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角田VSローソンの戦いが生む『最高の環境』。多発したペナルティと現行ルールへの疑問【中野信治のF1分析/第19戦】

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角田VSローソンの戦いが生む『最高の環境』。多発したペナルティと現行ルールへの疑問【中野信治のF1分析/第19戦】

 サーキット・オブ・ジ・アメリカズを舞台に行われた2024年第19戦アメリカGPは、スタートで間隙を突いたシャルル・ルクレール(フェラーリ)が今季3勝目/キャリア8勝目を飾りました。

 今回はフェラーリの勝因、多発したターン12でのペナルティ、RBの角田裕毅とリアム・ローソンの戦いについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

「角田裕毅選手をレッドブルに乗せてくれるようにお願いしました」/渡辺康治HRC社長インタビュー(2)

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 第19戦アメリカGPはルクレールが優勝、カルロス・サインツ(フェラーリ)が2位に続き、フェラーリがワンツー・フィニッシュを果たしました。やはり、スタートでルクレールがトップに出たことが、勝利に向けて大きな後押しになったと思います。

 スタート直後の鋭角のターン1でフロントロウ・スタートのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が、ポールシッターのランド・ノリス(マクラーレン)のインに少し強引に飛び込み、ターン1の立ち上がりで2台ともにコース外に出てしまいました。

 その様子を後ろから冷静に見ていたルクレールが、間隙をついて2台を一気にパスしトップにおどり出ました。あれはサーキット・オブ・ジ・アメリカズのターン1ではあるあるのパターンではありますね。

 ただ、今回のフェラーリのワンツー実現はスタートで前に出られたから、だけではありません。フェラーリは6月のスペインGPで新しいフロアを導入しましたが、このフロアは高速コーナーでバウンシングを引き起こしたため、フェラーリはイギリスGPより旧型に戻し、イタリアGPにて再度新たなフロアを投入しました。

 1ストップ作戦を決めてルクレールが勝利を飾ったイタリアGP以降、アゼルバイジャンGP、シンガポールGPと続いた市街地コースではそのフロアの効果が見えにくい状況でしたが、サーキット・オブ・ジ・アメリカズは久々の常設サーキット、かつ高速コーナーも多々あるレイアウトということで、イタリアGPで投入したアップデートが再びうまくかたちとなり、結果に繋がったように見えます。

 フェラーリにしてみれば、シーズンのもっと早いタイミング(スペインGP)で新しいフロアの効果がしっかりと出て、マクラーレン、レッドブルに挑むはずが、バウンシングにより遅れてしまった、という感じでしょうか。もし、スペインGPの段階から現在のフロアが投入されていたら、シーズンの展開も大きく変わっていたかもしれません。

 これまではピーキーさもあったフェラーリの走りですが、アメリカGPの決勝では燃料も積んでいたこともあり、ニュートラルな走りを見せていました(※燃料搭載量の軽い予選ではまだピーキーさが見られた)。ニュートラルにしっかりとよく曲がるので、タイヤに対しても余計な負荷がかからず、フェラーリはいいかたちでマシンの最適化を計ったなと感じます。

 次戦のメキシコシティGPの舞台アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスも、同じく高速コーナーもある比較的スピーディなコースです。それだけに、アメリカGPでワンツー・フィニッシュを果たしたフェラーリは、メキシコシティGPでもマクラーレンやレッドブルにとって怖い存在となりそうです。

 フェラーリはコンストラクターズランキングで暫定2位のレッドブルまで8点差まで接近しています。今季はまだ5戦が残されていますから、レッドブルとフェラーリの逆転の可能性は大いにあります。

■「エイペックスを取った者の勝ち」というルール

 決勝52周目のターン12で、ノリスがフェルスタッペンに仕掛けました。3番手争いを繰り広げる2台はともにコース外に出てしまうなか、フェルスタッペンをかわしたノリスが3番手でチェッカーを受けました。ただ、ターン12のエイペックス(コーナーの頂点)時点ではフェルスタッペンが前にいたため、ノリスに5秒のタイムペナルティが下され、フェルスタッペンが繰り上がりの3位という結果に終わりました。

 エイペックスの時点で前にいた車両がコーナー出口での優先権を持つ、というルールに則った裁定です。ただ、私的には少しフェルスタッペンがやりすぎだったかなという印象を抱きました。フェルスタッペンはこのルールを分かった上で、ターン12への飛び込みでかなりのレイトブレーキングを見せました。

 イン側のフェルスタッペンがブレーキを遅らせるとフェルスタッペン自身、そしてアウト側のノリスはともにターン12を曲がり切ることはできません。2台ともコース外に出てしまうとなると、エイペックスの時点で(レイトブレーキをした)フェルスタッペンが前にいるので、ノリスが譲らなくてはならない。それをフェルスタッペンは理解した上でのアクションだったと思います。

 ルールに則った上ですので、フェルスタッペンが悪いとは言えません。ただ、なにが悪いかと言えば、カバーしきれない部分を残したままの現状のルールが悪いのではないかという気はします。2台ともコースオフするような展開になったとしても「エイペックスを取った者の勝ち」となってしまうのは、今後も尾を引く話でしょう。

 ただ、ノリスに関しては順位を戻すようにマクラーレンが伝えるべきだったと思います。エイペックスを取られているので、ノリスにペナルティが下ることはマクラーレン陣営にとっても容易に想像できたと思います。残り周回数、フェルスタッペンのタイヤのデグラデーション(性能劣化)を鑑みても、一旦はノリスが3番手を明け渡したとしても、もう1度フェルスタッペンに仕掛け、チェッカー前にはノリスが前に出ることはできたのではないかと考えています。

 また、裕毅やジョージ・ラッセル(メルセデス)もターン12のバトルの最中に5秒のペナルティとなりました。ペナルティが複数件出た要因としてはターン12が、サイド・バイ・サイドの際にインを抑える、もしくはインから仕掛けるると曲がりきれないレイアウトのコーナーだからです。

 たとえインにいる自分がコース内に留まることができたとしても、アウト側のライバルはコース外に出てしまう。そういったレイアウトに起因するコースオフにペナルティを課すというのは、少し矛盾していると感じますが、これも現在のルールです。それだけに裕毅へのペナルティはかわいそうだと思いましたし、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)へのアプローチは、決して悪いオーバーテイクではなかったと考えています。

 非常に難しい部分ではありますが、FIA国際自動車連盟がいかに対応していくのかに注目したいと思います。

■角田VSローソンの戦いが生み出す『成長に繋がる最高の環境』

 今回のアメリカGPより、ダニエル・リカルドに代わりRBのステアリングを握ることになったローソンですが、予選Q1では3番手タイムを記録したほか、決勝でも19番手から9位に入賞するなど流れがありましたね。

 スタート直後に大外刈りを決めて順位を大幅に上げることに成功し、それによりハードタイヤを労わることもできました。その上でタイヤマネジメント、ペースコントロールが抜群であり、オーバーテイクの際には絶対に引かない姿勢を見せるなど、自身の強さをアピールしていたことは素晴らしいと思います。

 また、初めてのコースでありながら、スプリント予選SQ1でも裕毅より速く、予選Q1ではフェルスタッペンから0.293秒差の3番手というのは秀逸です。約1年ぶりのレースであそこまでの走りを見せただけに、やはりローソンには高いポテンシャルがあると、いろいろなF1チーム関係者が理解したと思います。

 これで、私的には今まで以上に面白くなると感じています。裕毅とローソンの関係はノリスとオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が既にそうであるように、お互いを高め合う、チームのポテンシャルや成績も高める環境を整えていると思います。

 若手のローソンは『行くしかない』でしょうし、対する裕毅は『ローソンに絶対に負けられない』状況でしょう。この状況が、お互いの能力以上のものを引き出すことに繋がる、最高の環境だと私は考えています。

 裕毅はアメリカGPでは流れがありませんでしたが、部分単位で見るといいバトル、いい走りを見せていました。決して、この1戦だけですべてが決まるわけではないと私は思います。いい部分をポジティブに捉えて、しっかりと次戦に気持ちを切り替えてほしいですね。

 アメリカGPを終えた直後の今は『ローソンはすごいドライバーだ』というふうになっていますが、逆に言えばそこまで評価を上げたローソンを、次のレースで裕毅が負かすことができれば、『やはり角田はいいドライバーだよね』というふうになります。

 人の評価、印象は一瞬で覆るものです。確かに、アメリカGPでのローソンは素晴らしかった。ただ、裕毅との戦いはまだ続いています。そんななかで裕毅にはしっかりと戦い抜いてほしいと思います。

 これが本当の戦いです。裕毅にとっては、リカルドがチームメイトだったころとはまったく違うプレッシャーを抱く戦いとなります。そんなプレッシャーのなかで、どこまで冷静に戦えるかが重要です。

 アメリカGP決勝で見せた単独スピンは、ネガティブなことが起きた際に裕毅が時折放つ無線のような、感情の起伏が走りに出てしまったという印象です。自らのアンガーコントロールを含め、裕毅がもう一段階成長できるか否かは、このローソンとの戦いの最中にわかると思います。もう一段階成長することは、簡単なことではありませんが、そこに至る環境は揃ったなと感じています。

 最後になりましたが、10月11日にハースとTOYOTA GAZOO Racing(TGR)が車両開発や人材育成などにおいて協力関係を結ぶことに合意したという、今後の展開が楽しみな発表がありました。

 おそらくビジネス的な面も含め、我々が窺い知れないさまざまな理由があっての協力関係だとは思いますが、この協力関係により日本の若いドライバーたちの夢がさらに広がったと思います。夢が広がることほど楽しみなことは、他にはありませんね。

 今後のハースとTGRの展開には注目ですし、この協力関係をきっかけに、日本のモータースポーツ界にポジティブな影響をどんどんと与えてくれるようになれば嬉しいですし、そう願っています。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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