ハイパーカーというジャンルを確立した、神話的ブガッティ
先ごろRMサザビーズ北米本社は、新旧の自動車/オートバイにくわえて、オートモビリア(自動車趣味グッズ)に時計、そしてナイキのスニーカーに至るまで、あらゆるジャンルのモノを収集してきた、さるコレクターの愛蔵アイテムを集めた「The Dare to Dream Collection(デア・トゥ・ドリーム・コレクション)」オークションを、カナダ・トロントにて開催。その約300点にも及んだ出品アイテムのなかには、「ハイパーカー」というカテゴリーを決定的なものとした2000年代の傑作ブガッティ「ヴェイロン16.4」が含まれていました。今回はそのモデル解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。
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世界最高のクルマを目指した、ピエヒ博士執念のハイパーカーとは?
「シンプルにいえば……、史上最高のクルマ。そして、我々が生きている間に目にすることになる最高のクルマ」
これは、かつて世界的な人気を博した英BBCの自動車バラエティ番組『Top Gear』の企画として、イタリアからブガッティ「ヴェイロン」を操縦してロンドンの「タワー42」を目指す公道レースのゴール直後に、おなじみの対戦相手を打ち負かしたジェレミー・クラークソンが発した言葉である。挑戦者のジェームズ・メイとリチャード・ハモンドが選んだマシンは……? それは、メイ氏の操縦する飛行機だった。
1998年、フォルクスワーゲン・グループは、フェルディナンド・ピエヒ博士の卓越したパワーとパフォーマンス、伝統へのビジョンを実現するために生まれた戦略的買収で、伝説の「ブガッティ」ブランドの使用権を獲得した。最終的に「ヴェイロン16.4」となったこのクルマに対するピエヒの要求は、自動車メーカー史上もっとも野心的なものだった。
1001psを発生し、最高速度は400km/hを超え、なおかつドライバーと同乗者の両方にとって快適で、デイリーユースにも耐えうるものでなければならない。そして最終的に仕上がった製品は、自動車界でもっとも偉大な名前のひとつを壮大な方法で復活させるだけでなく、フォルクスワーゲン・グループのエンジニアリング能力を世界に示すことも目的としていた。
最高速度は407キロをマークした
ピエヒ率いるチームはこのチャレンジに応え、彼の理想を満たすだけでなく、多くの場合、それを上回る結果を残した。2005年の東京モーターショーで初公開された市販版ヴェイロンは、0-100km/h加速わずか2.46秒、最高速度は407km/hをマークした。
ミッドシップに壮大なW型16気筒8.0Lクワッドターボエンジンと7速デュアルクラッチトランスミッションを搭載。ハルデックス式フルタイムAWDシステムによって実現された、極限的なスピード域でもスタビリティに富んだ走りは、まさしく世界を驚かせるものだった。
くわえて、フロントには8ピストン4パッドキャリパー、リアには6ピストン2パッドキャリパーを備えた巨大なカーボンセラミックディスクブレーキが装備され、ヴェイロンは制動力でも驚異的。また、フロント20インチ、リア21インチの専用アロイホイールには、こちらもヴェイロン専用に設計された「ミシュラン・パイロットスポーツPS2 PAX」ランフラットタイヤが標準指定された。
現代のブガッティは、見た目も性能もほかのハイパーカーたちとは一線を画したもの。登場から20年近くを経た現在においても、そのスペックは注目に値する。そして、そのパフォーマンスは当代最新・世界最上クラスのハイパーカーたちとも、依然として肩を並べるレベルにあるのだ。
新車時を大幅に上回るプライスで落札!
新車として発売された当時、100万ドルをはるかに超える(2005年のショーデビュー時の日本国内販売価格は1億6300万円)超高額なプライスタグが掲げられたブガッティ ヴェイロンは、ごく一部の裕福な人々だけに許されたクルマだった。
2024年5月31日~6月1日に開催されたRMサザビーズの「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたヴェイロン16.4も例外ではなく、ファーストオーナーとなったのはイギリスの著名なメディア王、サイモン・コーウェルだった。2008年初頭にビバリーヒルズのショールームで購入されたコーウェル氏のヴェイロンは、ロサンゼルスの煌びやかなセレブリティたちの間で、あっという間に知れ渡ってゆく。
2011年に、ワーナー・ブラザースの人気トーク番組『エレン・デジェネレス・ショー』(邦題「エレンの部屋」)に出演した際、コーウェルは自身の愛車への熱中ぶりをこと細かに熱弁。ヴェイロンを初めて見たときには「手招きされた」と述べるいっぽうで、定期的にショーファーをつけていたため「自らこのクルマのステアリングを握ったのは2回だけだった」と皮肉まじりに語っている。
2014年に「The Dare to Dream Collection」へと譲渡するまでの間、コーウェル氏のもとでは1000マイル(約1600km)強を走行していた。このヴェイロンは、「The Dare to Dream Collection」の10年にわたるキュレーションのもと、スペシャリストによる手入れを受けており、メンテナンスの請求書やコーウェル氏が所有していたことを示す書類のコピーが添えられている。
そして、オークション公式ウェブカタログ作成時点での走行距離は、わずか3780マイル(約6050km)に過ぎない。
クラシック・ブガッティの愛好家も魅了しそうなカラーリングと、セレブリティの出自を併せ持つこのオールブラックのヴェイロンは、コレクターのガレージに荘重な雰囲気を添えることだろう。100年前のブガッティと同様、ブガッティ ヴェイロンは現代の自動車業界においても神話に近い存在なのだ。
驚異的なハンマープライスを叩き出した
今回の出品に際して、RMサザビーズ北米本社では「シンプルにいえば、史上最高のクルマなのだ」というジェレミー・クラークソンの言葉を借りるとともに、150万ドル~175万ドルというエスティメート(推定落札価格)を設定した。
また、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件だった。したがって、たとえ入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう「リザーヴなし」で出品されることになっていた。
この「リザーヴなし」は、通常のオークションでは比較的安価な出品ロットで会場の機運を盛り上げるために行われる措置なのだが、明らかな高価格が見込まれるこの種のハイパーカーでは、あまり見られないものである。
それだけに「お約束」ともいえそうなリスクも充分に危惧されたのだが、いざ競売が終わってみれば、エスティメート上限をわずかながらオーバーした176万5000ドルに到達。現在の円安為替レートで日本円に換算すると、じつに約2億8050万円という驚異的なハンマープライスとなった。
ヴェイロン16.4は、当初300台の限定生産を予定していながらも、最終的には派出モデルも合わせて約450台が生産されたといわれている。つまり、この種のハイパーカーとしてはかなりの台数が作られており、とくにスタンダードモデルでは希少価値もさほど高くないとも思われる。
それでも、依然としてこれだけの高評価を受けているさまを見ると、やはりこのモデルが「ハイパーカー」というジャンルのあり方を確定したアイコニックなモデルであることを、今いちど実感させられてしまうのである。
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みんなのコメント
どうしても身近なところで『ちいかわ』の顔に見えてくる…
送られて来て(もちろんファーストクラス)
本社で色とかオプションを決めて5000万円の予約金を
払うとか!庶民には夢のような話。たしか有名人ではビートたけしさんとかジルベスタースタローンが所有していたそうです