スズキは2024年7月25日に新型コンパクトSUV「フロンクス」の先行情報を発表しました。その気になる走りを試すべく、クローズドコースでプロトタイプに試乗する機会を得ました。ここではフロンクスの概要と、乗り比べたFFと4WDにおける走りの違いについてご紹介します。(文:川内優作 MotorMagazine編集部/写真:井上雅行)
フロンクスとは何者?インドからやってくる世界戦略車
コンパクトSUV市場は2024年に入っていっそう激化しているように思われます。1月にはトヨタのヤリスクロスが改良、3月にはホンダからWR-Vがデビュー、4月にはホンダのヴェゼルがマイナーチェンジを実施するなど各社気合いの入った様子です。
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けれど、小さなクルマを作ることに長けているはずのスズキでは、国内市場においては2017年のクロスビー誕生以来、じつに7年もニューSUVモデルが登場していませんでした。さらにイグニスとエスクードは気がつけば姿を消してしまい、残るはジムニーとハスラーのみといった状況でした。
一方で海外に目を向けると、ヨーロッパでは2021年に「SX4 Sクロス」を発売し、東南アジアでは2022年に「グランドビターラ」、2023年に「フロンクス」を登場させるなどSUVラインナップを各地で強化していました。このように日本市場だけ置き去り感のあった状況に待ったをかける存在として、2023年にインドにて誕生した「フロンクス」が日本へやってくることになりました。
フロンクスは、かつて日本でも販売していた「バレーノ」の2代目モデルをベースに、SUVテイストを採り入れたコンパクトSUVです。インド生産を拠点にしながら中南米や中東、アフリカにも輸出されているグローバル戦略車です。そして2024年秋、日本でも販売が開始されます。
ただしこのフロンクス、実は開発の段階から「日本導入」を決めていたそうで、単なる逆輸入車というわけではありません。加えて後述するエクステリアデザインに関しても、インドと日本のデザイナーがコンペティションを行い、日本人デザイナーの案が採用されています。
というわけで、そんな期待のニューモデルである「フロンクス」を詳しくご紹介しましょう。
ライバルを凌ぐ扱いやすいボディサイズと充実した装備が特徴
フロンクスが日本国内で戦うフィールドは、ライバルがひしめくコンパクトSUV市場です。先述のヤリスクロスやWR-Vのほか、マツダCX-3やダイハツロッキーなど、実に多様なラインナップを各社が揃えています。この市場は彼らのベースとなるヤリスやフィット、マツダ2といったBセグメントハッチ郡の勢いを凌駕していると言えます。
フロンクスのボディサイズは全長3995×全幅1765×全高1550mmと、3ナンバー車でありながら、かなり小さな体躯をもつクーペSUVです。なにより、全高は都心部の立体駐車場などで歓迎される数値となり実用性に優れています。その一方で2520mmもあるホイールベースのおかげで、リアシートの居住性もかなり高いことには驚きです。さすがパッケージングに優れるスズキ車だと思いました。
あの激戦区に後だし参戦する立場にあるフロンクスですから、当然装備面も充実しています。まず特筆すべきは電動パーキングブレーキとブレーキホールド機能が標準装備されている点。これによりアダプティブクルーズコントロール(ACC)や車線維持支援機能(LKA)も備わっており、運転支援技術へのアドバンテージが認められます。
またシートヒーターやヘッドアップディスプレイも備わっており快適性も上々。外装部ではウインカーを含む灯火類が前後ともにLEDが採用されるほか、テールライトは横一文字に光っているなど見た目の先進感もポイントとなるでしょう。さらにマイルドハイブリッドの搭載や、2WDと4WDの選択ができる点なども魅力です。
奇抜なデザインは好みが分かれそう?インテリアは実にシンプル
実際に対面してみると、かなり特徴的なフロントマスクに目が向きます。日本人のデザイナーが考案したというこの奇抜なデザインですが、これを採用したのにはキチンとした理由がありました。
スズキによると、このフロントマスクは「クルマが溢れる街中でも埋没することの無い、ユニークで個性を主張するデザイン」と謳っています。すなわち、多くのライバルがいるコンパクトSUVセグメントにおいてはとくに、存在感を示すためのアイキャッチなデザインが必要だったと言います。
やや好みが分かれそうな気もしますが、ひと目でフロンクスと認識できる点やLEDの灯火類によって、目新しさはバツグンです。素直にカッコいいと思えるものでした。
続いてインテリアは、新型スイフトにも似た最新世代のスズキデザインが採用されています。ブラックとボルドー(濃紅色)の2色が組み合わされたインテリアは、存在感のある金属フレームとともに、力強い印象を与えてくれます。
残念ながらインパネ周りにおけるソフトパッドの採用は認められず、オール樹脂パーツで構成されています。が、配色や加飾パーツを巧みに組み合わせることによって安普請な雰囲気はまったくありません。
シートは好印象なかけごこちで、お尻をやや沈みこませながら張り出しのあるサイドサポートで上半身をしっかりと固定してくれます。またドライビングポジションは取りやすく、テレスコピック&チルトのハンドル調整は可動域が大きいため、スイフトと同様、非常に「走り」への気合いを感じさせる仕上がりでした。
まず4WDから試乗スタート。これが想像以上の完成度だった
さて、今回はクローズドコースにて、プロトタイプに先行試乗する機会を得ました。1周約5kmのワインディングコースを3周したほか、コース途中に設置されたパイロンスラロームなどで低速域のハンドリングをチェックしました。
まず試乗したのは4WDモデルです。FFと比べてパワースペック自体に変わりはなく、1.5L直4エンジンとマイルドハイブリッド機構を組み合わせています。さらにトランスミッションは最近では珍しい6速ATが採用されています。いったいどんな走りを魅せてくれるのでしょうか。
走り出して最初のコーナーに入るためにハンドルをすーっと操舵したときに、まずはハンドルのどっしり感を感じました。簡潔に言えば、ハンドルは想像よりも重たく、スイフトのそれに比べると明らかにどっしりとした印象です。
そのあと登坂のためにアクセルペダルを踏み増すと、「クォーン」というやや籠った音を聞かせながら気持ちよく自然に加速してくれました。またその際、6速ATのシフトアップがなんとも心地よかったことが印象的でした。やはりワインディングを走るときは、加速の上昇に伴ってシフトアップする感覚が運転する楽しさをいっそう強めてくれます。これはCVTを採用する多くのライバル勢と比べて、ドライビングプレジャーに対する高いアドバンテージがありました。
「力任せ」ではなく、軽さで実現した速さ
フロンクスが搭載する1.5L直4エンジンは「K15C型」と呼ばれる、エスクードに搭載されたものと基本は同じです。ただし6速ATを採用するにあたって圧縮比が見直されたほか、これに組み合わされるマイルドハイブリッド機構は、エスクードのそれに比べて簡易的なもので、駆動系のアシストやEV走行などはできません。
したがって先ほどの登坂加速においてモーターがそれをアシストすることはなく、モーターはあくまで電装系(とくにエアコンなど)を動かすための動力としての役割を担います。これによってエンジンが駆動以外にかかるエネルギーを最小限にすることができ、結果として燃費の向上につながるといいます。
エンジンスペックは最高出力が100ps、最大トルクが134Nmと、数値だけを見るとなかなか非力だと予想されますが、フロンクスは4WD仕様でも車両重量が1130kgと軽量なため、パワー不足を感じる場面はほとんどありませんでした。
ワインディングコースは頂上に差しかかり減速するためにブレーキペダルを踏むと、初動は「ピクっ」とした減速感がありつつも、その後さらに踏んでいくとペダルストロークはやや長めで、じわじわと確実に効いていくという「安心感・良質感」がありました。またフロンクスにはパドルシフトが備わっているため、任意でシフトダウンを行いエンジンブレーキをうまく使うことも可能です。
続いてパイロンスラロームの区間では、時速20~30km/hの低速域でハンドルを左右に振ってみました。するとボディの一体感が非常に強く、リアはきちんと路面にへばりついたように安心感の高い走りを見せてくれました。また低速域でも割合に重たいハンドルですが、最小回転半径はスイフトやソリオと同じ4.8mを実現していますので、取り回し性で苦労することはなさそうです。
そして気になる乗り心地ですが、日本の道路環境に合わせてコイルスプリングやショックアブソーバーを最適化しているそうで、路面にみられる凹凸や継ぎ目などを通過した時に入力自体の強さは感じるものの、全体的に角が取れたマイルドなものでした。一般道路や高速道路での印象はまだわかりませんが、少なくともクローズドコースで乗った限りでは、スイフトよりも上質で当たりの優しい乗り味だった印象です。他のライバル勢と比べても、乗り心地の「ゆったり感」は一枚上手な気がしました。
FFは軽快なフィールが特徴。いわばスイフトSUV的な?
さて好印象のうちに終わったフロンクスの4WDですが、続いてはFFに試乗します。パワースペックは変わらないものの、車両重量は1070kgと4WD比で60kg軽量です。その重量差に関わる走りの違いはあるのでしょうか。
走り出して数十メートル進んでもあまり差のない印象。ですが、登坂でコーナーが連続する区間に差しかかった時にこちらでは軽快さをかなり感じました。というのも、ハンドルを切ったときのボディの動きが俊敏で、ひとことで言えば「キビキビ」した印象です。よりハンドルの舵角に対してボディがグイッと動くイメージが強かったように思います。
またブレーキングは、こちらも4WDと同様に初動の「ピクっ」とした動きが見られますが、この動きがより「強い」印象で、ボディの微かな動きに対してクルマ全体が敏感に反応する傾向があるように思われました。
今回のワインディングコースではFFのほうがよりスポーティな走りを魅せてくれたという点で、4WDよりもドライビングプレジャーを感じました。なんだかスイフトに乗っているかのようなスッキリかつスポーティなドライブフィールが楽しめました。
が、乗り心地で気になったのは軽快さが生み出す「ヒョコヒョコ」感で、とくにリアが時折、上にポンポン跳ね上がる感じが見受けられました。したがって乗り味の上質感という点においては4WDに軍配があがったように思います。
さてここで、FFと4WDで乗り味の違いを感じたのは正しいのか、ということをフロンクスの車両運動設計に携わった方へ伺ってみました。すると「狙いとしてはFFも4WDも同じような方向性でセッティングをしていますが、車両重量の差によって両者の乗り味に差があることは開発チームも感じています。FFはより軽快さを感じていただけますし、4WDは重量増による落ち着きを感じていただける走りになっていると思います」と答えていただけました。
個人的には4WDのほうが路面の凹凸に対して良い意味で曖昧にパスしてくれる印象がしたため、4WDをオススメしたいと思います。けれど軽快なスズキらしいスポーティな走りが楽しみたい!と考える方はFFの方が良いと思いました。
インドではバカ売れのフロンクスは、日本でも人気となる予感が
今回はこの秋、日本へやってくるフロンクスの先行試乗の模様をお届けしました。
このフロンクス、実は2023年にインド国内で販売を開始してたった9ヶ月で10万台を売り上げた「バカ売れ」モデルです。これはスズキのインド市場において最速の記録だそうで、期待以上の人気ぶりにスズキの方も驚いている様子でした。
そして遅ればせながら日本へやってくるフロンクスは、日本市場に合わせて乗り味のセッティングや、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)対策を徹底的に行っています。実際に乗ってみると、まず静粛性に驚き、そして乗り心地とスポーティな走りの両立ぶりが光るドライブフィールだったように思います。ライバルと比較しても「走り」の完成度は非常に高いものでした。
フロンクスは、子育てが終わって落ち着いたカーライフを送りたい方や、クーペSUVを求める都会的な暮らしをしている方をメインターゲットに置いているそうですが、アッパークラスのCセグメントSUVからダウンサイジングや、軽自動車からのステップアップとしての受け皿も担っているスズキ期待の新星といえます。
あとは価格次第ですが、元来コストパフォーマンスの高さに定評のあるスズキですから、十分に期待できると思います。したがってフロンクスは、間違いなく2024年で大注目モデルの1台になりそうです。
[ アルバム : スズキ フロンクス プロトタイプ試乗 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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