この記事をまとめると
■筆者は当時ポルシェ911RS(964型)に憧れていた
ポルシェ911は永遠の憧れ! 最後のオデッセイも……【あのとき買っておけばと後悔しているクルマ 青山尚暉編】
■奇跡的に激レアモデルとの縁があり愛車にすることができた
■乗りこなすのに難儀しポルシェライフは長く続かなかった
当時の憧れだった911RSをゲット!
クルマを手放す理由は人それぞれかと思いますが、筆者の場合「身分不相応」という悲しい結末を迎えたことがありました。不相応などという言葉は最近のリベラル派からは「個人の自由を尊重せよ」などとお𠮟りを受けそうですが、当時(昭和)の価値観からすれば、「悔しいけど仕方がない」てな着地。いずれにしろ、魂と代えてでも手に入れたかったクルマをゲット→手放すというのは悲しくて、悔しくて、どうにもやりきれないエピソードとなったのです。
筆者の喉から手が100本くらい出ていたのがポルシェ911RS(1994)でした。ディーラー車はとうの昔に完売で、新古&中古もまったくなし。オーナーズクラブの先輩たちが真夜中のデニーズに颯爽と乗り付けるRSを指をくわえて眺めているだけだったのです。もっとも、当時の愛車は1989年モデルの911カレラ4で、それを下取りに出してもRSには到底及ばなかったかと。
ちなみに、カレラ4も嫌いではなかったのですが、とにかくコーナリングが難しくて、筆者の腕前では「安全、だけど遅い」わけで、ボット教授直伝の「コーナー手前でシフトダウン、スリップアングルを使いながら曲がりなさい」がなかなか理解&実践できなかったのです。
そんなモヤモヤしているころ、クラブの先輩からRSの出物があるとの連絡。お台場にあった並行車ディーラーA社へと、それこそ最高速チャレンジ並みのスピードで向かったのでした。で、入庫したてということでショールームの地下にあった倉庫でご対面。薄暗い倉庫の片隅に、うっすらとツェルマットシルバーの車体が見えたときに心拍数バク上がり(笑)。
※画像はイメージ
このRSは当時のA社がマカオから仕入れたワンメイクレース仕様車でした。さる大金もちがマカオでRSだけのレースを開催しようと、バイザッハに20台をオーダーしたのですが、どういうわけかレースは開催されずにRSはすべてお蔵入りになったとのこと。それをA社がまとめて買い取ったのか、ディーラー車よりもずいぶんお買い得な値付けとなっていたのです。当然20台は瞬時に売り切れてしまい、目をつけていた筆者は悔しさに舌打ちのひとつも出ようというもの。
ところで、ワンメイクレース仕様といってもノーマルRSとの違いはさほど多くはありませんでした。まずは室内に張り巡らされた6点式ロールケージが鋼材むき出しでなく、すべてレザーとパッドでトリミングされていました。ヘルメットをぶつけて傷ついたりすることがないので、たしかにマカオのお金もち好み(笑)。
また、マットも薄手で軽量なものながら室内全体を覆っていて、これはこれでリッチな雰囲気。むろん、リヤのバルクにはRSの刺繍がなされ、これがボディカラーと対のコーディネートとなり(ツェルマットシルバーにはマゼンタでした)カッコいいのなんの!
そして、このマカオものの愁眉は20台すべて色違いというポイント。となると、厳密にいえばマカオトリムのツェルマットシルバーRSは世界に1台ということになり、筆者は「大それた買い物かも」と膝が震え出したこと、昨日のように思い出すのです。
RSに乗せられてるような光景に落胆
と、ここまで書くと「ははぁ、貧乏編集者が無理してポルシェ買って、車検代にも事欠いたに違いない」と察する方もいらっしゃるでしょう。が、憎たらしいことにお金が原因じゃないんです。幸い、こっそりやってたブローカー業務でもってRS買えるくらい、新品タイヤ買えるくらいの稼ぎはあったのですよ。
身分不相応だと感じたのは、とにもかくにもサーキット走行をした際のこと。頭のなかではポール・フレール先生や名手ハンス・シュトゥック、はたまたステファン・ローザ的なカウンターステアばりばりの走りをイメージしていたものの、そんなアグレッシブさは微塵も発揮できず、グリップ走行をしたとしてもタイムが一向に伸びないのです。
※画像はイメージ
周囲はすでに993RSがちらほら走っていたりなんかして、あるいは964ターボ2なんかもブイブイいわしてるわけで、世界に1台! なんて自慢だって走りの世界じゃめっきり通用するものじゃございません。こんなはずじゃなかった! と、歯ぎしりしたってコンマ1秒も縮まるわけじゃなし。レカロのバケットシートでうずくまり、涙のひとすじも流れようというもの。
結局、プライドと後悔が「世界に1台」を上まわり、自分にとっては不相応だと判断。RSは下取りに消えていったのです。早めの決断が奏功したと思ったのは、手放してから数年後にサーキットイベントでそのRSに再会した際のこと。懐かしいツェルマットシルバーRSを眺めていると、ボンネットフードとバンパーのチリがほんのわずかに合っていません。よくよく見れば右フェンダーも板金塗装されたこともわかりました。そこで「あのまま無理して走らせてたら、オレが事故っていたかもしれない」と背筋が凍る思い。
リベラル派がなんといおうと、クルマの世界には身分や応分という概念は厳然と存在するのです。悪いこたぁいいません、命あっての物種ですから、くれぐれも皆さまも背伸びした走りにはご用心、ご用心(笑)。
※写真のワインレッドの911RSは筆者が入手した車両の同型色違いの車両となります
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みんなのコメント
乗りたいじゃなくて、買いたいだったから、買って目標達成なんじゃないの?
ほんちゃんで走らせるには金も掛かるし、もったいない
この手の車は適当に流して乗って、自己満で所有で良いんじゃないの?