積算1831km マクラーレン720Sで雪道を走る
text:Andrew Frankel(アンドリュー・フランケル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
マクラーレン720Sを長期テストで乗っていると、ロードテストでは見えなかった部分も見えてくる。降り積もった雪の日の運転などは典型。
ピレリ・ソットゼロというスタッドレスタイヤとの組み合わせは素晴らしいものだった。ほとんどスリップすることなく、郊外の道も走り回ることができた。その後、ノーマルタイヤを履いた4輪駆動のSUVでは、そろそろと走る羽目になったのだけれど。
積算2394km ミッション・モータースポーツ
長期テストのマクラーレン720Sを、サーキットへ持っていく予定は当分ないはずだった。クルマはテスト評価中だし、スタッドレスタイヤを履いていたから。シルバーストン・サーキットの近くへ行くこともなかったはず。
しかし今回の走行会は、いつもとは異なった。「ミッション・モータースポーツ」という、身体障害を持った人のリハビリなどを支援する、慈善団体が主催のものだったのだ。わたしもこの団体には少しながら関わっている。
この団体は軍隊活動の中で負傷した元兵士やその家族などを支援するもの。身体的な障害だけでなく、精神的に苦しんでいる人も少なくない。
活動信念は「レース・再訓練・復帰」で、設立から7年足らずの間に、150名近くの保護受給者の再雇用へとつなげている。また幅広いプログラムを通じて、1700名以上の就職も支援してきた。
ウェットのサーキットはスタッドレスで
少し広告になってしまったが、せっかくマクラーレンという面白いクルマを持っていのに、サーキットタクシーをしないわけにはいかない。身障者の場合、もしかするとスーパーカーに乗る機会は一生来ないかもしれないのだから。
今回は素晴らしいイベントだった。マクラーレン・セナにポルシェ918スパイダー、新しいフォードGTが1つのガレージからやって来た。更にフォード・ヨーロッパからはピックアップのラプターがやってきて、プロモーションも行った。
わたしの自宅にあったクルマは、マクラーレンの720Sか娘が乗っている1.0Lのトヨタ・アイゴ。この内容でアイゴで向かうわけにはいかないだろう。
シルバーストンに着いた720Sは人気者だった。足を引きずりながら、車椅子を走らせながら、障害を持つ人たちが集まってくる。助手席に座る人たちへ、サーキット用のタイヤではなくスタッドレスタイヤだと告げなければならないことには、心が痛んだけれど。
720Sはコースへ出ると、回転数を6000rpm以下に抑えつつも、実は他のクルマを圧倒する走りができたのだ。その日のシルバーストン・サーキットはかなりのウェット。周りがスリックのようなタイヤで苦労する中、マクラーレンのスタッドレスはウェットタイヤのようなもの。
ル・マンも走るレースドライバーは、フォードGTをドライブしていたが、マクラーレン720Sが圧倒的な速さで走る様子に信じられなかったようだ。彼にスタッドレスタイヤのことを話すと納得していた。そうでなければ、チームメイトに誘ってもらえたかも。
脳がんを患った19歳の少女の勇気
クルマのパフォーマンスも優れていたと思う。ミドシップのスーパーカーがウェットコンディションで与えてくれる、運転への自信は信じられないほど高かった。タイヤのぶん、少し手加減したとはいえ。
トラクションコントロールを切っても、即座に危険な状態に陥ることもなかった。マクラーレン720Sは素晴らしい印象を残してくれたが、今回はそれだけではない。
海軍への所属を希望していた19歳の少女、ローラ・ナトールだ。彼女は入隊のために医療検査を受けたところ、手術ができない脳がんを患っていることが発覚したという。
彼女を助手席に乗せて、ハンガー・ストレートの先のストウ・カーブでドリフトすると、陽気に楽しそうに笑ってくれた。彼女の願いは、シルバーストン・サーキットで助手席に乗ることではなく、軍用トラックの運転だかったかもしれない。
でも、命ある内に1つ笑顔になることをしてあげられて良かったと思う。彼女はAUTOCARの読者ではないだろうけれど、彼女の願いが1つでも多く叶うことを願わずにはいられない。
ウェールズの自宅に戻っても、彼女の勇気と堂々とした姿が脳裏から離れなかった。マクラーレン720Sの素晴らしさも確かめることができたが、何にもかえて、彼女の印象が強く残った。
テストデータ
テスト車について
モデル名:マクラーレン720S ラグジュアリー
新車価格:22万4990ポンド(3149万円)
テスト車の価格:24万6450ポンド(3452万円)
テストの記録
燃費:9.4km/L
故障:コーナーを曲がる途中でヘッドライトが消えた
出費:なし
気に入っているトコロ
使い勝手の良さ:クルージング時の快適性と静かさは、クルマの走行性能を考えると突出している。
気に入らないトコロ
デジタルラジオの受信:カーボンファイバー製のタブシャシーとアルミニウム製のボディのため、理想的アンテナを付けるのが難しいのだろう。
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