マルティーニカラーの限定ポルシェ
2023年12月1~2日、RMサザビーズ北米本社がアメリカ合衆国テキサス州ヒューストンにて開催した「The White Collection」オークションでは、主にポルシェにまつわる500点以上のロットが出品された。そのなかで自動車は63台。さらにポルシェのスポーツカーが56台を占め、その大部分がオークションタイトルのとおり、ホワイトのボディカラーを持つ個体とされていた。今回はそれらのなかから、ポルシェ「924マルティーニ チャンピオンシップ エディション」のあらましとオークション結果についてお話しさせていただくことにしよう。
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スーパーカーもどきに非ず、上質なミドル級スポーツカーでした
1975年、ポルシェのエントリーモデルとしてデビューした「924」は、その前任モデルとなったVWポルシェ「914」と同じくリトラクタブル式ヘッドライトを持つことから、1970年代後半の日本に吹き荒れた「スーパーカーブーム」時代には、スーパーカーの一角に加えられてしまったクルマのひとつともいえよう。
924は、ポルシェとしては初めての経験となったFRレイアウトの2+2クーペ。914と同様、開発・生産のコストを抑えるため、VW/アウディ製コンポーネンツを流用する。同じくポルシェ市販モデルでは初となった直列4気筒エンジンは、当時の「アウディ100」用をベースとし、1.9L OHVから2L SOHCに大改造。最高出力125ps(日本仕様は100ps)をマークしていた。
そのいっぽうで、トランスミッションはリアに置かれるデフと一体化された「トランスアクスル」方式を採用。前後重量配分の最適化を図り、ハンドリングの劇的な向上をもたらすことに成功する。
とくに、当時を知るスーパーカーブーマーたちの一部からは「スーパーカーもどき」などという不名誉な称号で呼ばれることもあったものの、その実はきわめて良くできた2L級スポーツカー。必要充分な動力性能とバランスの良いハンドリングを身上としていたが、デビュー当初はその成り立ちゆえに、純血主義的ポルシェ愛好家の支持を得るには至らなかった。
それゆえ、長らくユーズドカー市場ではもっとも廉価なポルシェと呼ばれ続けたのだが、昨今の国際クラシックカーマーケットにおいては、FRポルシェ全体の再評価が行われているようで、少しずつながら相場価格も上昇しているかに見える。
そんな折にオークション出品されたのは1976年12月から1977年3月にかけて限定生産、主に北米および欧州市場で3000台が販売されたといわれる特別仕様車なのだが、それがいかなる評価を受けるのかは、ポルシェファンにとっては興味深いところであろう。
マルティーニ・ポルシェ935の年間タイトルを記念した限定モデル
イタリア・トリノの酒造メーカー「マルティーニ・エ・ロッシ」は、1970年代から1980年代にかけて、ポルシェやランチアとのコラボレーションによるモータースポーツ活動を展開していた。「924マルティーニ チャンピオンシップ エディション」は、1976年シーズンのFIAメイクス世界選手権において、「マルティーニカラー」のポルシェ「935」が年間タイトルを獲得したことを記念して生産された限定モデルである。
この限定仕様の924は「ポリツァイ・ヴァイス(ポリス・ホワイト)」のボディカラー、マッチングペイントされた白いホイール、そしてなにより車体サイドに走る有名な「マルティーニストライプ」によって、容易に標準仕様と見分けられる。
しかしコスメティックのマルティーニ化は、コックピット内の方が顕著といえよう。赤いカーペットにブルーのパイピングが施されたブラックのビニールシート、レッドクロスのインサート、ヘッドレストのマルティーニストライプなどが、限定エディションであることをアピールする。
また専用のレザー巻ステアリングホイールに加え、1976年シーズンにポルシェがスポーツカー耐久レースを制覇したことを誇示するメタルプレートも追加されている。
2023年11月のRMサザビーズ「The White Collection」オークションに出品された個体は、1977年1月1日付でラインオフし、ミズーリ州セントルイスのポルシェ正規ディーラーを介してファーストオーナーに販売された。
この個体には追加オプションとして、エアコンディショナーとリアウインドウワイパーが装備されているほか、ハンドリング向上のためのスタビライザーも、ポルシェ社内コードでは「E19」と呼ばれるパッケージオプションとして、前後ともに装備されている。
そして新車としてデリバリーされたのち、40年以上を初代オーナーのもとで過ごしながらも、オークション公式カタログに記載されている総マイレージはわずか2万4769マイル(約3万9600km)に過ぎず、過去46年間にわたり控えめに使用されてきたことがわかる。
2016年に行われた整備記録と請求書によると、このクルマは完全なブレーキ整備を受け、ブレーキディスク/パッド、ライン、ホイールベアリングは交換された。同時に点火システムも整備され、テンショナー付きの新しいタイミングベルトが取り付けられた。
このマルティーニ チャンピオンシップ エディションは2019年から「The White Collection」に所蔵。それ以来、適切な動作を確認するために月1回の間隔で始動していたとのこと。くわえて、オーナーズブックやオリジナルの保証書などを収めた純正ブックレット、アクセサリー類も添付されるとのことだった。
RMサザビーズ北米本社は4万ドル~6万ドルのエスティメート(推定落札価格)を設定。その上で「Offered Without Reserve」、つまり最低落札価格は設定しなかった。この「リザーヴなし」という出品スタイルは、金額を問わず確実に落札されることからオークション会場の雰囲気が盛り上がり、ビッド(入札)が進むことも期待できる。ただしそのいっぽうで、たとえビッドが出品者の希望に達するまで伸びなくても、落札されてしまうというリスクも二律背反的に持ち合わせる。
そして迎えた競売では、エスティメート下限に満たない2万9120ドル、日本円に換算すると約420万円という、出品者側にとっては少々厳しい価格で落札されることになったのだが、同時にバイヤーにとってはなかなかのお買い得ともなったのである。
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