序盤の大クラッシュを消し去るかのような最終盤の“ビッグワン”も発生し、降雨による月曜順延も経た大波乱のNASCAR開幕戦『デイトナ500』は、伝統のオーバル制覇を狙ったロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が最後の最後で濡れた芝生エリアを滑走するなか、僚友アレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を従えたウイリアム・バイロンが、ヘンドリック(HMS)の40周年記念イヤーを祝うワン・ツーフィニッシュを達成。伝統の“グレート・アメリカン・レース”でリック・ヘンドリック代表に同地9回目の特別な勝利をプレゼントする結果となった。
2024年のNASCARカップシリーズにて導入3年目を迎えたNext-Gen規定モデルだが、その開幕を前にフォードは第7世代の最強モデルに君臨するマスタング“ダークホース”にスイッチし、トヨタは通算11代目のフェイスリフト版『トヨタ・カムリXSEレースカー』をデビューさせるなど、参戦する3車種のうち2車種がボディ形状を刷新した。
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各陣営とも、その新形状が本来のオーバルでどのような性能と特性を発揮するか、そしてトラフィックのなかでいかなる反応を示すかに注目するなか、前哨戦たる“ブルーグリーン・バケーションズ・デュエル”では、レース1でタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)が、続くレース2をクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が制すなど、特徴的な“シャーク・フェイス”のカムリXSEが優位性を示す展開となる。
しかし開幕前のエキシビジョン戦『ブッシュ・ライト・クラッシュ・アット・ザ・L.A.コロシアム』と同様に悪天候が襲来したデイトナは、ファイナル直前のプラクティスが中止され、決勝も月曜に延期される事態に。
それでも晴天の広がった翌日には、アメリカン・プロレスの人気を牽引した“ロック様”ことドウェイン・ジョンソンによるスタートコマンドを皮切りに、ともにデイトナ覇者でもあるジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)とマイケル・マクドウェル(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)のダークホース艦隊率いる40台がレースを開始する。
しかし勝負が始まってまだ5周も経たないうちにターン4で8台のクルマが絡む事故が発生し、ハイラインの集団内でブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)に押されたジョン・ハンター・ネメチェク(レガシー・モーター・クラブ/トヨタ・カムリXSE)が姿勢を乱すと、ハリソン・バートン(ウッド・ブラザーズ・レーシング/フォード・マスタング)の側面に衝突。
インフィールドを滑ってホームストレッチに流れ着いた場外乱闘は、オースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)やルーキーのカーソン・ホセヴァー(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)、スポット参戦のカズ・グラーラ(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)に、今季も限定プログラムながらファイナル進出権を手にしたジミー・ジョンソン(レガシー・モーター・クラブ/トヨタ・カムリXSE)らを巻き込んでいく。
■23台が巻き込まれる“ビッグワン”発生で中断
続く65周目のステージ1はカイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)を引き連れたチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が制し、ステージ2は新チャンピオンのライアン・ブレイニー(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が勝利を飾るなど、都合20名のドライバーにより41回のリードチェンジを記録する展開となるなか、決勝200周中192周目のリスタートで首位に浮上したチャスティンの背後では、さらなる悲運の連鎖が発生する。
トップ5圏内でトレインを組んでいた48号車ボウマンと24号車バイロンだったが、ここでわずかに呼吸を乱して前方の24号車がバランスを崩した際、6号車ケセロウスキーの右リヤに激突。コントロールを失ったマスタングは、その時点までレースハイの45周をリードしていた2番手ロガーノにヒットし、王者ブレイニーやレディックらを含む23台の車両が事故に巻き込まれる“ビッグワン”へと発展してしまう。
「またスピードウェイでの典型的なレースの始まりだ」と、レース後に無念の表情で振り返ったロガーノ。
「そうなるまではとても楽しかった。最後は押したり押されたりする展開が多くて、とても面白かったよ。僕らのクルマもそれを『受け取る』ことができていた。それだけ僕らのマスタングはとても速かったんだ。うまくラインを導くことができ、欲しいクルマが身近にあったのに、それを機能させることができなかったんだ」
ここから15分以上に及んだ中断を挟み、最後の13周のうち9周をリードしたチャスティンも、ホワイトフラッグ突入で一瞬の判断により手のひらから勝機がこぼれ落ちる事態となる。
「4年前は残り8周かそこらのところ、今年は残り1周まで詰めたんだけどね。でもゴールしないと……アグレッシブすぎるってことなのかな」と最後はミドルラインからの逆転を狙うも、反省の弁を述べたチャスティン。
「変な言い方だけど、僕たちはすべて正しくやったのに(ボトムラインへ移ろうと)左折するときにアグレッシブすぎたので、もっと待つべきだったかもしれない。僕の左ターンは自分自身をスピンさせ、オースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)を倒し、おそらく他の人たちも巻き添えにした」と続けたチャスティン。
一方、自身も勝利に向け「最高の位置に付けていた」と語るシンドリックは、チャスティンだけでなく背後にいたコリー・ラジョイ(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)の動きを非難した。
「本当に残念な結末だ。僕らにはデイトナ500で優勝するチャンスがあった。外側のレーンがブレイクアップして、背後の集団全体が24号車(先頭のバイロン)との一騎打ちみたいになった。でも(ボトムレーンで)ラジョイは僕が大破するまでクルマの左後部を突き続けた」と明かしたシンドリック。
■ワン・ツーフィニッシュにヘンドリック代表も喜び
「ホワイトフラッグではおそらく最高の位置にいたし、誰もが締め出したり、チャンスを与えようとしたりすることは理解しているが、僕は最後ケアセンターにいて、どこで終わったのかさえ知らない。最悪だよ」
この結果、チャスティンやシンドリックがインフィールドのケアセンターから帰還したことを受け、アンダーコーションのまま並んでチェッカーを受けた24号車バイロンと48号車ボウマンのHMS艦隊がワン・ツーフィニッシュを飾ることとなった。
「子供の頃にゲームで遊んでいたデイトナ500で勝てたなんて、本当に信じられない! 父がここにいればよかったのに。彼はいま病気療養中だけど、この勝利は彼のためだ。僕ら親子はたくさんのことを経験し、一緒にグランドスタンドに座ってレースを観戦したんだ。本当にクールだよ!」とキャリア通算11勝目を手にし、喜びを爆発させた26歳。
「あのバックストレッチで起こったことは明らかに望まないことだし、ただ押されてクルマが横を向いてしまった。でも、月曜日に40周年を迎えるこのチームをとても誇りに思っている。今年は証明すべきことがたくさんあるが、これは明らかに良いスタートさ」
一方のヘンドリック代表も、開幕のヴィクトリーレーンで高揚感を抑えながら、喜びの言葉を述べた。
「言っておきくが、これ以上の脚本を書くのは無理だろう。初めてここに来ようと思ったとき『ここにいるべきではない』と思い、とても場違いに感じたことを思い出す。チームの40周年を勝利で飾り、最も名誉あるイベントのデイトナ500でペティ・エンタープライズと並ぶ最多タイ記録としたんだからね」
同じく併催で月曜順延となっていたNASCARエクスフィニティ・シリーズ開幕戦『NASCARレーシング・エクスペリエンス300』は、シェルドン・クリード(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)を抑えオースティン・ヒル(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)が勝利。同じく金曜に開催されたNASCARクラフツマン・トラック・シリーズ開幕戦の『フレッシュ・フロム・フロリダ250』は、こちらも終盤の大混乱をくぐり抜けたニック・サンチェス(レブ・レーシング/シボレー・シルバラードRST)が初優勝を飾っている。
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