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本田宗一郎との約束を果たした2ストロークマシン「RC500M」世界一への道程

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本田宗一郎との約束を果たした2ストロークマシン「RC500M」世界一への道程

日本で生まれ、アメリカで鍛えた「RC500M」が世界の頂点に

 ホンダの創業者である本田宗一郎は、2ストロークエンジンを採用したモトロクス用バイクの開発陣に「やる以上は世界一の物を作れ」と指示したと言われています。本田宗一郎は4ストロークエンジンこそが最良で、2ストロークを単純構造と誤解していたようです。

【画像】ホンダ「RC500M」(1979年型)の詳細を画像で見る(10枚)

 これは1972年当時の話ですが、複雑で精密な4ストロークエンジンこそがホンダのアイデンティティでした。市販車もレーシングマシンも全てのラインナップが4ストロークエンジンというホンダで、2ストロークエンジンの開発は1953年の「カブ2F型」以来です。

 ロードバイクをベースにしていたスクランブラーの時代は終わり、各メーカーのモトクロスレース専用マシンは先鋭化していました。ホンダの4ストロークエンジンではモトクロスでは勝てない事は分かっていましたが、ホンダには2ストロークエンジンのノウハウが無く、イチからの開発となります。

 それでも1973年にはモトクロス専用車の「CR250M」をリリースし、翌1973年には公道用のオフロードスポーツ車である「エルシノアMT125/250を」発売しました。

 2ストロークエンジンのモトクロスバイク開発は、アメリカンホンダからの強い要請もあり、国外のレース参戦はアメリカ国内から始まっています。

 ホンダは「CR250M」が発売された1973年には250ccクラス、「CR125M」が発売された1974年には125ccクラスで全米チャンピオンを獲得しています。2ストローク車開発の最後発のメーカーであったホンダが早速活躍できたのは、ライダーの力量に頼った部分(走りや開発能力)もあったのでしょう。

 また、1970年代前半に発生した欧州車を時代遅れに追い込む、日本車のモトクロスバイク開発合戦の波に上手く乗れたのかもしれません。エンジンも車体も毎戦新しくなっていくような高額な予算を投入する開発ができたのは、ホンダにとってアメリカの二輪市場がそれだけ重要だったからです。

 ここに紹介するホンダのファクトリーマシン「RC500M」は、1973年からAMA(全米選手権)モトクロスの500ccクラスのリザルトに登場します。

 しかし125/250クラスと異なり、勝てるポテンシャルが得られるまで時間がかかりました。AMAでの初優勝は3シーズン目の1975年です。同年に行なわれたモトクロス世界選手権のカナダGPにスポット参戦した際は2位と総合優勝を記録し、成績も上向いてきます。

 そのバイクは「RC400M」と呼ばれていますが、年ごとに「RC400M2」や「RC450M」などと車名が変わります。「RC」はホンダチームの専用マシンで、年間数台だけ生産される高価で貴重なバイクを示す車名です(市販車はCR)。その後ろは排気量で、末尾の「M」はモトクロスを意味しています。

 普通なら500ccクラスのエンジンは上限いっぱいの500ccで開発されますが、このバイクはいずれにしても車名と排気量は一致せず、おおよそ400ccから480ccで(1979年仕様は493.39cc)、シーズン中も仕様変更が行なわれていたようです。

 トルクが出過ぎてしまう排気量の大きな空冷2ストローク単気筒をスムースに回るようにする開発は難しく、他メーカーのバイクも排気量はさまざまでした。

 日本国内のモトクロスレースは250ccまでの車両で行なわれており、当時のモトクロス世界一として相応しい舞台は、ヨーロッパが主戦場のモトクロス世界選手権の500ccクラスでした。

 1977年にホンダはチームを結成し、「RC500M」とアメリカ人ライダーのブラッド・ラッキー選手を派遣します。スウェーデンGPのレース1で待望の初優勝を獲得しますが、レース2ではチェーンが外れてリタイヤとなります。このレースは象徴的で「RC500M」は世界GPで勝てるポテンシャルがありながら、まだ成長過程でトラブルも多いマシンでした。

 1978年には若き英国人ライダーのグラハム・ノイス選手と契約します。チームメイトのラッキー選手は4勝するも、ノイス選手は年間を通してトラブルに泣かされた1年目でした。

 ノイス選手の2年目となる1979年には、逆にライバルが怪我などで脱落する中で安定した成績を残し、ノイス選手と「RC500M」は見事に世界チャンピオンに輝きます。

 ホンダの2ストローク開発陣も本田宗一郎との約束を果たし、ホンダにとっては1967年の世界ロードレースGP参戦第一期以来の世界タイトル獲得となりました。

 このモトクロスの頂点とも言える500ccクラスでのホンダの挑戦は続き、「RC500M」は進化を続けながら1994年までの16年間に13回もチャンピオンを獲得します。

 ちなみに、この「RC500M」などのモトクロス用バイクの2ストローク開発陣が、後のロードレースGPチャンピオンマシン「NS500」のエンジン開発の一翼を担いました。

 多くの場合、モトクロス用のチャンピオンマシンは数年後に一般レーサーへの市販車として発売されます。しかし「RC500M」の直接的な市販車版は存在しません。

 1973年から開発が続いていたホンダ初のオープンクラスの市販モトクロスバイク「CR450R」が海外向けにリリースされたのは1981年でした。当時のバイクメディアはプロリンクを装備した「CR450R」の完成度を高く評価しています。

 現在では車両規則の変更に伴い、モトクロスは4ストロークエンジン車が主流です。4ストロークから2ストロークへ、そしてまた4ストロークへと時代は変わっても、モトクロッサーの進化は続きます。

■ホンダ「RC500M」(1979年型)主要諸元エンジン種類:空冷2ストローク単気筒ピストンリードバルブ総排気量:493.39cc最高出力:55PS/6000rpm車両重量:95kg(乾燥)

【取材協力】ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)※2023年12月以前に撮影

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みんなのコメント

4件
  • kemurinokosa
    覚えてる。当時よくCMで使ってたから驚いた
  • dar********
    2サイクルエンジンはシリンダーの壁に開いた穴ポートから吸·排気するので、そのポートの微妙な形状の違いでエンジンの性格や馬力が大きく変わる。昔のバイク雑誌には2サイクルエンジンの改造方法として、シリンダースリーブを外してポート穴をヤスリで削って拡げるなどと言う方法が書いてあった。スリーブの上の方のヘッドと接触する部分を削ると圧縮比が変わると言うのもあった。昔の2サイクルエンジンは空冷だったので比較的簡単にそう言う事が出来た。水冷エンジンが主流になってからは聞かなくなった
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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