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アルピーヌA110R試乗 「思てたんとちがう」 底なしエンタメに感激

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アルピーヌA110R試乗 「思てたんとちがう」 底なしエンタメに感激

「R」はレーシングにあらず

フランスはディエップ謹製の「ベルリネット」ことアルピーヌA110に、「ピュア」と「GT」、「S」に続いて、第4のモデルとなる「A110R」がカタログ・ラインナップに加わったのは昨年のこと。7月中旬、そのA110Rの試乗会が、箱根でおこなわれた。

【画像】激しいルックスのA110R ダンナ仕様のA110GT【ギャップを比べる】 全109枚

昨年の7台に続いて、今年の日本市場への割り当て、「通常のR」14台の枠も瞬間蒸発したそうだが、Rがベースとなった限定版「A110Rル・マン」は、日本に左ハンドルと右ハンドルが3台づつ、計6台が入る。うち後者、3台の右ハンドル仕様が、われわれの試乗した時点ではまだオーダー可能だった。

それにつけてもA110Rは1550万円、限定ル・マンに至っては2000万円であるのに対し、エンジンの出力自体は340Nm・300ps仕様、つまり「GT」や「S」とまったく変わっていない。つまりシャシーが違うだけで従来モデルと600万円近い差があるわけだ。

先ほどA110Rは「第4のモデル」と述べたが、Rに与えられたシャシー自体は、ピュアとGTのシャシー・アルピーヌ、S用のシャシー・スポールに続く、第3のシャシーで「シャシー・ラディカル」と呼ばれる。

ちなみにRの開発にあたって走行テストの3分の1は公道、3分の2はサーキットに費やされたそうだが、A110Rの「R」は敢えて「レーシング」ではなく「ラディカル」に由来するのだと、アルピーヌは強調する。

どういうことか。A110でサーキット専用といえば、GT4やワンメイクレース仕様など、シグナテックが開発した前後サブフレームごと、車検や公道使用を前提としない体育会モデルのこと。

だからA110Rはメーカー純正チューンドというか、アスリート側のロジックでストリート・リーガルとして磨き込み、突き詰めた仕様なのだ。

だからこそ、渋谷の道玄坂っぽい居酒屋街を練り歩くベルリネットという、ジャポニズムなキービジュアルに納得がいくはずだ。

「大人のカーボン祭り」

外観パッと見で分かるA110Rのチューンドめいたヤバさ、しかしレーシングな知見と技術が活きている部分は、「大人のカーボン祭り」とでも呼ぶべき装着パーツの数々と、その洗練ぶりだ。

カーボンに置き換えられた後方視界のないリアフードやボンネットフードの裏には、FIA認証の一体成型カーボンパーツで多々実績のあるCARLコンポジット社の刻印プレートが光る。

スワンネック・ステーの派手なリアウイングや、同じくリアに向かってエクステンドされたリアディフューザー、さらにデュケーヌ社製の前後ホイール、車内ではカーボンシェルのバケットシート左右まで、すべてカーボンだ。

デュケーヌ社はエアバスの航空機用パーツの他、自転車のロードレース用ホイールであるマヴィックも手がけている。それこそカーボンの複雑加工のスペシャリストを総動員しつつ、日本のチューニングカー文化にあるようなアドオン互換を、フレンチ目線で遊んでいるような気がしてならない。

喩えていえば、まるで大衆居酒屋に有名アスリートがランニング/短パンでフラッと入って来て、周囲の視線が二頭筋やヒラメ筋に集まる、そんなストリートっぽいビジュアル的オーラが、A110Rの過剰なまでのカーボン・ルックにはある。

結果的にA110Rは、A110Sエアロパッケージ比で-30kg(日本の認証値)となる1080kgを実現しているが、ただ数値上で軽量化を追求したというより、効くところを軽くして相対的に物理的マスを低重心化しつつ、空力をさらに見直したところに意味がある。

空力セッティングとしては、「ピュア」とドラッグは不変ながら、最高速付近のリア側ダウンフォースは+110kg、フロント側は+30kg。じつはA110Sエアロパッケージは、リア側+81kg、フロント側+60kgなので、A110Rの方がリアのスタビリティ重視で、前車軸側のダウンフォースは抜かれている。

つまり、より高い速度域での荷重移動を前提としつつ、さらにアクセルを踏み込ませて前へトラクションをかけていく設定といえるだろう。

さらなる数値の違いとは

空力面でもう1つ見逃せないポイントは、フロントグリル内から取り込んで左右に分けるエアを、フロントブレーキへ流す冷却ダクトだ。このおかげでノーマルモデルやA110Sよりブレーキの冷却効率が+20%増しているという。

サーキットでの連続走行を見据えたモディファイなら、コストは嵩んでもカーボンディスクの方が手っ取り早いだろうから、ボディを軽量化してブレーキ冷却を確保する狙いは、最後にブレーキング勝負のひと刺しを利かせられる、そんなバトル上等モードのはずだ。

ちなみに足まわりはZFレーシング製の20段階可変減衰力ダンパーで、今回の試乗では工場出荷時のデフォルトで、前後とも真ん中の10段階目。スプリングはA110Sより+10%固められ、アンチロールバー剛性もフロントが+10%、リアが+25%高い。

かくして1Gあたりのロール角はシャシー・スポーツの2.7°に対しシャシー・ラディカルは2.3°。参考までにアルピーヌ・シャシーは3.3°という。

以上、いちおう静的観察からスペックめいた解説もしてみたが、数年前の時点でカーボンルーフは40万円のオプションだったので、A110Rのカーボン祭り10数点であの価格は、十分に正当化できると個人的に思う。

ただ、ピュアやGTにあるような楽しさ重視のバランス感が、ハードなシャシーにパイロットスポーツ・カップ2というセミスリック銘柄の組み合わせで損なわれていないか? そこが試乗前は疑問だった。

ようは細かいユサユサが間断なく襲ってくるチューニングカー然とした、日常域を犠牲にした小僧っぽいドライバビリティや乗り味を、予想していた。

ところがA110Rはチューンド風の乗り味どころか、こちらの想像の埒外にあるような洗練、レベルの高さを見せつけてくれた。6点式ハーネスはストリートカーには演出のうちと言い聞かせつつ乗りこんだら、パッドを貼りつけただけのようなカーボンシェルシートの座り心地からして、望外に快適なことに驚いた。

少し寝かせたステアリングとボタン式のDNRセレクト、ノーマルに加えてスポーツとトラックというドライビングモード選択も、通常のA110と変わらない。ちなみにフロントボンネットこそ軽くなったとはいえ、ラゲッジスペースもノーマルのままだ。

想像と違う 嬉しい裏切り

徐行~低速域で平滑とはいい難い路面でも、A110Rの乗り心地に粗すぎるハーシュネスや振動はない。差があるのはエグゾーストノートで、252ps版や300ps版のヴォヴォヴォといった破擦音よりも、3Dプリンタで作られた形状というステンレス製二重構造のテールパイプから、明らかにヌケのいいヴポポポッという乾いたニュアンスの音がする。

多少のウェービングとブレーキングを繰り返してタイヤを温め、ジワリと踏み込んでみた。

室内へとエグゾースト音を増幅して導く回路はそのままだが、エグゾースト可変バルブや遮音材がとり払われており、回転が上りつめていく際のエグゾーストノートの澄み切ったフィールは、まったく別物だ。ライトウエイト化の恩恵か、トルク特性やパワーカーブはA110SやGTの300psと同じままだそうだが、より軽く速く、吹け上がりが向上したようにすら感じる。

サーキット用ポジションならA110Sより最大、20mmのローダウンが効くZFレーシングのダンパーは、今回は公道用で-10mmの車高設定。マイナス値として大きく見えないが、元から軽くマスの小さな車体のロール重心がさらに抑えられているのだ。

最初のいくつかのコーナーでは、クルマの方があまりに素早くコーナリング姿勢を決めてしまうため、イメージ通りに曲がれなかった。逆に進入スピードを上げ、ゆっくりステアリングを切り込んでいくと、大きく荷重移動をせずとも前後バランスがよく、旋回中もリアの盤石スタビリティをアテにできることに気づき、徐々に脱出スピードが速まっていく。

しかも先述の、ヌケのいいエグゾーストノートを愉しんでいると、いつしか恐ろしい速度で進入旋回しては、深々と踏み込んでいることに気づかされる。

速度がのった状態での制動でも、元より軽いがゆえの過渡特性の良さ、伸びが素早く接地を乱さないダンパーのせいもあるだろう、ブレーキングも徐々にそこそこハードになっていく。

荒れた路面で横っ飛びとか突き上げで苛烈な目に遭えば懲りるはずだが、それらが巧みに抑え込まれ、ロール量は少ないが懐は深い足まわりに仕上がっているため、公道で乗るクルマとして自制心の要る危険さなのだ。

それでもいつか、物理的な限界はあるのかもしれない。が、底なしにシャシーが速くて、吹け上がりの心地よいエンジンをリミット近くまで使うよう、まるでクルマの方から踏め踏めと催促してくるようだ。

色気で挑発というより、アルピーヌというロジックそのものにノせてくる1台なのだ。

この日、続いてA110Sにも比較試乗したのだが、エグゾーストの音質がワントーン落ち着いて聞こえ、ピュアやGTに比べて固いと思っていた足まわりに、まるでツーリングパッケージのような感触を覚えた。

箱根の限られた条件で見た白昼夢かもしれないが、「役モノ」としての格と、依存性の高い危険さが、A110Rには確かに備わっていた。

アルピーヌA110Rのスペック

価格:1550万円
全長:4255mm
全幅:1800mm
全高:1240mm
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:3.9秒
燃費:-
CO2排出量:-
車両重量:1090kg
パワートレイン:直列4気筒1798ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:300ps/6300rpm
最大トルク:34.6kg-m/2400rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック

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