手のひらサイズでお気に入りのクルマを鑑賞できるディスプレイモデル。なかでも、超人気モデルではない車種に焦点を当て製品化しているのがインターアライドの「ハイ・ストーリー」シリーズ。なんでそれ? を聞いてみた。
なぜ人気車ではないそのモデルを製品化?
多くのクルマ好きに親しまれるディスプレイモデル。憧れの名車をコレクションするにも好適な手のひらサイズで、精密に再現され、手ごろな価格で趣味を楽しめる。
これらを製造・販売するあまたあるホビーメーカーのなかでも異色の車種展開を行っているのが、インターアライドのオリジナルブランド、「ハイ・ストーリー」シリーズだ。1/43スケールの完成済みディスプレイモデルで「モデル化に恵まれなかった国産名車を皆様のお手元へ、記憶に残るミニカーを展開」のコンセプトのもと、王道外しの車種選定を軸に多くの製品を生み出している。
ちょっとコアすぎるでしょ? なんて感じてしまうモデルたちはどのように生み出されているのだろう。
単純明快。「好き」を形にする
インターアライドは、神奈川県・横浜に本社を置くホビーメーカー。
「もともとクルマ専門の模型店をやっていたんですが、オリジナルモデルを作りたくて始めたのがきっかけです」と、今回お話を伺った専務取締役の平井一明さん。同社は、ミリタリー系のプラスチックモデルの輸入販売も行うホビーメーカーとして1998年に創業した。
クルマ関連では「ハイ・ストーリー」のほか、コミックやアニメに登場するモデルを題材にした「モデラーズ」、往年の名車を1/24で再現する「リトルガレージ」、1/64スケールながら大人向けに特化した「オーバーステア」の4つのブランドを擁し、完成済みディスプレイモデルや、組み立てを楽しめるキットモデルを展開する。
創業当初は平井さんがやりたかったレーシングカーやチューニングカーを主体に製作していたが、そこにはさまざまなホビーメーカー・ブランドが存在し、個性を打ち出すのはなかなか難しい。そこで着目したのが、これまでモデル化されていない車種の製品化だったという。
「例えば日産スカイラインGT-Rなどは多くのブランドから製品化されています。実車は高額なスポーツカーなので、実際に所有していたり、お父さんが乗っているのはスカイラインのGLなどスタンダードグレードだったりしますよね。そういったより身近なモデルを作れば欲しいと思う人も多いのではないか?というのがきっかけです。また、過去に乗っていた車種を家に飾ることで、家族の思い出として話も弾むのではないかと」
そうした思いから2007年にハイ・ストーリーが登場した。記念すべきブランド第1作目は日産ラシーン。サニーをベースにSUVテイストに仕立てたクロスオーバー車で、先鋭的ながらもメジャーにはなりきれなかった。もちろんディスプレイモデルとしても希少な存在なのだが、それにしてもなぜラシーンだったのか?
車種選定はまさかのフィーリング!?
「当初は王道を避けた車種で、なおかつみんなが好きそうなモデルをセレクトしていました。ラシーンはまさにそれで、ほかにもアルトワークスなども他メーカーではモデル化されていない時期にリリースしています」と、平井さん。ただ、ブランド展開当初には潤沢にあった選択肢だが、最近では選定に苦労するという。
「月に4台程度を新製品としてリリースしており、現在は通算400車種を越えています。おおよそのモデルは作ってしまった感があります。なので最近ではフィーリングで決めています(笑)」とは営業部の堀 直樹さん。“モデル化に恵まれなかった国産名車”に焦点を当て作り続けてきたハイ・ストーリーの現在地である。
「基本的には社内での“フィーリング”により車種選定を行っておりますが、模型店を通じたお客様からのリクエストだったり、SNSに寄せられたコメントなども参考に製品化することもあります」(堀さん)
このほかにも、自動車メーカーのニューモデル開発に携わった人が、記念として手元に持っておきたいと相談されたことがきっかけになったこともあるそうで、柔軟な姿勢で製品開発が行われている。趣味の世界に携わるだけに、何ともおおらかなメーカーである。
レジン素材による少量生産が基本
マイナーな車種を次々と模型化できるフットワークの軽さを生むのは、製品の素材にも秘密があるという。
「ディスプレイモデルの多くは金型を用いた金属製のダイキャストモデルが主流ですが、ハイ・ストーリーではレジン(樹脂)素材を主材として製造します。マイナーなモデルを製作していることから、正直なところ爆発的に売れるということはありません。製造コストなども鑑みて、ゴム型にレジンを流し込んで成形するほうが少量生産品には向いているんです」と平井さん。
金型の製作コストは一般的にかなり高額といわれており、生産数に案分すると販売価格に影響することもある。金型に比べて安価に製作できるゴム型だが、その型1つから成型できる個数は20~30個と圧倒的に少ない。しかし、レジン製は生産量に応じたゴム型が必要となり、その製作に手間はかかるが、お客さんに欲しいと思ってもらえる車種を数多く送り出せるうえ、販売価格も抑えられるというメリットがある。
ハンドメイドが強みになる
また、ハンドメイドであることも大きな売りである。
「当社では原型製作も創業時と変わらず、基本的には手作業で行っています。製造工場を中国に置いており、原型を製作する工房もあります。まずは製品化する実車を取材したり、カタログや写真、原型づくりに必要な資料を日本でそろえます。それを基に図面を起こし、原型師が四角い石こうブロックを削り出して形にしていきます。このおおまかな形を石こう型と言っています」(平井さん)
石こう型をベースにディテールを煮詰めていき、パーツを分割するためにさらに車内空間などの肉抜きを行ったものが原型(そのほかの付属部品も同様に製作)だ。この原型を基にしたゴム型にレジンを流し込むと製品(パーツ)になる。
CADや3Dプリンターなどデジタルツールが普及したこのご時世にあって、いまだに手彫りだったことに驚いた。しかし、過去のクルマをモデル化することの多い同社にとっては好都合なのだという。
「実車の取材ができないとデジタルデータの作成が難しくなります。当社には、熟練の原型師が在籍しているので、ある程度の資料がそろえば製品化もしやすく、お客様の要望に応えたり、数多くのモデルを次々と作り出せるなど、手作りが利点となっているのです」(平井さん)
レジン製モデルの利点はほかにもある。
「ボディの曲面や回り込みなどを再現しやすいのです。金型はパーツを取り出すときにへこんだ部分は引き抜けないため、分割して対応します。その点、ゴム型は柔らかいため引き抜きやすく、分割線も出ません。基本的にボディ表側と裏側の型で済むのです」(平井さん)
また、ダイキャスト製では安全面から硬く鋭利になってしまうことを嫌い、エッジを丸めたり肉厚にならざるを得ない場合もある。一方、樹脂素材のレジンは柔らかいのでエッジの薄さなどディテールを追い込める。よりスケール感に合わせた表現が可能になるのだ。
製品づくりに関してはそれぞれのモデルに対して監修担当者がおり、責任を持って製品化まで導く。最終的には自動車メーカーの許諾・監修も受け、確かな製品が送り出される。
望外の売れ行きを見せたのは光岡のあのスーパーカー
こうして400車種超を生み出したハイ・ストーリーだが、マイナーな車種をリリースするだけに、当たり外れもあるのではないか。
「外れ車種については控えさせていただきますが、そういったことも含めて少量生産としています。想定以上に注文いただいたのが光岡のオロチです。こちらはダイキャスト製にしておけばよかったと後悔しています(笑)」(堀さん)
そう、じつはハイ・ストーリーにはダイキャスト製も存在する。
マイナー車種を主軸に展開しながら、話題の現行モデルもラインアップしている。現行モデルはミニカーファンだけでなく、クルマそのものに対する興味がミニカーへと波及することも多い。そこで売れると判断した車種、あるいは自動車メーカーなどからのOEMを伴うものに対して、大量生産に適したダイキャスト製が選択されることがあるという。
「自動車メーカーやチューニングカーメーカーからの製造依頼も請け負っていますので、依頼いただく数量などにより、素材を含めた最適な製造方法を選択しています。創業当時、他メーカーではミニカーといえばダイキャスト製法が主流でしたが、現在ではレジン製も増えてきています。逆に当社がダイキャスト製を展開し始めたのは比較的最近になってからです」(平井さん)
最後にマイナーな車種を扱っていてよかったことを平井さんに尋ねた。
「父親が古いカローラに乗っていたという娘さんが、その車種を発売したタイミングでたまたま見つけ、父親にプレゼントしたら大変喜ばれた、という話をいただいたときはうれしかったですね」
ハイ・ストーリーが思い出というストーリーをさらに深めることに一役買ったのだ。もどかしいのは、同ブランドは初回生産以後の再生産は行わないということ。気になる車種を見つけたら、今買うしかないのだ。
インターアライド 営業部 堀 直樹さん
●インターアライド創業時はチューニングカーを中心にディスプレイモデルを展開。当時は車内の作り込みのない、いわゆる無垢のモデルだった
第一弾は日産ラシーン
●ニッチな路線で欲しいを届けるハイ・ストーリー。記念すべき第1作目の日産ラシーンは、同社ウェブサイトのハイ・ストーリー紹介ページにも登場の“じつは”なのだった
リクエストから生まれた
●ニスモ270Rはお客さんのリクエストがきっかけで製品化が決まったモデル。現在も要望を受けて「そのモデルまだ製品化していなかったね」と製品化の企画会議に上がることもあるという
どれもこれもがハンドメイドのこだわり
●“無垢”時代の石こう型(手前)と原型(奥)。石こう型でおおまかなフォルムを検討して、細かな修正を加え、細部の表現を加えて原型となる。これからゴム型を取り、パーツが量産される
●製品を量産するためのゴム型(写真の型はライフル銃の砲弾)。レジンを注入後、固まればゴムの柔らかさを利用して容易に取り出せるが、1つの型での生産数は少なく、生産数に応じたゴム型が必要となる
少量生産に向くレジン製
●製造技術の向上により車内表現が可能となったハイ・ストーリーの原型。テーパー形状を用いてパーツの細さや薄さを表現。豊かな面構成も表現でき、ボディ部はひとつのゴム型で成型できるのもレジン素材の優位点
大量生産はダイキャストで
●大量生産するものにはダイキャスト製法が優位とのことで、生産数に応じて臨機応変に対応する
●ボディカラーは実車の色みを踏襲。ただ、メタリックカラーなどは実車と同じだとフレークが大きすぎるため、それっぽく見えるように塗料の素材などを調整しているという
ハイ・ストーリーで一番売れた
光岡 オロチ
●少量生産を念頭に開発を進めたものの、思わぬ大量受注という、うれしい悲鳴に見舞われたのが光岡オロチ。両氏が「ダイキャスト製にしておけばよかった」と口をそろえるも、このフォルムはレジンじゃないと再現できないという悩ましさも……
キリ番だけれど気にしない!?
マイナー・メジャーを合わせて400車種を超える製品を送り出すハイ・ストーリーシリーズ。写真は300車種目のホンダ クラリティと400車種目のトヨタ プロボックス。一般的には(?)キリのいい番号の製品にはそれなりに注目モデルをそろえたりするもの。特にその意識はないというが、100車種目にはリクエストを募り、ランドクルーザー(76系)を採用したそう。2024年には500車種に到達しそうな勢いなので、なるほどこれね!という車種の選定を期待したい。
300車種目
ホンダ クラリティ(HS300)
400車種目
トヨタ プロボックス(HS400)
目当てのモデルが出たときに買うべし
生産数は販売店からの受注を基に勘案しているそうで、販売店向けには発売の3カ月前に新製品案内を配布している。欲しいと思った車種があるなら、まずはその情報をキャッチして予約して手に入れるのが吉。発売してからでは販売店が確保した在庫限りで売り切れてしまう可能性がある。インターアライドの通販ページ()から予約もしくは購入できるから、そちらも活用しよう。
〈文=本誌・兒嶋 写真=山内潤也〉
■取材協力
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みんなのコメント
桁が軽く1つ変わるからねえ
親父の形見のマークX、トイカーでいいからと探したけど見つからない…
バモスホンダはあるけどホンダバモスは無いとか、もね。