スポーツカーからSUVまで、駆動方式もすべてに対応
GM(ゼネラルモーターズ)が次世代EVのプラットフォームを発表しました。日本ではキャデラックやシボレーの印象が強く、大排気量エンジンのイメージがあるかもしれませんが、GMは電動化のトップランナーといえる存在。レンジエクステンダーEVの「VOLT(ヴォルト)」、BEV(バッテリーEV)の「BOLT(ボルト)」を市販するなど実績も十分です。
そんなGMが発表したEVプラットフォームは、カバー範囲が広いのが特徴といえます。キャビンの床下に積むバッテリーの総電力量は50~200kWhを想定、駆動モーターはフロントとリアのいずれにも配置可能です。つまり、FWD(前輪駆動)、RWD(後輪駆動)、AWD(全輪駆動)すべての車種をカバーできるプラットフォームといえます。事実、サンプルとして提示されたベアモデルでは、スポーティタイヤを履いたRWD仕様、タフなオフロードタイヤを履いたAWD仕様などを用意していることが確認できます。
これまでエンジン車の感覚ではスポーツカーとSUVは異なるプラットフォームから生まれるものというイメージもありましたが、電動化時代になると、その認識では置いていかれることになります。ひとつのプラットフォームで幅広いラインナップに対応できるようになっていくからです。エンジン車でもモジュラー設計はトレンドですが、EVプラットフォームはさらに上を行く高効率なアーキテクチャというわけです。
次世代EVプラットフォームの発表で注目すべきはバッテリーです。「アルティウム(Ultium)」と名付けられたパウチ型セルのオリジナルバッテリーは、韓国のLG化学との合弁事業によって生産されますが、その製造コストは1kWhあたり100ドル以下に抑えることが見込まれると発表されました。これは現状で市販されているEVのリチウムイオンバッテリーのコストと比べて半分以下と言うべき、驚きの安さです。どのようなブレイクスルーがあったのか詳細は発表されていませんが、独自開発したセルにコストダウンの秘密があるといいます。(※編集部注。GMの発表自体には、アルティウムがリチウムイオンバッテリーかどうかは明記されていません)。
しかもアルティウムは縦置き・横置き自由自在でレイアウトの自由度が高いというのも魅力。さらに800ボルトのバッテリーパックでは350kWの急速充電に対応できるといいます。値段が安く、高性能なバッテリーといえます。
アルティウムバッテリーは未来の技術ではありません。2020年1月に発表されたシェアリングサービス向けの電動式自動運転車「クルーズ・オリジン」にもこのバッテリーは搭載されていますし、2020年5月に公開予定の「ハマーEV」にも搭載されることになります(生産は2021年秋予定)。また、2020年後半にはシボレーの電動車両におけるアイコン「ボルトEV」が、2021年夏には「ボルトEUV」が発表される予定です。
GMは、このバッテリーを自社で使うだけでなく、他メーカーに外販することも考えていると発表しています。事実上のバッテリー規格化が進めば、さらなるコストダウンが期待できるし、電動化時代のコアテクノロジーであるバッテリーのデファクトスタンダードを獲得すれば、GMは自動車業界のリーダーであり続けることができるでしょう。
ただし、それは完成車としてではなく、バッテリーの供給能力を背景としたリーダーシップとなる可能性もあります。この自動車の大変革期には、自動車メーカーの生き残りスタイル、ビジネスモデルにも大きな変化が起こるかもしれないのです。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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