いよいよ8月23~25日に三重県の鈴鹿サーキットで開催される2019 第48回サマーエンデュランス『BH オークション SMBC 鈴鹿10時間耐久レース』まであと1週間あまりとなった。今季もインターコンチネンタルGTチャレンジの一戦として開催されるほか、ピレリスーパー耐久シリーズのスペシャルラウンドとして開催される真夏の祭典。いったいどんなレースになるだろうか。
1966年に初めて開催された伝統の真夏の耐久レースである鈴鹿1000kmが、2018年からレース距離とスタイルを変えたのが鈴鹿10時間。それまでの鈴鹿1000kmはスーパーGTの一戦だったが、2018年からは世界的に流行するGT3カーの“世界一決定戦”として、海外チームと日本の有力チームが争うスタイルとなった。『第48回』として開催されるのは鈴鹿1000kmの伝統を受け継ぐレースとして開催されるからだ。
鈴鹿10時間の暫定エントリー更新。コバライネン&キャシディのスーパーGTチャンピオンコンビ参戦
また、この一戦にはGT3の生みの親であるSROモータースポーツ・グループが参画し、今季も世界5大陸の長距離レースで争われる『インターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)』の一戦として数えられている。
2018年の初年度は35台のGT3カーが参戦したが、2019年は1台増となる36台のエントリーとなった。一時はTAIROKU RACINGやMcLaren Customer Racing Japanが2台ずつをエントリーしていたため40台の大台に乗っていたものの、エントリー取消によりこの数字となっている。とはいえ、エントリー内容としては非常に楽しみなものと言えるだろう。
■IGTC制覇を狙う豪華ラインアップがそろう海外勢
まず海外勢は、インターコンチネンタルGTチャレンジを争う海外メーカーがバックアップする強豪が名を連ねている。昨年10時間となっての初のウイナーとなったメルセデスAMG勢では、メルセデスAMG・チーム・ストラッカ・レーシング(#43)、メルセデスAMG・チーム・クラフト・バンブー・レーシング(#77)、そして昨年覇者のメルセデスAMG・チーム・グループMレーシング(#999)がワークス格。
ドライバーラインアップも豪華で、ストラッカには元DTM王者のゲイリー・パフェットや、2018年IGTCチャンピオンのトリスタン・ボーティエ、クラフト・バンブーにはメルセデスAMGのエース格マキシミリアン・ゲーツやルカ・シュトルツ、イェルマー・ブールマンが、そしてグループMはマキシミリアン・バーク、ラファエル・マルチェッロ、そして今季のスパ24時間のポールシッター、マーロ・エンゲルが乗り込む。
近年メルセデスAMG勢と強烈なバトルを展開しているのは、アウディ勢とポルシェ勢。アウディは、アウディスポーツ・チームWRT(#25)とアウディスポーツ・チーム・アブソリュート・レーシング(#28)がワークス格だ。WRTはドリス・ファントール、ケルビン・ファン・デル・リンデに加え、WTCRで速さをみせるフレデリック・ベルビシュが乗り込む。アブソリュートは、マーカス・ビンケルホック/クリストファー・ハーゼ/クリストファー・ミースというアウディのエース格が乗る。
ポルシェ勢は、EBM(#911)、アブソリュート・レーシング(#912)がワークス格。アール・バンバーがチームプリンシパルを務めるEBMは、鈴鹿の経験も豊富なスヴェン・ミューラーに三度のル・マン覇者ロマン・デュマ、マシュー・ジャミネットというトリオ。アブソリュートはディルク・ベルナー、デニス・オルセン、マット・キャンベルというファクトリードライバーたちが乗り込む。
BMWは近年GT3活動がやや下火ではあるが、それでもBMWチーム・シュニッツァー(#42)、ワーケンホルスト・モータースポーツ(#34)という強豪2台が参戦。シュニッツァーはアウグスト・ファーフス/ニック・イェロリー/マルティン・トムチェクと強力なラインアップで、ワーケンホルストにもクリスチャン・クログネス/ニッキー・キャツバーグ/ミッケル・ジェンセンが乗り込む。
またワークス格として忘れてはいけないのが、ベントレー・チーム・Mスポーツ(#107/#108)。今季も2台のコンチネンタルGT3が鈴鹿に登場するが、スーパーGTでの参戦がない今、この新型を観られるのは鈴鹿だけ。1台のドライバーが未定だが、6名のベントレー・ボーイズはいずれも強力だ。また、昨年ポールポジションを獲得し、IGTC全体で速さをみせるハブオート・レーシングのフェラーリ488 GT3(#27)。特に今回はヘイキ・コバライネンとニック・キャシディを起用しており、楽しみなところ。昨年で予選上位に食い込んだサンエナジー1・レーシング(#75)のように、他の海外チームもレベルは高い。鈴鹿を良く知る日本勢でもまったく侮ることはできないだろう。
■迎え撃つ日本勢の優勝争いにも期待
対する日本勢は、GT300のレギュラーチームが多数参戦するほか、スーパー耐久のST-XからもGTNET MOTORSPORTS(#5)やMP Racing(#9)、SATO-SS SPORTS(#112)が参戦する。彼らはふだんからピレリを使っているのが強みのひとつでもあるが、GT-R勢は2015年モデルなのがデメリットか。
GT300チームでは、昨年のレースで速さをみせたAudi Team Hitotsuyama(#21)、今季も1台はアンドレア・カルダレッリ/マルコ・マペッリ/デニス・リンド(#88)というランボルギーニワークスが乗り込み、もう1台は小暮卓史/元嶋佑弥/関口雄飛(#87)という3人が乗るJLOC、道上龍と大津弘樹に中嶋大祐を加えるModulo Drago CORSE(#34)などは注目の存在だ。
そして期待が大きいのが、Mercedes-AMG Team Goodsmile(#00)。2018年も日本勢最上位となる5位に食い込んだが、今季も谷口信輝/片岡龍也/小林可夢偉というトリオで、昨年以上の成績を狙っている。
チームは今季、2回目となるスパ24時間に挑戦。強豪ブラックファルコンとのコラボレーションというかたちだったが、今回鈴鹿10時間でメンテナンスを行うRSファインのスタッフもチームに加わっての参戦で、「得るものは大きかった」と河野高男エンジニアも語っている。また、スパではWECプロローグを終えたばかりの可夢偉も、鈴鹿に向けてチームに帯同していた。
スパ24時間では、序盤トップ10を争いながらも、夜間に突然強まった雨により片岡がクラッシュ。スパ・ウェザーに泣かされてしまったが、谷口はスパで得た走りをスーパーGTにも活かすなど、多くのことを得ている。このレースで使用されるピレリ、そしてSROレギュレーションでの戦い方を最も得ているGT300チームのひとつと言っていい。昨年の5位以上の成績を目指す。
また、GT300チーム、スーパー耐久チーム日本車使用チームであるKCMG、そしてHonda Team MOTULの活躍にも期待したいところ。KCMGは018号車がアレクサンドレ・インペラトーリ/オリバー・ジャービス/エドアルド・リベラティという鈴鹿の経験をもつ3人が乗り込み、35号車には松田次生/千代勝正/ジョシュ・バードン組が乗り込む。次生は今季スパ24時間を経験しているほか、この規定のレースで豊富な経験をもつ千代と、好結果が期待できる。
一方、今季IGTCを転戦しているHonda Team MOTUL(#30)も、カリフォルニアではポールポジションを獲得したほか、スパ24時間では海外勢に次ぐ6位に食い込んだ。10時間レースではより速さも重要になるが、ベルトラン・バゲット/マルコ・ボナノミ/武藤英紀というラインアップは期待度も高い。ホンダの地元コースで好結果を狙う。
多くのチームがプロクラス、プロ-アマの参戦となるなか、シルバークラスは台数がそれほど多くない。フェラーリを走らせる地元三重のapr with ARN racing(#8)、今季もキャラウェイ・コルベットで参戦するCallaway Competition with BINGORACING(#37)は、表彰台獲得のチャンス。また、フェラーリ勢ではCARGUY RACING(#777)がケイ・コッツォリーノに加え、ジェームス・カラドとミゲル・モリーナというふたりを起用。フェラーリワークスドライバーを揃えており、ポテンシャルは高そうだ。
■レジェンドドライバーも参戦。海外規定ならではの戦いを見逃すな
また、今回の鈴鹿10時間で注目と言えるのが、レジェンドドライバーたちの参戦だ。その最大のトピックスと言えるのが、元F1ワールドチャンピオンのミカ・ハッキネンの参戦。PLANEX SMACAM RACING(#11)からの参戦で、久保田克昭、そして二度のスーパーフォーミュラ王者である石浦宏明と組む。
すでにハッキネンはヨーロッパ、そして鈴鹿でマクラーレン720S GT3のステアリングを握っているが、テストからファンが観覧に訪れるなどその注目度は抜群。多くのドライバーも「ハッキネンと走りたい」と語っている。当のハッキネン自身は、ひさびさのレース参戦ではあるが、レースを楽しみたいという気持ちもある一方で、テストの際の表情は真剣そのものだった。
そして、日本のレジェンドも登場する。86/BRZ Raceには参戦しているが、あの三度のスーパーGT王者、脇阪寿一がひさびさにトップカテゴリーでレースを戦うのだ。しかも弟の脇阪薫一と組むのだから、非常に興味深い。チームはLM corsa(#60)、そしてマシンは今季速さをみせる新型ポルシェ911 GT3 Rということもあり、大いに楽しみにしたいところだ。
残念ながらTAIROKU RACINGから予定されていた本山哲の参戦がなくなってしまったが、それでもこういった脇阪寿一やハッキネンの参戦があるのも、真夏の祭典である鈴鹿10時間ならではと言える。
2018年の鈴鹿10時間では、日本勢はピレリタイヤの攻略や、SROルールでのレースに悩まされる部分もあったが、2年目を迎えそれがどれほど縮まっているか。いまやシミュレーターの発達で、日本勢の“地の利”はほとんどなくなっている。SROルールは、コース特性により多少の有利・不利はあれど、マシンや道具の差がほとんどないようにできている巧妙なレギュレーションであるため、勝敗はタイヤ、マシンのポテンシャルをどれだけドライバーとチームが引き出せるかにかかっている。スパ24時間でも、メーカーワークス系のドライバーによるコンマ1秒を削る走りが、レース全体の迫力を増していた。
昨年は台風接近により残念ながら実現できなかったイオンモール鈴鹿へのパレードも今季はぜひとも実現して欲しいところだ。ふだんスーパーGTを見慣れた人こそぜひご覧頂きたいGT3ならではの戦い。真夏の世界vs日本のバトルを、ぜひサーキットで目撃しよう。
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