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期待以上の完成度──新型マセラティMC20試乗記

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期待以上の完成度──新型マセラティMC20試乗記

マセラティの新型スーパースポーツ「MC20」に、渡辺慎太郎がイタリアで試乗した。新型コロナ禍のなかおこなわれた国際試乗会の模様をリポートする。

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マセラティが昨年突如世に放ったスーパースポーツが果たしていかなるものかという興味はもちろんあったけれど、コロナ禍における国際試乗会のオペレーションはいまどうなっているのかも大いに気になるところだった。

そもそも渡航するこちら側も普段より色々とやるべきことが多かった。出国前にPCR検査を受けて英文の陰性証明書を手に入れ、搭乗前とトランジットのフランクフルト空港で提出を求められる。5月17日現在、ドイツはトランジットでもPCR検査の検体採取は48時間以内と定められているので、逆算して出国ギリギリの検査だった。帰国してもすぐに帰宅はできず、強制的に3泊4日のホテル隔離になった。入国時とホテル退所時にPCRを受け、陰性であれば晴れて帰宅できるが入国時から換算して14日間は自宅で自主隔離しなければならない。

現在イタリアは、滞在が72時間以内であれば現地での14日間隔離が免除されるので、久しぶりのミラノ・マルペンサ空港から直接、試乗会場のモデナへ向かった。通常、国際試乗会は1泊2日が1セットで、世界中からメディアが10数名集まり、1台のクルマをふたりでシェア。これを約1カ月間繰り返す。

が、今回、1セットで参加するメディアはたった3名。クルマはひとりに1台が供された。到着時の夕方にはふたたび自身もPCR検査を受けた。試乗会スタッフには2日に1度のPCR検査を義務づけているという。試乗会中は常にマスク着用とソーシャルディスタンスの確保、クルマを降りるたびに車内を消毒するなど、とにかく感染症予防対策は徹底していた。ふたりで1台の場合、試乗時間は半分になってしまうが、今回は結果としてひとりで存分にMC20をドライブできたし、アジアからの参加者は中国を含めて期間中自分ひとりだけだったという。コロナ禍も、その意味では、悪いことばかりではなかった。

社運を賭けたスーパースポーツ

MC20は「マセラティ・コルセ2020」の略。昨年デビューしたこのスーパースポーツは、電動化も見据えた新生マセラティの試金石となる重要なモデルだ。MC20は2022年、ピュアEV(電気自動車)の追加がすでに発表されているし、本社工場を刷新して生産ラインだけでなくペイントショップやエンジン工場も新設している。莫大な投資をおこなった、まさに社運を賭けたスーパースポーツなわけで、厳しい状況下でも試乗会を敢行したのはそんな理由もあったのだ。

スタイリングからも容易に想像がつくよう、MC20はミドシップレイアウトである。バタフライドアを採用するなどいかにもスーパーカー的ルックスであるものの、実は機能優先のデザインになっている。

ミドシップは車両中心近くに重量物のパワートレインがあるのでヨー慣性モーメントの観点では有利になり、回頭性は自動的にある程度よくなるいっぽうで、場面によってはフロントの荷重が物足りなくなる。そこでフロントのダウンフォースが稼げるよう空力に考慮したデザインとしたのだ。

フロントのダウンフォースを上げたらリアとのバランスを取る必要はあるが、そこは成り行きでうまくいき、結果としてリアに大きなウイングを背負う必要がなくなったそうだ。フロントの開口部にはエンジン冷却用、リアフェンダー上部の開口部にはターボ冷却用のラジエターがそれぞれ仕込んである。

サイズがほぼおなじフェラーリ「F8」はV型8気筒を搭載しているが、マセラティはあえてV型6気筒で勝負に出た。3.0リッターのV型6気筒ガソリンツインターボは、90度のバンク角とドライサンプで重心をさげている。さらにふたつのターボもバンク内ではなく両サイドの下側に配置し、とにかく重心を可能な限り下げる努力がなされていた。

「ネットゥーノ(英語で“ネプチューン”)」と、名付けられた新開発のエンジンは、プレチャンバーを採用している点が技術的ハイライトである。プレチャンバーとは副燃焼室の意味で、シリンダー上部にごく小さい燃焼室を持ち、そこでプラグで混合気に点火して火炎をシリンダー内へ送り込むという仕組み。シリンダー内にプラグで点火する通常燃焼がマッチで薪に火を付けるとするならば、プレチャンバーはターボライターで火を付けるような感じである。よって燃焼効率とレスポンスの向上が期待できる。ネットゥーノは通常燃焼でもまわるので、状況に応じてプレチャンバーと使い分けているそうだ。

燃料供給はポート噴射と直噴のデュアルイグニッション方式だから、このエンジンはV型6気筒であるもののスパークプラグとインジェクターがそれぞれ12本あることになる。構造的にも複雑で制御も難しいプレチャンバーを採用したことで、最高出力630ps/最大トルク730Nmのパワースペックを達成した。これはフェラーリF8のV型8気筒ガソリンターボの720ps/770Nmと比べても、大きく見劣りする数値ではなく、それよりもコンパクトで、かつ経済性にも有利なV型6気筒をあえて選んだ成果をきちんと出している。なお、これに組み合わされるトランスミッションは8速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のみとなる。

乗り心地がすこぶるいい

バタフライドアを開けてサベルト社製シートに収まる。室内に広がる風景はこれまでのマセラティとはまったく異なるもので、機械式スウィッチの数が最小限になっている点が目新しい。エアコンを含むほとんどすべての機能は、中央に設置された10インチのタッチ式液晶パネルで操作する。

センターコンソールにはダイアル式のドライブモード・スウィッチとボタン式のトランスミッション切り替えスウィッチ、パワーウインドウスウィッチなどが備わる。ステアリング・ホイールにはエンジンスタート/ストップとローンチコントロール用のボタンがあって、ローンチコントロールはドライブモードで「CORSE」を選ぶと使用出来る。

試乗は一般道を走ってモデナ・サーキットまで行くルートで、そこで5ラップが許された。試乗前のカンファレンスで「女性でも運転できるようにした」と、言っていたけれど、こんな格好をしたスーパースポーツで果たしてそんなことが可能なのかと若干疑っていた。

ところが実際にはあまりの乗りやすさに驚いてしまった。ステアリングやペダルの操作荷重は適正だし、ドライバーの入力に対するクルマの反応は決してナーバスではない。コントロール性が高く、モデナ近郊の道幅の狭いところでも、1965mmの全幅に臆することなく車線内を簡単にキープできる。

そしてなにより乗り心地がすこぶるいい。サスペンションは前後とも5リンク式で、これに電子制御式ダンパーと金属ばねを組み合わせている。乗る前にチラ見したタイヤ(ブリヂストンの専用設計タイヤ)は前後とも20インチの245と305で、ばね下はそれなりに重いはずなのにバタつきはほとんどなく、フラットライドに近い乗り心地を実現している。ドライブモードを「SPORT」にするとそれなりに硬くなるが、サスペンションだけ「SOFT」を選べばデフォルトモードの「GT」とおなじ減衰力になるのはありがたい。確かにこれらならスポーツカーに不慣れな人でも運転を楽しめるだろう。ただこの格好のせいでそれなりに緊張してしまうだろうけど。

驚きの完成度

実は一般道で、ネットゥーノの特徴がよく分からず「これならフツーのV型6気筒と大差ないかも」と、悶々としていたが、サーキットに滑り込んだ途端、霧が晴れたかのようにネットゥーノがその本領を発揮した。

一般道では(当然のことながら)法定速度を厳守して走っていたので、スロットルペダルの踏み込み量は20%くらいの低負荷領域しか使っていなかった。

いっぽうサーキットでは全開と全閉を繰り返すわけで、全開のときのレスポンスがまさに電光石火で、一瞬にしてタコメーターの針が跳ね上がり、それにシンクロしてパワーが創出されていく。おそらく、プレチャンバーは高負荷時に作動しているのだろう、と推測した。パワーデリバリーに遅れがないと運転のリズムが乱されないから、ステアリング操作に集中できる。

センターコンソールの後ろ付近に回転軸があって、そこを中心に向きを変える特性は典型的なミドシップの所作であるが、4輪の接地感が素晴らしい。「CORSE」を選んで意図的にリアを振り出そうとしてもなかなかグリップを失わないし、オーバースピードでコーナーへ進入してもフロントはアウト側に逃げようとしない。限界域が想像以上に高く常にタイヤをしっかり使えるセッティングになっていた。

オーバーステアに持ち込んでも前兆からはっきりとドライバーに伝わってくるので準備ができるし、カウンターステアを当ててからのコントロール性も申し分なかった。マセラティには申し訳ないけれど、ここまでの完成度は期待していなかったのでただただ感動するばかりであった。

これならきっとBEV版も悪くないはずである。新生マセラティはこれからの時代でもしっかり生き残っていくであろう、華々しいスタートを切ったのであった。

文・渡辺慎太郎

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