2021年に始まったポルシェジャパン×東京大学のユニークなプロジェクト
世界的なスポーツカーブランド・ポルシェのインポーター(総輸入元)であるポルシェジャパンは、東大先端研「個別最適な学び」寄付研究部門とパートナーシップを締結。2021年から「LEARN with Porsche」というユニークなプログラムを展開しています。
【画像】「えっ!…」ポルシェ×東京大学が開催! これが若者の夢の実現を後押しする「LEARN with Porsche」です(30枚以上)
中高生を対象に「ものづくりプログラム」と「サマープログラム」というイノベーティブな経験を提供する同プログラムは、まさに若者たちの“夢を叶えるサポート”に取り組むものです。
なぜポルシェジャパンは、こうしたチャレンジに取り組んでいるのでしょうか? 今年度の「サマープログラム」の模様を振り返りながら、その理由を深掘りします。
「LEARN with Porsche」とは、Learn Enthusiastically(熱心に学び)、Actively(積極的に)、Realistically and Naturally(現実的かつ自然に)の頭文字からとられた名称で、東大先端研東大先端研「個別最適な学び」寄付研究部門の中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)シニアリサーチフェローが率いる研究室と、ポルシェジャパンによる共同プロジェクトです。
なかでも「サマープログラム」は、研究室のメンバーでもある東大先端研の客員研究員で料理研究家の土井善晴さんや、「LEARN」への参画に取り組んできたポルシェジャパン広報部長の黒岩真治さんらもすべての日程に同行。参加者たちのサポートに当たります。
「LEARN with Porsche」の「サマープログラム」は、初回の2021年は北海道で、2年目は四国で、3年目は再びの北海道でと、まさに日本全域を巡ってきました。そして、4年目となる2024年の舞台は、九州は熊本の天草地域。彼の地を拠点に5日間のプログラムが展開されたのです。
参加したのは、中学3年生から高校3年生までの男女9名。参加者たちは、“どこへ”行って”何をするのか”、プログラムの内容を全く知らされぬまま九州の地に降り立ったのでした。
スマートフォンやタブレットは使用禁止というルールは例年どおり。加えて今回は、参加者どうしが自身の通う学校名や学年を明かさないという新たなルールも課されました。
ちなみに、2024年の「サマープログラム」のテーマは、「君の視点から始める学び~協働して学べという時代にあえて一人で学ぶ意味を考えてみる~」。なんとも哲学的な響きですが、参加者たちはプログラムを通じ、何を感じ、何を得たのでしょうか?
●考えてアクションを起こさなければプログラムは進まない
初日、まず参加者たちには、出発地点で福岡・博多までの新幹線チケットと移動中のミッションを記したチケットが渡されました。
メモに記された最初の課題は、「自分の想いと景色を書き留めよ」、そして「目的地に関する本を読んでみよ」。さながらゲームのようでもありますが、教育を考えるプロフェッショナルが手がけるスカラーシップだけにひと筋縄ではいきません。スマホに頼ることができないなか、与えられた課題に取り組みつつプログラムの行程や目的を少しずつ解明していきます。
その後、9名の参加者たちは、5名の“熊本チーム”と4名の”鹿児島チーム”にひっそりと分けられ、初日の宿泊地へと向かいます。この段階においても、自分以外の誰が同じ目的地を目指しているのか、また、翌日に何をおこなうのか、参加者たちにプログラムの内容は教えられていません。そんな状況だけに、参加者たちは「自分で考えてアクションを起こさなければプログラムは進まない」ということを、身をもって痛感したことでしょう。
2日目は、初日と同様、課題に沿って最初の目的地へと向かいます。お昼頃に自分以外の参加者たちと合流。そこからはグループでの活動に移ります。
“熊本チーム”は、天草諸島の御所浦島へ、“鹿児島チーム”は天草・下島の南側に位置する牛深へと向かい、職業体験を通じて現地の人々との交流を図ります。
“熊本チーム”は甘夏などを栽培する果樹園で、また“鹿児島チーム”は名物の燻製かまぼこで知られる地元の蒲鉾店で、それぞれお手伝いです。
3日目は、前日と同じお手伝い先での職業体験。この間、受け入れ先の方々や地元の人々との交流や聞き取り、また、お話を聞く場などを通じて、現地の歴史や文化について調べ、地域について学んでいきます。
そんな参加者たちに対し、中邑先生はヒントこそ与え、問題を提起することはあっても、何を聞くべきか、どんなことを調べるべきか等については、引き続き具体的な指示は出しません。
そんななか、3日目の夜に参加者全員が集合。その時点まで調べたことに関する発表の場が設けられました。参加者たちは皆、3日間の旅と職業体験中に記したメモを見ては、グループで意見を交わします。
発表内容は、食文化や調味料、地域と人々の性格など多岐にわたり、日常とは異なる文化に触れた素直な感想も飛び出します。
あらかじめ参加者たちのプロフィールを把握していた筆者ですが、「面白い着眼点だな」、「知識や論理的な思考に年齢って関係ないな」と驚かされる点も少なくありません。
一方、「まだ表層的な部分にしか触れられていないな」と感じる部分があったのも事実。発表を受けた中邑先生は、参加者たちのそうした欠けている部分について触れた上で、「明日はがんばろう」とひと言告げて発表会を締めくくったのでした。
筆者が「面白いな」と感じたのは、中邑先生は参加者たちが集めた情報を元に、なんらかの解答を導き出させようと促すのではなく、情報の背景、情報と情報とを結ぶ接点などを探り、考えるためのアドバイスに終始したことです。
こうしたシーンに遭遇すると、つい口を挟みたくなる大人も多いものですが、必要以上のアドバイスを送らない中邑先生の姿勢は、今回のテーマである“一人で学ぶ意味“につながるのでしょう。
気づきの大切さや面白さを9名の中高生に伝える
4日目からはいよいよ後半戦。9名全員の行動となります。
午前は「天草キリスト歴史館」で地域の文化・歴史と深く結びつくキリスト教について学び、午後は世界文化遺産に登録される下島南部の「崎津教会」と「崎津エリア」を訪れます。
この頃になると、地域の人々に声をかけるのも慣れたもの。目に入るものや気になったことについて積極的に質問する参加者たちの姿が見受けられました。「スマホがないなら聞けばいい」という姿勢の変化に、たくましさを感じたのも事実です。
最終日となる5日目は、天草・下島から有明海の出入口である早崎瀬戸をフェリーで渡り長崎・島原半島へ。そこからバスで長崎市内へ向かって老舗カステラ店などで話を聞き、いよいよ帰途に就くべく長崎空港へと向かいます。
空港でおこなわれた最後の発表会で、9名の参加者たちは旅した天草についての知識や情報、学びに関する気持ちの変化を各々の言葉で熱心に語っていきます。しかし、そこはまだ中高生。語りたいこと、伝えたいことは山ほどあっても上手く表現できない、キレイに整理できないといったシーンが見受けられました。
とはいえ皆、道中で遭遇した人々から得た情報、移動や食事を通じて知った事実など、自らアクションを起こすことで何かを探り、興味を得た知識と経験を紡ぎ上げ、次へとつなぐことの面白さを実感した様子でした。
中邑先生も、皆の発表に対して点数をつけたり合否を下したりすることはなく、最後の発表会に至っても、「では、●●についてはどう感じたのかな?」と、参加者たちの好奇心をさらに刺激するような言葉を投げかけます。
ひとつひとつの情報という“点”を結びつけて“線”や“面”へと発展させ、覚えるだけの勉強ではない知識の育み方、気づきの大切さや面白さを伝えていたのでしょう。
●「LEARN with Porsche」は“自分の力に頼る”プログラム
今回の「サマープログラム」も全日程に同行し、参加者たちのサポートをおこなったポルシェジャパンの黒岩さんは、参加者たちに対して次のようなエールを送ります。
「今回のプログラムを機に、皆さんに天草や九州のエキスパートになってもらうことが我々の目的ではありません。ここで皆さんが得た数々の情報や『LEARN』へのアプローチを、今後、どのように生かしていくかが肝心なのです。私も海外へと出かけた際、現地で見たり聞いたりしたことが原動力となり、日本についてもっと深く知りたいと考えることがあります。今回体験した“点”と“線”の往来やアプローチをぜひ持ち帰っていただき、この先も実践し続けてください」
一方、参加者たちも、そうした大人の想いをしっかりと噛みしめた様子。
「“点”と“点”を結ぶということは視野を広げて物事を多面的に見ることだと考えた。ものの見方が全く変わった。そして『なぜ?』という疑問がたくさん生まれるようになった」
「『LEARN with Porsche』をひと言で表すなら“自分の力に頼る”プログラムだと思った。今までは何をするにも情報機器や家族に頼りっきりで、すべてを自ら考えて行動して解決するという機会は、とても少なかったことに改めて気がついた」
といった感想をそれぞれが残しています。
重視したのは“本物”であり“正真正銘”のプログラムであること
「LEARN with Porsche」は、先述したようにポルシェジャパンが東大先端研「個別最適な学び」寄付研究部門とパートナーシップを結び、展開しているプログラムです。
しかし、ポルシェジャパンと東大側との関係性は、単なるパートナーシップの枠を超越しているように思えます。なぜなら、ポルシェジャパンは単にモノや資金を提供するだけではなく、広報部長である黒岩さんが実際に「LEARN with Porsche」の現場へと足を運び、現地の自然や地域と触れることで参加者たちと夢を共有しているからです。
その理由について、黒岩さんは次のように話してくれました。
「我々インポーターは、新車やパーツを全国の正規販売店に“卸す”というビジネスを展開しています。以前から企業として日本に根差した活動をしたいという思いが強かったものの、メーカーのように研究部門や工場を国内に構えていない我々は、“根”となる部分が日本にはありませんでした。
しかし、2022年10月1日に『ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京』を開設。千葉県、木更津市と弊社でオープンに向けてのプロジェクトを進める中で、単なるPRではなく、よき企業市民として社会と関連を持ち、日本に根を張ったビジネスをしたいとの重いが強くなったのです」
黒岩さんは、「LEARN with Porsche」を実践するに当たって、ひとつこだわったことがありました。それはオーセンティックであること。日本と関わりを持つに当たって、見栄えや耳触りがいいプログラムを推進するのではなく、“本物”や“正真正銘”のプログラムであることを重視したのです。
また、ポルシェが対外的に掲げるビジョンにおいて、“ポルシェは夢を追い続ける人のためのブランドである”と謳っていることも、「LEARN with Porsche」の追い風になったと黒岩さんは振り返ります。
わずか5日間で得た知識だけで、人生が大きく変化することは滅多にないでしょう。一方、わずか5日間とはいえ非日常に身を置き全身と五感を通じて得た経験は、その後を左右する“何か”を生み出す原動力となる可能性を秘めています。
昨今は、インターネットを通じて欲しい情報がすぐに見つかる時代ですが、一方で、実際に何かを体験することは簡単でなくなりつつあるように感じます。
「LEARN with Porsche」が理念として掲げるキャッチコピーに“夢に向かう力を引き出すプログラム”というものがありますが、実体験を通じた学びこそワクワクするものですし、夢も持てるというものでしょう。
ポルシェは“夢のスポーツカーをつくる”というフェリー・ポルシェの情熱を原点として発展を遂げてきたブランドです。
そしてポルシェは今も、夢を追い続ける人々を応援する「Dreamers On」プログラムや、CSR活動の柱となるキーワード「Porsche.Dream Together」などにて、人々が夢を抱くことを大切にしています。
そうしたブランドの背景を知れば知るほど、「LEARN with Porsche」はポルシェにとっても価値のあるチャレンジなのだと筆者は実感させられるのでした。
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