KEN OKUYAMA CARS kode57 ENJI
オンリーワンの美学
日本唯一のカロッツェリアが放つスーパーカー「 kode57 ENJI」を国内試乗!【Playback GENROQ 2017】
美しさと強さを体現し、歴史を彩ってきた名車たち。その系譜に新たな1ページを刻んだのはニッポン唯一のカロッツェリア、奥山清行氏が率いる“KEN OKUYAMA CARS”のプロダクト、kode57だ。独創のスタイリングが魅せる“オンリーワン”を日本初試乗!
モントレーでの衝撃的な出会いを経て、念願だった試乗の夢が叶う。
あの光景は、今でも忘れられない。
2016年。モントレーカーウィーク。華々しいメインイベントの幕開けは、金曜日のザ・クエイル・モータースポーツギャザリングだった。
朝一番。KEN OKUYAMA DESIGN(以下KOD)のブース前で、ベールに包まれた一台のクルマを見つめていた。
kode57、デビュー。
ワンオフに近い、少量限定生産モデル。それはkode7に始まる一連のオリジナルモデルを次々に発表してきたKODの代表、奥山清行氏の新たなプロダクトであり、奥山氏の卓越したデザインと日本の精緻なモノ造りが融合して生まれたスーパースポーツモデルである。
日本が世界に誇るプロトタイプ製作の技が、カーボンファイバーによって構成された奥山デザインの妙を、あますところなく解き放つ。ボディワークは、KODの山形ファクトリーで行われる。もちろん、その技術力は既に定評のあるもの。ベースこそ某スーパーカー大国のものだが、デザイン、素材、製作は、正にオールジャパンだ。その底力を、奥山氏はきっと内外のクルマ好きたちに見せつけたかったに違いない。だからこそ世界最高のステージのひとつ、モントレーカーウィークをワールドプレミアの晴れ舞台に選んだのだ。
ワールドプレミアに臨み「乗ってみたい」とシンプルに願った
自信たっぷりにプレゼンする奥山氏の姿も印象的だったが、忘れられない光景というのは、それじゃない。
翌日。土曜日はコンコルソ・イタリアーノだ。イタリア車だけのお祭り。早朝から繰り出し、展示車両の入場を眺めることを楽しみにしている。クラシックも最新モデルも続々と列をなして入ってくる。
同じグレーカラーで揃えたエンツォ フェラーリとラ フェラーリが入場すると、会場のボルテージがいっきに上がったような気がした。山のように跳ね馬たちが集まってくる。そのなかにあって、曇天がもたらすわずかな朝の陽光を独り占めするかのように輝く、メタリックレッドのkode57が“自走”で入場してきた。ドライバーは奥山氏ご本人。多くのギャラリーに取り囲まれて、まるで子供のような笑顔を振りまきながら、ゆっくりと進んでいる。あの、いなせな大男(失礼!)が、だ。
「乗ってみたい」。その光景を見た瞬間、ボクはシンプルに願っていた。
日本でのお披露目を経て、苦労のすえ晴れて日本のナンバーも付き、「現代に蘇った’57年フェラーリ250TR」、というデザインコンセプトでKODにオーダーしたオーナーのもとへと無事に収まった。
クルマへの影響を鑑み、冬の間を避け、うららかな春を待つ。そして、ようやくその日がやってきた。桜も満開となった4月、関東某所。箱型の積載車から、kode57が厳かに日本の道へと降り立った。
削り出された彫刻のような塊でもって、見る者に迫ってくる
アメリカ西海岸で見たときよりも断然存在感が強い。おそらく、あたりのモノのスケール感で、日本の空気が力負けしているのではないだろうか。けれども、日本の自然や建物とは、その色合いと相まって美しいコントラストをなす。老若男女、道行く人たちが遠慮なく興味の視線を注ぐ。決して人通りが多いとはいえない場所ですさまじい“吸引力”だ。
モントレーで見たときとは少し仕様が違っていた。両サイドにミラーを装備するが、このデザインが凝っている。翼断面をもつアルミニウム削り出しのステーに、カーボンファイバー製のミラーケースが小さく備わっていた。もちろんデザインから興した専用品。ビタローニでも付けておきましょうか、なんて安易さなど、このクルマにはみじんもない。
聞けば、タイヤハウス内にカバーを新設したらしい。逆にいうと、発表時との違いはその程度のもの。このプロジェクトが、いかに綿密な行程管理のもとに進められ、デザインされ、製作されたかが知れる。
日本の陽の光のもと、kode57をじっくりと眺めてみた。独占して観察することじたい、心を昂らせてくれる。オーナーになったときの歓びはいかばかりか、もはや想像もつかぬ。一見、面とラインが複雑にからみあっているような印象を与えるかもしれない。けれども全体を視界のなかにおいたとき、kode57は削り出された彫刻のような塊でもって、見る者に迫ってくる。複雑なように見えた構成は、その実、すべてが連続しており、なかでもノーズからリヤフェンダーへと一直線に走るラインが、このクルマに躍動感溢れる一体性を与えているとみた。そして、それは真横から眺めれば、一直線に潔く走っている。ただシンプルに、速いクルマにみえる。
極上の非日常。真のスーパーカーが持つそれは魔力だ
極めてユニークな、バータイプの後ヒンジドア(と言っていいのだろうか?)を上げ、太いシルをアクロバティックに跨いで室内へと滑り込む。ドライバー側はカーボンの色味で支配され、スパルタンな雰囲気だ。一方、助手席側は赤いアルカンターラに包まれてゴージャス。シート位置を調整し、ステアリングホイールを握っていちど目をつぶる。深呼吸ひとつ。ゆっくりと目を開けた。
見えた景色は、正に非日常。
低いウインドウラインが景色を切り裂く。もっと目障りかと思いきや、シャープに切り取られているからか、意外にも邪魔にならない。むしろダッシュボードまわりのデザインも含めて、他にはない風景が広がっていることのほうに感動する。
ステアリングホイール上のスターターボタンを押すとラウドなV12サウンドがあたりの空気を震わせた。
ゆっくりと走り出す。アタマが半分宙に出ているから、当然風が当たる。もっと沈み込んでしまえばまったく気にならなくなるが、なにぶん貴重なワンオフモデルで、しかもユーザー車両。長いノーズの先と下が心配で、ときに身を起こしつつ細心の注意を払ってドライブを続けた。
特別な空間がクルマを中心にして走るたびに広がっていく
しばらくは、ドライブを楽しむどころではない。車両感覚を掴むこともさることながら、まわりのクルマからの視線と、そのクルマの動きが気になって仕方ないからだ。他のクルマのドライバーにしてみれば、見たこともないクルマが走っているわけで、醸し出す空気感の異様さが視線をあらかた奪ってしまったとしても致し方のないことだろう。けれども、危険だ。まるでkode57に吸い寄せられるような動きになる。ヒヤヒヤしつつも、徐々にkode57の世界観を楽しみ始めていた。
見えてきたのは、極上の非日常だ。日本のどこにでもあるような平凡な街並を走っているにも関わらず、何か特別な場所の中心に自分が収まっているかのようで、すこぶる気分がいい。特別な空間はクルマを中心にして走るたびに確かに広がっていく、それを成さしめるのはkode57をドライブする自分である。それは、精神の開拓者というべき心境だ。
風が心地よく顔に当たる。春にしては陽光の強い日で汗ばむほどの陽気だったから、かえって心地いい。世界に一台のマシンを駆っているという事実にややもするとのぼせ上がりそうになるアタマを冷やすためにも、それはなるほど好都合であった。
いつもの景色が激変する。真のスーパーカーだけが持つそれは魔力だ。
次は誰の元へと嫁ぐのだろう?
REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
KEN OKUYAMA CARS kode 57 ENJI
ボディサイズ:全長4650 全幅2080 全高1175mm
ホイールベース:2750mm
トレッド:前1765 後1720mm
車両重量:1650kg
エンジン:V型12気筒DOHC
ボア×ストローク:92.0×75.2mm
総排気量:5999cc
最高出力:456kW(620ps)/7600rpm〈※OP:NOVITEC ECU ver.509kW(702ps)/7600rpm〉
最大トルク:608Nm(62.0kgm)/5600rpm〈※OP:NOVITEC ECU ver.641Nm(65.4kgm)/5600rpm
トランスミッション:6速セミAT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボン)
タイヤサイズ(リム幅):前295/25ZR21(10J) 後335/25ZR22(12J)
※GENROQ 2017年 7月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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限定生産も何も、誰か発注した人いるのかね?