この記事をまとめると
■愛らしいスタイリングのダッジA100は伝説的なカスタムカーを生み出したキャブオーバーバン
格式重視の「セダン」と実用性ど真ん中の「トラック」を混ぜるって日本人には意味不明!? シボレー・エルカミーノという衝撃アメ車
■A100の代表的カスタムモデル「デオラ」は、おもかげはタイヤハウスくらいしかない
■ドラッグレーサーにカスタムされたのはウイリー走行距離の世界新記録を持つ「リトルデッドワゴン」
オリジナルはVWタイプ2のようなキャブオーバーバン
日本のバニング文化もどこまで進化していくのか、あるいはどこまでアホらしさを突き詰めていくのか、ほんと楽しみでなりません。が、そんな彼らも参考にしているであろうサンプルは、間違いなくダッジA100でしょう。数々の伝説的なカスタムが生まれ、キャブオーバーバンとしては後発にもかかわらず、いまもって熱烈なファンが大勢いらっしゃるようです。
とりわけ、カスタムコンセプトカーの「デオラ」とドラッグレースのショーカー「リトルデッドワゴン」は、もはや殿堂入りといっても過言ではないでしょう。
そもそもA100は、フォルクスワーゲンのタイプ2がアメリカに上陸した1960年代初頭に開発がスタート。とはいえ、クライスラーは例によってフォード(エコノライン)やシェビーバンに後れを取ること4年、ようやく1964年になってキャブオーバーのA100をデビューさせました。
タイプ2の流行によって、アメリカでも火が付いたのですが、本家はキャブオーバーでなく、キャブフォワード(リヤにエンジンを搭載し、乗員は前方)。これは、リヤに搭載できる適当なエンジンを各社ともラインアップしていなかったことが要因とも言われています。
そして、A100をはじめとしたアメリカ勢はボディタイプもタイプ2を後追いして、サイドウインドウレスの商用バンやキャビン後部を荷台にしたピックアップをラインアップ。A100は2.8リッターをはじめとして、5.2リッターV8まで世代ごとに5タイプのエンジンが搭載されていました。
後発だったことは前述のとおりですが、クライスラーは得意のテレビプロモーションでグイグイA100の人気をあおり始めました。たとえば、テレビ版バットマンでは何度となく登場し、その他のドラマや映画にもプロダクトリプレイスメントをしかけていったのです。
その甲斐あってか、1965年にはデトロイトのマイクとラリー・アレクサンダー兄弟がカスタムカーの製作を決意。当時、盛んだったオートラマ(ホットロッド見本市的なイベント)に出品しようと、デザイナーのハリー・ベントレー・ブラッドリーの協力を仰いだのでした。
そして1967年に完成したのが「デオラ」で、デトロイトのオートラマでは9つの賞を受賞し、ホットロッド界では最高の栄誉とされるリドラー・アワードにまで輝いたのです。
ご覧のとおり、デザイナーをしっかり起用したためか、うっとりするような完成度。オリジンの面影が残っているのは、わずかにタイヤハウスくらいでしょうか。ルーフが低められ、スラントしたスクリーン、そしてモダンなライトハウスなど、ブラッドリーのアイディアがこれでもかと輝いています。なお、フロントスクリーンのガラスは、1960年のフォードステーションワゴンのリヤウインドウからの流用。
また、2.8リッターエンジンは15インチ(約36センチ)後方へと下げられ、3速マニュアルミッションを装備するなど、外観上だけでなくコンポーネントもカスタムされていることは見逃せません。
オートラマ出品後は宣伝好きなクライスラーがデオラを放っておくわけもなく、2年のリース契約を結んで、自社のコンセプトカーと並べて展示したとされています。このことから、デオラはクライスラーが作ったコンセプトモデルと思われがちなのですが、あくまでも作者は一般人、アレクサンダー兄弟というホットロッド大好き人間というわけ。
で、モーターパーク(クライスラーのディーラー)での展示が終わると、兄弟はあっさりデオラを売却。アル・デイビスというコレクターだったようですが、購入後は倉庫で惰眠をむさぼっていたとのこと。次いで、息子の代になってようやく倉庫から引っ張り出され、息子はデザイナーだったブラッドリーにレストレーションを依頼して2002年のデトロイト・オートラマに再び出品したのでした。もちろん、拍手喝采で迎えられたことは言うまでもないでしょう。
また、デオラはマテルのホットウィールシリーズの初期ラインアップに選ばれたことも人気のバロメーターにほかなりません。あろうことか、マテルはデオラIIやデオラIIIまで独自に製作するという熱の入れっぷり。なるほど、実車がオークションで4000万円オーバーで落札されるわけです。
得意技はウイリー走行なリトルデッドワゴン
マテルのホットウィールといえば、A100のもう一台のレジェンドカスタム「リトル・レッド・ワゴン」もミニチュアカーで1・2を争う人気モデル。実車のほうはといえば、これまたドラッグレース界の伝説的な英雄、いいかえればこれほどアホアホなマシンもありません。なんとなれば、ピックアップにもかかわらず、ウィリー走行でギネス記録まで樹立してしまったのですから。
例によって、ことの起こりはドラッグレースでのプロモーションに熱心だったクライスラーがA100をエントリーさせたことがスタート。当初はウィリー走行が目的ではなかったようですが、積んだエンジンが426Hemi ビッグブロックV8となれば話は別。ちょっと後輪荷重にしただけで容易にフロントアップするどころか、どこへ向かっていくかわからないほどのじゃじゃ馬だったとのこと。
このビックリマシンは、当時のスーパーストックカーのチャンピオン、ビル・ゴールデン、通称マーベリックの手にゆだねられることに。もちろん、トルクフライトのミッションとともにエンジンは後方、荷台部分へと移動され、よりトラクションを得られるようカスタムされたほか、荷台下にはスペースフレームが組まれて強大なパワーを受け止める工夫もなされていました。
ドラッグレースのデフォとして、30%のニトロ注入がなされると「前輪が空に向けて発射する」感覚だったとのこと。一度でも、リトル・デッド・ワゴンのスタートを見たことがあれば、それが誇張でもなんでもないことがわかるはず。
1965年、デビュー戦のロングビーチで、マーベリックは1/4マイルを11秒フラットで走破! 到達スピードは120mph(約193km/h)という記録で、しかもウィリー(笑)。ちなみに、マーベリックはウイリー走行中でも正確に操作できるようブレーキなどもカスタムしていたそうです。
とはいえ、やっぱり無茶がたたったのか、数度のクラッシュを起こしたマーベリックはレースシーンからは引退を余儀なくされてしまいました。以後はショービズに徹したかと思いきや、1977年にはギネスに挑戦。1289メートルの距離をウィリーで走破するという偉業なんだかアホなんだかわからないほどの記録をマークしたのでした。
で、こちらもオークションで55万ドル(およそ8000万円)という驚きの高値で落札。もちろん、購入者はアメリカ人のドラッグレース愛好家だったそうです。
それにしても、A100ほどアメリカ人に愛されたバンはないでしょう。アホアホな魅力が受け入れられるという国民性、じつに羨ましいもの。願わくば、日本のカスタムシーンも、A100よりもっとアホアホで、一層カッコよくなってほしいものです。
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