリッドシステムを開発した。それがE-TECH HYBRIDである。
E-TECH HYBRIDは、40年以上参戦しているF1を始めとするモータースポーツで使用されるドッグクラッチを採用し、軽量化、コンパクト化を果たしたトランスミッションを組み合わせたシステム。高い燃費性能はもちろん、モーターとエンジンそれぞれが得意とする領域で、その性能を最大限に引き出すことで、街中ではストップアンドゴーをスムーズにこなし、追い越し時や高速道路では力強い加速が得られるなど、従来のパワートレーンを凌ぐドライブフィールを実現している。
F1の技術を活かしたハイブリッドシステムの開発
燃費が良く、ドライブフィールに優れたハイブリッド車を実現するためには、エンジンとモーターを繋ぐトランスミッションを、軽量でコンパクトなものとすることが鍵であった。この条件を満たすために活用されたのが、ルノー/アルピーヌが長年にわたり参戦し、多くの経験とノウハウを持つF1の技術である。
F1のトランスミッションには、コンパクトで動力伝達効率に優れたドッグクラッチが採用されている。このドッグクラッチを使った、従来のクラッチやシンクロナイザーさえも排したコンパクトなトランスミッションが考案された。
そして、この革新的なトランスミッションの実現性を検証するために使われたのが、工業用のLEGOブロックである。ルノーのエンジニアは、LEGOブロックを使ってトランスミッションのモデルを組み上げ、このアイデアが実際に機能するかどうかの検証を進めた。それと同時に、F1のエンジニアと協業して、F1のノウハウを活用した技術開発も進めた。
F1では、2014年から、それまでのエンジンに代えて、新たにエネルギー回生システムを組み込んだハイブリッドシステムを導入したパワートレーンを使用している。エンジンとふたつのモーターを組み合わせたこのパワーユニットを効率よく、速く走らせるためのソフトウェアを開発するために、F1チームは膨大な走行データをAIを使ってシュミレーションし検証している。
メンテナンス性、デバックのしやすさ、信頼性を高めていった結果、パワートレインを制御するソフトウェアは徐々にシンプルなものとなり、これは結果的にE-TECH HYBRIDが必要とするものと近いものだった。このエネルギーマネジメント分野に加え、ルノーのエンジニアは、エンジン効率、ミッション、モーターの分野の経験とノウハウ、そしてF1チームの開発のスピードと問題に対応する決断の早さなどを学ぶことができ、市販車のハイブリッド技術の開発に活かすことができた。
全速度域で爽快なドライブフィール、それがルノーの考えるハイブリッド
こうして、F1のノウハウを取り入れて開発されたルノー独自のハイブリッドシステム E-TECH HYBRIDは、メインモーターであるE-モーターとHSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)という2基のモーターと、1.6Lの4気筒自然吸気エンジン、そしてこれらを繋ぐトランスミッションのドッグクラッチマルチモードATで構成され、従来のパワートレーンにはないスムーズな変速とダイレクトな加速を両立させている。
このエンジンには、アライアンスエンジンのHR16が採用されたが、エンジンマッピング、ピストン、コネクティングロッド、クランクシャフトなど、いくつかのパーツをE-TECH HYBRIDに合わせるため、再開発している。
エレクトリックモーターは、静かで滑らかな走り出し、市街地でのスムーズなストップアンドゴー、追越し時や高速域での加速ではエンジンを瞬時にアシストし、高速域での力強い走りはエンジンが受け持つ。欧州車ならではのレスポンスの良い爽快なドライブフィールが全速度域で楽しめるのが、E-TECH HYBRIDの最大の特徴である。
E-TECH HYBRID
■革新的なハイブリッドシステム
2つのモーターとガソリンエンジン、これらを最適に組み合わせるドッグクラッチマルチモードATで構成。
・E-モーター(メインモーター) 36kw / 205N・m
・HSG(ハイボルテージスターター& ジェネレーター) 15kw/50N・m
・1.6L 4気筒自然吸気 エンジン 94ps/148N・m
E-TECH HYBRIDは、150以上の特許を取得
■ドッグクラッチマルチモードAT
ドッグクラッチを使用することで、一般的なクラッチやシンクロナイザーさえも省き、軽量化とコンパクト化を図ったギアボックス ドッグクラッチマルチモードATを使用。モーター、エンジンの動力を切れ目なく、効率よく引き出す。
■F1の技術とノウハウの活用ルノーでは、モータースポーツの開発部門と市販車の開発部門の間で、人的、技術的交流が頻繁に行われており、E-TECH HYBRIの開発においても、市販車の開発部門がルノー/アルピーヌF1が培ってきたハイブリッドのハードウェアの技術とノウハウ、そしてエネルギーマネジメント分野の経験とノウハウを活用。
■リチウムイオン電池
ルノー アルカナ、ルノー ルーテシア、ルノー キャプチャーには、1.2kWh(230V)のバッテリーを装備。燃費とCO2排出量を大幅に削減し、条件が許せば、市街地走行時の最大80%の時間をフルエレクトリックモードで走行し、最大40%の燃料削減が可能(EU WLTP Urban mode)。
■レスポンスの良さとエネルギーマネジメントの最適化
2つの電気モーターとエンジンに、ドッグクラッチマルチモードATを組み合わせることで、モーターとエンジンを効率良く組み合わせた多彩な運転モードを実現。
・発進:発進時は、エンジンを使用せずにモーターのみで駆動。このため、すぐに力強いトルクを得ることができ、スムーズでレスポンスのよい発進が可能。
・走行状況に応じたパワートレインの最適化:走行状況に応じて、シリーズ、パラレル、エンジン駆動のみと、効率を最適化。エンジン側に4つ、モーター側にに2つあるギアを組み合わせ、状況に応じて最適なモードを自動的に選択し、燃費の低減、排出ガスの削減、レスポンスの良い快適な走りをもたらす。
■エネルギー回生
・減速時のバッテリー回生:車が減速する際に発生する運動エネルギーを回収し、電気に変換してバッテリーを充電。
・Bモード:ギアポジションをB(ブレーキ)位置にすると回生能力が高まり、より多くのエネルギーを回収することが可能。
・回生ブレーキ:ブレーキペダルを踏み込むと、電気アシストブレーキシステムが作動。必要な場合は、ブレーキパッドを介してさらに「機械的」なブレーキが作動。ここでも電気モーターが追加の制動力を発生し、余分なエネルギーを回収してバッテリーを充電。
関連情報:https://www.renault.jp
構成/土屋嘉久(ADVOX株式会社 代表)
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