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スターリング・モスはなぜ“無冠の帝王”と呼ばれるのか? 特筆すべきふたつの記録と3つのレース

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スターリング・モスはなぜ“無冠の帝王”と呼ばれるのか? 特筆すべきふたつの記録と3つのレース

 元F1ドライバーのスターリング・モスが90歳でこの世を去った。彼は主に1950年代~1960年代前半にかけて活躍し、F1でのタイトル獲得経験こそないものの多くの実績を残し、“無冠の帝王”と呼ばれた。今回はそんな彼のキャリアを象徴する記録とレースを振り返っていく。

■特筆すべき記録1:F1での7年連続ランキング3位以上

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 “無冠の帝王”モスを最も象徴していると言えるのがこの記録だ。彼は1955年から4年連続でランキング2位となり、1959年から3年連続でランキング3位となっている。中にはファン・マヌエル・ファンジオやマイク・ホーソーンらと最終戦までタイトルを争うこともあったが、いずれもあと一歩のところで戴冠には届かなかった。

 なお、この『7年連続ランキング3位以上』をモスの他に達成しているF1ドライバーは、2019年シーズン終了時点でミハエル・シューマッハーしかいない(2000年~2006年)。モスと同時期に活躍したファンジオも、1年間の欠場を挟んで7シーズン連続でランキング3位以上に入っているが、ワークスチームを渡り歩いたファンジオと対照的に、ヴァンウォールやクーパー、ロータスなどのプライベーターに多く在籍してこの記録を残したモスは賞賛に値するだろう。

■特筆すべき記録2:F1通算16勝

 モスのF1における通算勝利数は16であり、これは歴代17位の記録だ(2019年シーズン終了時点)。ただ忘れてならないのは、モスが活躍した1950年代は年間レース数が8戦前後。現代の半分以下であるということだ。レース数が大幅に増加した1970年代以前に活躍したドライバーに限定すれば、モスの16勝はジャッキー・スチュワート(27勝)、ジム・クラーク(25勝)、ファンジオ(24勝)に次ぐ数字だ。

 そして何と言っても、モスはF1ワールドチャンピオンに輝いていないドライバーの中で最多勝を誇っている。まさに“無冠の帝王”だ。なお、モスの次に勝利を挙げている無冠のドライバーは、デビッド・クルサード(13勝)だ。

■特筆すべきレース1:1959年ニュルブルクリンク1000km

 1950年代のグランプリシーンにおいてモスとファンジオのどちらが優れていたかはしばしば議論の対象となるが、1950年代における最高のスポーツカードライバーは間違いなくモスだろう。彼はメルセデス・ベンツ、マセラティ、アストンマーチンなど、何に乗っても速かったのだ。

 特にその速さが顕著に発揮されたのが、1959年のニュルブルクリンク1000kmだった。アストンマーチンのオーナーであるデビッド・ブラウンは、ル・マン24時間レースに照準を当てるため、このレースには参加しないことを決めていた。しかしモスはチームマネージャーのジョン・ワイアーを説得し、何とかアストンマーチンDBR1/300を調達した。

 ジャック・フェアマンと共にレースに臨んだモスは予選4番手からスタートしたが、早々にポルシェやフェラーリの面々を交わしてトップに立ち、ラップレコードを更新しながらレース序盤で半周ものリードを築いた。全長22kmを超える当時の“ノルドシュライフェ”において、序盤で半周差をつけることがいかに驚異的であるかは想像に難くないだろう。

 44周のレースのうち17周を消化してドライバー交代を行なったモスだが、ここで雨が降ってきたことにより、代わったフェアマンは溝にマシンを落としてしまう。彼は力づくでマシンを溝から脱出させ、ピットに戻ってすぐさまモスと交代した。

 5分以上あったリードは消え失せ、トップから1分遅れの4番手に落ちていたモス/フェアマン組だが、モスの鬼神の追い上げにより最終的には2位以下に41秒の差をつけて優勝した。モスが記録したラップレコードは従来の記録を11秒も更新するものだった。

■特筆すべきレース2:1961年F1モナコGP

 F1の1961年シーズンはフェラーリ156が高い戦闘力を発揮し、8戦中6ポールポジションと5勝を記録した。そんな中で31歳となりキャリアの全盛期を迎えていたモスは、ロブ・ウォーカー・レーシングからエントリーし、非力なロータス18を駆り2勝を挙げた。

 特にこのモナコでの走りは特筆すべきものだった。予選でポールポジションを獲得したモスは、決勝でも驚異的なペースでレースをリードした。

 それに負けじとフェラーリのリッチー・ギンサーも好タイムを連発しながら猛追したが、結果的に3.6秒及ばず、軍配はモスに上がった。ふたりは1分36秒3という同タイムでファステストラップを記録したが(当時のタイム計測は小数点ひと桁まで)、これはモスが記録したポールタイム(1分39秒1)よりも3秒近く速く、まさに“激闘”と言えた。

 なお3位、4位もフェラーリ勢(フィル・ヒル、ウルフガング・フォン・トリップス)。他の“非フェラーリ勢”では、ダン・ガーニー(ポルシェ)が2周遅れで5位に入るのが精一杯だった。

■特筆すべきレース3:1955年ミッレ・ミリア

 1955年の世界スポーツカー選手権の1戦として行なわれたミッレ・ミリアは、イタリアの公道を1000マイル(約1600km)にわたって疾走するという危険かつ過酷なレース。モスはこのレースでメルセデス300SLRというベストマシンを手にしていたとは言え、ミッレ・ミリアはその特性上、地元のイタリア人ドライバーが圧倒的有利であった。かくいうモスもこれまでジャガーから3度ミッレ・ミリアに出走していたが全てリタイアに終わっていた。

 強力な300SLRを手にしたモスとナビゲーターのデニス・ジェンキンソンは、ミッレ・ミリアに向け入念な準備を進めていた。ジェンキンソンは“ローラーノート”と呼ばれる手引書を作成し、さらにはレース中に予測されることをモスに迅速に伝えるためのハンドサインも開発した。

 500台以上のマシンが参加する大規模なイベントであるミッレ・ミリア。スタートは1台ずつとなるため、土曜日の朝に一番下のクラスのマシンがスタートしたが、モスたちがスタートしたのは翌朝の7時だった。

 道中でストローベイル(藁の束)に衝突したり、溝にハマるなどトラブルもあったが、モスとジェンキンソンはレースをリードしていった。モスはチームメイトのファンジオからもらった精力増強剤の効果もあってか驚異的な持久力を発揮しており、さらに前述のノートのおかげで馴染みのないコースをフルスピードで疾走することができた。

「ほとんど全開でコーナーを曲がっていた。知らない道を時速170マイル(約274km/h)で走ることはひとりでは絶対にできなかったことだ。ノートのおかげで何が待ち構えているかを正確に把握していた」

 モスは自伝の中でそう記していた。

 そんな中、優勝候補のメルセデス勢はカール・クリングがクラッシュにより負傷し、ファンジオはトラブルに見舞われるなど、続々と脱落していく。しかしモスとジェンキンソンは安定したレース運びを見せ、トップでゴールした。2位のファンジオには30分以上の差をつける圧勝だった。

「あのレースは私のレース人生の中でも最高の瞬間のひとつだった」とモスは自伝で振り返っている。

「私が参戦した他のレースで、このレースと比較できるものは見当たらない」

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