ドゥカティの新型『ムルティストラーダV4S』のメディア試乗会がイタリアで開催された。「全ての道」を意味するムルティストラーダの初代モデルは「4バイクス・イン・ワン」のコンセプトを引っ提げて2010年に登場。その名のとおり、スポーツとオフロード、ツアラーと街乗りバイクそれぞれの長所を兼ね備えた万能マシンとして一躍アドベンチャーツアラーの急先鋒に躍り出た。
2021年にはエンジンをV2からV4へと多気筒化し、フロント19インチホイールを採用して走破性を高めた新世代へと進化。今回の最新型では更なるアップグレードが図られたというが、すでに手を加えるところがないよう思えた現行モデルからどう進化したかが見ものである。
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外観は大きく変わってはいないが、細部に目を凝らすとフロントカウルはエッジの効いたデザインになり、ホイールやエキゾーストの形状も改められている。最高出力170psを誇る排気量1058ccのV4グランツーリスモエンジンは新たにシリンダー停止機能を搭載し、低速時は2気筒のみで低燃費走行が可能に。
また、スイングアームのピボット位置を1mm上げて加速でのトラクション性能を向上。電子制御もさらに進化し、停止直前に車高を自動的に下げる機能の他、新たに「ウェット」モードが加えられるなど、最新型ではアクセシビリティ(扱いやすさ)を主眼に安全性と快適性が向上している。
◆悪条件になるほど際立つオールラウンド性能
シートに跨った瞬間、まず感じるのはその低さ。新型では自動車高低下機能(オートマチック・ロワリング・デバイス)によって、10km/h以下になるとリアサスのプリロードを抜くことでシート高が30mmほど下がる仕組みだ。自分の身長(179cm)だと誇張なく楽々足が着く。走破力と快適な乗り心地が求められるこのジャンルでは、サスペンションの長さ故のシートの高さがネックだったが、この機能のおかげで足着きのハードルもだいぶ下がるはずだ。
雨天の中での試乗となったが、悪条件になるほど際立つのがムルティのオールラウンド性能。スイッチ一つで「ウェット」モードに切り替えると出力特性が穏やかになり、コーナリングABSとトラコンも最適化され、サスペンションまでもが「ウェット」専用のセッティングへと自動調整される。
特に驚いたのは新たに加わった「バンプ検知機能」。これは前輪が段差を乗り越えた衝撃を感知しリアサスペンションのダンパーを瞬時に最適化するシステム。実際に車両を減速させるためのスピードバンプを越えたときも、突き上げ感は予想していたより少なく感じた。
また、新型ではリア主導の前後連動ブレーキが実装され、ブレーキペダルを踏むと状況に応じて最適な制動力が配分されるため、けっこうなペースでもほとんどリアブレーキのみで走れてしまう。ちなみにこれらの便利なサポート機能はライダーの意志でオフにできるため、操る楽しさを損なうこともないのだ。
◆ひと皮剥けば現れるもう一つの顔
世代を重ねて扱いやすく快適になっていくムルティストラーダだが、ひと皮剥けばもう一つの顔が現れる。それはドゥカティの血筋とも言うべきスポーツバイクとしての側面だ。
スロットルを開けた瞬間に躍動するV4エンジンのパワーは圧倒的で、フロント19インチを感じさせないハンドリングの切れ味や軽快なフットワークは純粋なスポーツモデルに見劣りしないほど。それでいて電子制御の後ろ盾があるから、どんなコーナーでも自信を持って挑んでいける。どこにも曖昧さがない精緻な走りはMotoGPでの大成功をもたらしたドゥカティならではだ。
オフロードではオプションのスポークホイールにデュアルパーパスタイヤを履いた仕様でトライした。「エンデューロ」モードに切り替えることでエンジン出力は114psに抑えられサスペンションも不整地向けのしなやか設定に。ABSやトラコンの介入も最小限となるため、コーナーでは後輪を軽く流しながら立ち上がるアドベンチャーらしい走りも楽しめてしまう。
また、レーダーによって自動追尾してくれるクルコンや前方衝突検知などのサポート機能も手厚く、特に長距離ツーリングや悪天候で疲れているときほど頼りになる。「常に最高のツーリングバイクを目指す」と熱く語ってくれたドゥカティ開発陣の言葉どおり、一段と進化したムルティの魅力を存分に楽しむことができたのだった。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
ハンドリング:★★★★★
扱いやすさ:★★★★
快適性:★★★★★
オススメ度:★★★★★
佐川健太郎|モーターサイクルジャーナリスト
早稲田大学教育学部卒業後、出版・販促コンサルタント会社を経て独立。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。(株)モト・マニアックス代表。バイク動画ジャーナル『MOTOCOM』編集長。日本交通心理学会員。MFJ公認インストラクター。
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