先月に新型レクサスLSが商店に突っ込み、死者が出てしまう痛ましい事故が発生した。多くのメディアが最新型のレクサスに装着された自動ブレーキがなぜ動作しなかったのか、という疑問から取材を始めた。
新型のレクサスLSならば正面から障害物に衝突する前に自動でブレーキをかける機能を持ち合わせている。最新のレクサスということもあり「なぜこんな事故が起こるのか?」、「自動ブレーキの性能は低いのか?」という論争にまで発展している。そこで予防安全装置にも詳しい自動車ジャーナリストの国沢光宏氏に、今回の事故の背景を聞いてみました。
文:国沢光宏/写真:ベストカー編集部
ベストカー2018年4月10日号「国沢光宏のクルマの達人になる」より
■事故の背景には自動ブレーキ制御の特性があった
最新の安全装備を持つ新型レクサスLSが暴走し、商店に突っ込むという事故を起こした(編集部注/2018年2月18日、東京都港区で70代男性が運転していて発生。最新の予防安全技術が搭載されているレクサスLSでなぜ、と話題になった)。いくつかのメディアから問い合わせあり、状況説明すると皆さん「そうなんですか」。LS特有の問題じゃないことを納得したらしい。
問い合わせあったメディアでは取り上げなかったです。なぜ最新の安全装備を持つレクサスLSが止まれなかったのか? こらもう簡単だ。今回の事件のような運転操作に対応していないからである。事故の概要を紹介しておく。
当該車両は停止からの発進で急加速。200mほど暴走した後、右にハンドル切って商店に突っ込んだ。ここまで読んで「LSには踏み間違い事故を防ぐ飛び出し防止機能が付いているのでは」と思うかもしれない。
当然ながら付いている。ただし。前方や後方に障害物ある時に限るのだった。事故を起こしたLSの直前に車両があったり、壁やガラスなどあればアクセル全開にしても受け付けなかったろう。
飛び出し防止機能はLSにも装備されている。しかしこのテストのように前方に明らかな障害物が確認できる状態での作動が基本だ
けれど前方に障害物なければ、アクセル踏む=加速したいという意思になる。逆に障害物のない直線道路でアクセル操作を受け付けない制御などあり得ない。ということで最初の加速は、現在販売されているすべての自動ブレーキシステムで容認してます。
ただ通常ならペダルの踏み間違いに気づくため、アクセル戻して事なきを得ることだろう。今回の事故、アクセルを戻さず200m走ったようだ。
その時点でハンドルを右に切り、障害物に向かっていく。この状況で自動ブレーキは掛からなかったのか? これも、2つの点で自動ブレーキが「掛からない」のである。
■自動ブレーキの対象は車両、自転車、そして歩行者
まず自動ブレーキを掛ける対象物は、車両か自転車、歩行者に限られる。冷蔵庫が落ちていたって止まらない。そもそも落ちている物体を認識できず、急ブレーキ掛けたほうが安全かどうか不明。
なぜかといえば誤認識で急ブレーキすると追突される可能性も出てくるから。前方が車両ならブレーキを掛けたと思う。でも歩道に向かいハンドル切ったら、基本的にブレーキ制御しない。
その上、今回の事故の場合はアクセルをブレーキだと思って踏んでいただろうから。当然ながらフルブレーキ=アクセル全開ということになる。こうなると自動ブレーキはキャンセルされてしまう。
これは自動ブレーキ制御が入っても、アクセル踏み込むと、そちらを優先するようになっているからだ。センサーの誤認識などで減速した時、アクセル踏み込んで加速しなければ追突されるためである。では今回のような事故を防げるのか?
最新の自動ブレーキは人物の認識などが可能な設計。しかし自動ブレーキは天候や条件などによって作動しないこともある。万能ではないということを忘れてはいけない
アクセルとブレーキの踏み間違いは、通常だとあり得ないほど強いチカラでアクセルを踏んでいる。アクセルペダルに圧力センサーを付け、異常な踏み込み力の時だけアクセル操作をキャンセルすればいい。技術的には簡単だ。
ちなみにレクサスLSには高度のEDR(エアバッグが展開した時の前後を記録している装置)が付いているため、衝突時の詳細状況はすべて警察にあると思う。事故のデータを活かしてほしい。
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