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強くなった野尻智紀とTEAM MUGENのターニングポイント。成長著しい大津弘樹への相乗効果【初王者&初優勝レビュー】

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強くなった野尻智紀とTEAM MUGENのターニングポイント。成長著しい大津弘樹への相乗効果【初王者&初優勝レビュー】

 2021年のスーパーフォーミュラ第6戦決勝は、ウエットからドライにコンディションが変わっていき、途中アクシデントも続出する大波乱の展開となった。そのなかでスポットライトが当たる活躍と結果を残したのは、ポール・トゥ・ウインで初優勝を飾った大津弘樹(Red Bull MUGEN Team Goh)と、初のシリーズチャンピオンを決めた野尻智紀(TEAM MUGEN)のふたりだった。

■昨年の最終戦で経験した自信と悔しさ……野尻智紀&16号車陣営が語る“初戴冠の出発点”
 初のチャンピオン獲得をかけて3番手からスタートした野尻。序盤はペースが上がらず大きくポジションを落としたものの、最終的に5位でフィニッシュし、念願の初タイトルを手にした。パルクフェルメでのインタビューでは涙ぐむシーンを見せた野尻。過去の失敗や苦しかった経験、そのすべてを思い出していたという。

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「いろいろな人が尽くしてくれて、助けてくれたのですが、それを結果につなげられなかったという不甲斐ない自分というのが常にそばにいました」

 野尻は、過去を振り返って消極的になってしまう場面も少なくなかったというが、今季は5戦を終えて3勝を挙げる快進撃を見せた。どのサーキットへ行っても、安定した力強いパフォーマンスというのが印象的だったが、そのきっかけとなったのは富士スピードウェイで行われた昨年の最終戦だった。

「昨年の途中から成績を残せる手応えと覚悟を持って走ることはできていました。ただ、残念ながら最終戦でリタイアとなって結果にはつなげられなかったですけど、そのときから『あのまま走っていればチャンピオンは僕だった』と強く言い聞かせて今年は臨むことができていました。実際、今年に入ってもチームのみんなが助けてくれたので、強い自分のままでいられたのかなと思います」

 実は、昨年の最終戦はTEAM MUGENのチームスタッフにとってもターニングポイントとなっていた。

「昨年の最終戦でチャンピオンを獲れなかったというのもありますし、そのときの予選でポールポジションを獲得できたこと。僕は(きっかけとしては)両方あるのではと思っています。富士ともてぎは勝てないサーキットという印象が以前からありましたが、あのときの富士でポールを獲れたことがチームとしても大きな前進といいますか、収穫でした。あのままレースも勝てれば良かったのですが、そう甘くはなかったですね。でも、あの1戦でひとつの自信がついたので、それが大きかったです」(田中洋克監督)

「昨年の最終戦で、僕たちはトラブルでチャンピオンを逃したと思っているのですが、そのトラブルがなければ2位か3位あたりで終われていたと思います。そうすればチャンピオンを獲れた可能性も……正直あったのかもしれません。そういった意味で、今年は昨年に“取りこぼしたものを、もう一度獲りにいった”というのが大きかったです。なので、今シーズンに向けてはすごく“復習”をして臨みました。ある意味で昨年のすごく悪かった前半戦と、良かった後半戦で何が違ったのかをしっかり分析して作ったのが、今シーズンのクルマです」(一瀬俊浩エンジニア)

 こうして、野尻だけでなくチーム全体でリベンジを果たしたいという想いがかたちとなって、今季の快進撃につながったことは間違いない。さらに一瀬エンジニアは、野尻自身がマシンのセットアップについての理解度を深めていったことも、安定した結果につながったと語る。

「野尻選手とは2019年から組んでいますが、すごく几帳面な印象で、ただアンダーステアやオーバーステアだけではなく、ものすごい細かいところまでフィードバックをしてくれていました。それこそ、走行が終わって僕がデータを見直しているときもずっと隣にいて、色々なフィードバックをしてくれたり、質問してくることもありました。そういった取り組みは、その当時からやっていましたし、そこは尊敬できるところです」

「今年で3年目になったので、いろいろなこともやり尽くしましたが、そのなかでクルマを理想に近づける方法を彼が理解しています。セッション中もすごいスピードで改善できますし、データと野尻選手のコメントがより高い精度で一致させられていました。なので、大きく失敗することはなかったですね」

 ドライバーズタイトル争いは決着がついたのだが、野尻は早くも次の目標に向かっていた。

「次の鈴鹿はチームタイトルもかかっています。今年の締めくくりとして、僕がチームに恩返しをするには“チームタイトルを獲ること”だと思っているので、当然のように勝ちにいきたいなと思います」

 2021年シーズンのチャンピオンとして有終の美を飾ることができるのか。野尻とTEAM MUGENの戦いは、まだまだ終わっていない。

■コツコツと積み上げてきた“強さ”で自ら掴み取った勝利……大津弘樹の初優勝に関係者も祝福
 チャンピオンを獲得した野尻と同様に、主役のひとりとなったのが初優勝を飾った大津だ。初めてのポールポジションからスタートし、レースをリードするだけでなく、セーフティカーからの後続を引き連れて再スタートを切る場面もあったが、まったく動じる様子もなく、ウエットタイヤを履いた前半だけでなく、ドライコンディションとなった後半でもライバルを寄せ付けない走りを見せつける、いわば“完勝”というレース運びだった。

 この戦い振りに、15号車担当のライアン・ディングルエンジニアも絶賛していた。

「今日の大津選手の戦いぶりは本当にすごかったです。後ろとのギャップやオーバーテイクシステム(OTS)の残量もしっかりとコントロールしています。セーフティカーからの再スタートが何度もありましたが、1年目とは思えないほどうまく決めていてミスがなかったです。すごかったです」

「あとは、今回のようなドライかウエットかという難しいときに強いなという印象があります。そういったときの判断を含め、センスがあるなと思います。なので、今日のレースも僕は割と落ち着いて見ていられました」

 それを実現させた要因はたくさんあるのだが、そのなかで大津は常に同じピットにいる野尻の存在を挙げた。

「僕が今回勝った要因のひとつとして、やはり野尻選手の走りやデータなどを、ほかの人より近くで見ることができ、一番調子が良い人のクルマと比較できるというのが僕としてはメリットがありました」

「前半戦はなかなかうまくいかず、残り2大会となり、僕自身けっこうプレッシャーがかかっていました。ただ、1カ月半くらいのインターバルで、これまで以上に僕もクルマを理解しようとして、より連絡を密に取るようにしました」

「そこを意識し続けて準備をしてきたことで、クルマのセッティングを進めていくなかでも、よりお互いの言葉のニュアンスを理解できたというのも、コンディションが刻々と変わるレースのなかでスムーズに運べたのが大きかったと思います」

 第5戦を終えてからのインターバル期間中には、野尻と一瀬エンジニアのミーティングにも同席させてもらい、彼らのクルマ作りを勉強するなど、積極的に新しいことを取り入れようとしていた大津。好調な野尻を間近で見ている分、自分も結果を残さなければいけないというプレッシャーは常にあったという。

「このチーム体制でチャンスをもらい、走らせてもらっているなかで、絶対に結果を残さないといけないというプレッシャーはすごくありました。横にチャンピオンの野尻選手がいるなかで自分が下位に沈んでいるというのは悔しいですし、何とかしなきゃと思っていました。そのなかで今回勝つことができたのは、身のある1勝になったのかなと思います」

 今シーズン前半は思うように結果を残せず、苦労していた部分も少なからずあった大津だったが、周りの関係者は彼の才能と努力を評価し、歓喜の瞬間を待ち続けていた。特に田中監督は必ず結果に結びつく日が来ると信じていたという。

「彼がF3に乗っていたころも見ていたのですが、あまり目立たない性格だし真面目なんですよね。着実に積み重ねていくタイプです。なので結果が出るのが人より遅いところはありますが、積み重ねたものがあるので、きっちりと結果を出してくれるという期待はできます。それがいつになるか分からない部分はありますが、我慢強く一緒にやっていれば、着実にこういった結果を出してくれるという期待はしていました」

「大津は、いつも自分より速いドライバーと組むことが多く、どうしてもセカンドドライバーのような扱いになってしまうので、見ていても可哀想だなと思うところはありました。ただ、チャンスがあればきっちりと結果を出してくれるドライバーだとずっと思っていました。こうして結果を出してくれたというのは彼にとってすごく良いことですし、来年以降につながってくれればなと思います」

 そして、スーパーGTでは大津とコンビを組み、スーパーフォーミュラではアドバイザーとして15号車に携わる伊沢拓也も、この1勝は彼にとって大きな意味を持つものだと語った。

「今年は野尻選手がすごく強いなかで、大津選手も15号車のメンバーも正直悔しい部分がすごくあったと思います。また、大津選手にとっては初めてのスーパーフォーミュラで、初めてのチームスタッフでやっているというところで、野尻選手ほどテンポ良くやれないなか、多少なりとも焦りはあったと思います」

「15号車としても昨年は成績を残せていませんでしたし、ピエール・ガスリーが活躍して以降、苦しい時間を過ごしてきていたなかで、こういった結果に導いたというのはドライバーとして大きなことです」

「僕は昨年から彼と一緒にスーパーGTで組んでいて、僕は彼には力があると感じていました。それを彼自身がこうして証明したということに一番価値があると思います」

 今まではスポットライトが当たる機会が少なかった大津だが、この1勝が今後に向けた起爆剤になりそうな雰囲気が、レース後のピットや関係者からのコメントで感じることができた。最終戦の鈴鹿でも“要注目”な存在として、ライバルから警戒されることは間違いないだろう。

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